第33話 屋上って青春なのか?
「……あっ、学校に行かないと遅刻しちゃいますね」
今、登校中ということを思い出した静香はメアリーから離れる。
このまま抱かれていて遅刻なんてしたら、間違いなく天音にからかわれる。
「そ、そうだな」
同意するメアリーだったが名残惜しそうな表情をしていたのは気のせいだっただろうか。
その後、学校に着き昇降口で外靴から上履きに履き替えている時、月と出会う。
「「あっ……」」
静香と月の声がハモる。
運が良いのか悪いのか。こんなにも早く出会うなんて思っていなかった。
静香的には教室に入って月と出会う、もしくは教室に入ってしばらくした後に月が教室に入ってくるタイミングで出会うと思っていた。
「……あいたたた、急にお、お腹が、痛くなってきた。これは生理かもしれぬ。そうだ生理だ。だから我は一足先にトイレに行ってくる」
気を利かせて静香と月を二人っきりにさせようとしているのか、下手な芝居をうちながらメアリーはトイレに行ってしまった。
生理ごときの痛みでいたがるほど、メアリーは軟弱ではない。
本当に嘘が下手である。
「「……」」
昇降口に残される二人。
気まずい空気が流れる。
「「あ、あの~」」
静香と月の言葉が交通事故を起こす。
「る、月ちゃんからどうぞ」
「静香ちゃんの方が先だったし、静香ちゃんからで良いよ」
「「……」」
お互いに譲り合う二人。
そしてまた沈黙が流れる。
「おっ、お二人さん。もう仲直りできたんだね。良かった良かった~」
二人で昇降口で固まっていると天音の能天気な声が聞こえて静香と月は肩を抱かれる。
「おはようございます静香、月。もう仲直りができたんですね。それは良かったです」
後ろに帆波もいたらしく、安堵した表情を浮かべている。
もちろん、仲直りはできていない。
そのせいで、静香も月も気まずくて目を合わせることができず、違う方向を向く。
「……天音、もしかして私たち勘違いしてませんか」
「まさか~。だって二人でいるんだし、もう仲直りなんて終わってるよ~」
「「……」」
「……あれ? もしかして私の早とちり?」
二人が視線をそらしたことに気づいた帆波は恐る恐る天音に尋ねる。
天音はそんなわけないとケラケラ笑っていたが二人が目を合わせない姿を見て、自分が早とちりをしていたことに気づく。
「……よし、もうこうなったらここで仲直りをしよう。うん、そうしよう~」
やけくそなのか、強引に二人を仲直りさせようとする天音。
その瞬間、ホームルームの予鈴が鳴る。
「運が悪いですね。このまま昇降口にしても遅刻になるのでまずは教室に行きましょう」
ホームルームの予鈴に帆波は悪態を吐く。
帆波の言うとおり、学校の中にいるのに遅刻扱いされるのは心外である。
静香たちはとりあえず、遅刻にならないように急いで教室に向かった。
ちなみにメアリーはもうすでに教室におり、静香たちのことを待っていたが、静香たちの表情を見て失敗を悟ったのか沈んだ表情を浮かべていた。
その後ことごとくタイミングが会わず、放課後を迎えてしまった。
こういうのは一度タイミングを逃すとだんだんやりづらくなるものだ。
「はーい、静香と月はここにしゅーごー」
タイミングが会わないなら強引に二人を引き合わせれば良いと考えたのか、天音は二人を呼びつける。
「……凄く強引なんですから」
強引な天音に帆波は呆れていたが、むしろ静香的には嬉しかった。
誰かが強引に月と引き合わせてくれなかったら、今日は月と話せなかったかもしれない。
「全く二人とも、こんな仲直りなんてできないよ」
天音に優しく怒られる二人。
天音に正論を言われ、図星を突かれた二人は俯く。
「とっととお互いの気持ちをぶつけて仲直りしようよ。それじゃー屋上にしゅっぱーつー」
天音は俯いている静香と月を強引に背中を押しながら屋上へと向かう。
「どうして屋上なんですか」
「青春と言ったら屋上でしょ」
ごく自然な疑問を質問する帆波に、可愛らしくウインクをしながら天音は答える。
だいぶ天音はアニメやマンガ、ライトノベルの影響を受けているらしい。
「屋上って青春なのか?」
七百年生きているメアリーですら、分からない様子だった。
その後、静香は強引に屋上に連れてこられた。
静香たちが通っている高校は屋上が解放されているため、自由に屋上を使用することができる。
「ほら、お互いに言いたいこと言っちゃいなよ~。私たちはここにいるからさ~」
屋上の真ん中に二人を連れてくると、天音はニヤニヤしながら少し離れたところに移動する。
「静香の気持ちは聞いていますが月の気持ちは聞いてません。私も月の気持ちが知りたいです」
「月。今、お前が思っていることをこいつらに伝えてやれ。きっとこいつらだったら月の気持ちが伝わるから」
どうして月があんなことを言ったのか、聞いておきたい帆波。
月とメアリーの間にもなにかあったらしく、メアリーは月を激励する。
三人がここまで静香たちのことを思ってくれている。
それがとても嬉しくて同時に勇気がわいてくる。
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