第32話 ……朝の健康診断

 ここからは余談だがこの話には少しだけ続きがある。


「……あれ……もう朝かな」


 日差しが瞼に当たり、光を感じた静香の体は起床モードに移る。


 あれ、なんだか体が少し寒い。


 頭が少しずつ動き始めると、体が少し冷えていることに気づく。


「さぁーってと静香は朝勃ちしてるかな~」

「……な、なにしてるの天音ちゃん。そんなところまじまじと見ないで」


 自分の体の上に布団がないことに気づいた静香は慌てて布団で自分の体を隠す。

 静香の下半身の方向には天音がニヤニヤしながら静香の下半身を凝視していた。


 ただの変態で馬鹿である。


 例え同性であっても、いきなり朝、朝勃ちしているか股間を見られたら誰だって恥ずかしい。


「う~ん。残念。勃ってなかった」


 静香の股間が勃っていないことが残念だったらしくため息を吐く。

 ため息を吐きたいのはこっちの方である。


「それじゃー帆波はどうかな~。いつも真面目な分、こっちは不真面目だったりして~」


 静香の朝勃ちを諦めた帆波は、ターゲットを静香から帆波へと移す。


 普通の静香だったらここで天音を止めにかかるが、寝起きということもあり頭がまだ働いていなかった。


 そのため、天音の愚行を止めることができなかった。

 天音はニヤニヤしながら帆波の布団をはがす。


「……ん」

「どれどれ~、真面目な帆波の朝の股間は真面目かな~。それとも不真面目かな~」


 布団をはがされた帆波は寒さと窓から入る日差しにより目が覚める。


 だが寝起きということもあり、まだ寝ぼけている顔だった。


 そこに好機を見出した天音はニヤニヤしながら帆波の股間を凝視する。


「誰も朝勃ちしてないのかよー。誰か朝勃ちしてくれよー」


 結果は朝勃ちしていなかったらしく、なぜか天音は悔しそうだった。


「……天音、一体なにをしているのですか」


 帆波は寝起きが良いらしくすぐに、現状を理解する。

 さすがにあんなに大きな声で騒いでいたら目も覚めるだろう。


「……朝の健康診断」

「なにが朝の健康診断ですかっ。いい加減にしてください」

「あっいたっ」


 とても可愛らしく言いわけをした天音だったがそんなこと帆波に通用するわけもなく、怒られた。


 天音は思いっきり穂波に頭を殴られたようだが自業自得である。


 いくら友達でも朝勃ちしてないか、朝布団の中を見るのはマナー違反である。


 さすがに静香も今回に関しては軽蔑してしまった。




 週末が明けて月曜日。


 土日挟んだおかげで体はたっぷりと休養を取ることができた。

 それにも関わらず、月曜の朝から静香の体は疲弊していた。


「……どうやって月ちゃんに話しかけよう」

「どうしたんだ静香。なにか困りごとか」


 いつも通りメアリーと一緒に登校していた静香は通学路にため息をこぼす。

 困っている静香を心配したメアリーが静香に話しかける。


「こないだの金曜日、月ちゃんと険悪なムードになったでしょ。私、このままじゃ嫌だから仲直りしたいんだけどどうやって話しかければ良いのか分からなくて」

「ふむふむ、なるほどな。普通に話しかければ良いのではないか」


 この時、自分でもどうして素直にメアリーに相談できたのか分からなかった。


 つまり、静香は無意識にメアリーのことを信頼していたのだ。


 メアリーは小さく頷くとあっけらかんな顔で答えた。


「それができたら苦労しないですよ。もし月ちゃんに無視されたら、もう話しかけてこないでって言われたら。そんなこと言われたら立ち直れません」

「そんなこと言われないと思うぞ。月はそんな女の子じゃないだろ。それに月もきっと静香と仲良くしたいと思っているはずだ。これはあくまでも我の勘だけど。我の勘だからな」


 メアリーに言われるまでもなく、そんなことができたら簡単だ。


 でももし、無視されたら、ますます仲が悪くなったら。


 金曜日の夜、仲直りの決意をしたはずなのに不安になってきた。


 メアリーは静香のことを励ましているが、なにかマズいことを言ったのか最後の方はやけに動揺していた。


 本当にメアリーの嘘は分かりやすい。


 きっとメアリーは月に相談でも受けたのだろう。


「ありがとうございますメアリーさん。少しだけ勇気が出てきました」

「それは良かった。大丈夫だ。もし失敗しても我は静香の味方だ。もうどこにもいかないから安心しろ」


 励まされた静香はメアリーにお礼を言う。


 メアリーはさらに静香を安心させようと静香を自分の胸へと抱き寄せる。


 相変わらず大きくて柔らくて、弾力のあるおっぱいである。


 最初出会った時、メアリーに抱きしめられたがその時は興奮よりも嫌悪感の方が強かった。


 でも今はなぜかあの時のような嫌悪感はなく、安らぎだけがあった。


「……少しは我も受け入れられているのかな」


 メアリーがなにか呟いたが、体を密着しているほど近くにいるのにも関わらず聞き取ることができなかった。


 もしかしてそれはメアリーに抱かれて安心しすぎていたせいかもしれない。

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