第16話 異性だと気を遣う?

「はぐらかしちゃって~。本当は女の子のおっぱいに興味津々なくせに~」

「朝からなにを話してるんですかっ。校門前で女性の胸の話をするなんて、恥を知りなさい」


 怒られても攻撃の手を緩めない天音に、たまたま通りかかった帆波が顔を真っ赤にして怒り出す。


 いつの間にか校門まで来ていたようだ。


「あっ、やばっ」


 さすがの天音も口うるさい帆波に見つかり、青ざめている。


 自業自得である。


「帆波も男の娘なんだから、女の子のおっぱい好きでしょ」

「好きか好きではないか関係ありません。公共の場でそんな話をしてはいけません。良いですか、公共空間とはですね――」

「急に用事を思い出した。それじゃーまたー」


 乳上げをして色っぽく上目づかいで帆波を懐柔しようとするものの、そんなことで懐柔される帆波ではない。


 帆波が説教を始めると、わざとらしい言いわけをしながら天音はその場を離脱する。


「……全く天音は」


 そんな天音を見ながら帆波はため息をこぼす。


「君たちはとても仲が良いんだな」


 一連のやり取りを見ていたメアリーは感心していた。


 本当に天音は自由だなと静香はメアリーとは違うことにある意味感心をしていた。




「静香たちのグループって月だけが女の子なんだな」


 休み時間。


 それはメアリーの何気ない言葉だった。


 だからそこに悪意はない。


 一瞬、月の体が震えたような気がした。


「確かに言われてみればそうだけど、そんなこと気にしたこともなかったな~」

「珍しく天音の意見に同意します。そんなこと今まで気にしたことありませんでした」

「友達になるのに性別とか関係ないしね」


 確かに月だけ異性だが、別にそんなことここにいる男子は誰も気にしてはいなかった。


 友達になるのに男子だろうが女子だろうが性別は関係ない。


「それがどうかしたんですか」


 月のことを悪く言われたと思ったのか、帆波の口調が厳しい。


「別に他意はない。ただ思春期の人間は異性よりも同性とつるむ方が多いと本に書いてあったから不思議に思っただけだ」


 メアリーは女の子の月が一人、男子のグループにいることが意外だったらしい。


「確かに同性グループの方が多いもんね~、高校生は」


 間延びした声で天音はメアリーの言葉に同調する。

 教室を見回しても異性よりも同性同士と話しているグループの方が多い。


「確かに異性よりも同性の方が仲良くなりやすいは事実ですが、異性と仲良くなりにくいということではありません。ただ同性の方が仲良くなりやすいというかまず話しかけやすいですね」


 帆波の言うとおり、異性だからと言って仲良しになれないわけではない。

 ただ異性よりも同性の方が話しかけやすいのもまた事実だ。

 自分と同じ性別というだけで、話しかけるハードルが下がる。


「静香はもし女子グループ三人に静香だけだったらどうだ?」

「う~ん。別に仲良かったらなんとも思わないけど、男子よりかは気を遣うかも」


 メアリーの質問に、静香は少し考えたが素直な気持ちを伝える。


 例えば、このグループが静香以外女の子でも今のような関係になっていたと思う。


 だが、自分以外が異性だった場合いくら仲が良くても同性よりは気を遣う。


「天音や帆波は?」

「私は男とか女とか、そんなこともう意識してないからなんとも思ってないよ~」

「私もです。別に男子とか女子とかあまり意識していません。でも同性より異性の方が気を遣うという静香の気持ちも分かります」


 メアリーは静香と同じ質問を天音や帆波にもする。

 天音はもう悟りを開ききっているのか、性別なんて意識していないらしい。


 一方帆波は、静香と同じように友達になるのに同性とか異性とか関係はないと言っているが、それでも異性の方が気を遣うらしい。


「そういうメアリーはどうなの? 異性だと気を遣う?」

「昔は意識していたがもう我も七百歳を超えたからな。若いもんのようにそんなの意識してはおらぬ」


 今まで質問していた側のメアリーが天音の一言で質問される側に回る。

 メアリーも天音と同じように相手の性別なんて気にしていないらしい。


 それにしてもメアリーはまだ七百歳という設定を続けるらしい。


「月はどうなんだ。男子のグループに女子一人って気まずくないのか?」


 今まで意識して来なかったがメアリーの言うとおり、静香からすれば男女混合グループだが、月からすれば全員が異性ということになる。


 当たり前といえば当たり前だが、すっかり盲点だった。


「べ、別に気まずくはないですよ。それに静香ちゃんも帆波ちゃんも天音ちゃんも良い人だし、話しやすいし、居心地も良いですよ」

「やっぱり私、月好きだわ~」

「あ、天音ちゃん」

「いきなり月に抱き着いてはいけません天音。月も困っているでしょ」


 静香の心配は杞憂だったらしく、月はこのグループが居心地が良いと言ってくれた。


 それはお世辞とかではなく、心の底から言っているようだった。


 それが嬉しかった。


 嬉しさが爆発したのか天音は異性にも関わらず、月に抱き着く。


 月は驚いた声を出していたが、別に嫌がってはいないようだった。


 いきなり異性に抱き着いた天音に帆波は注意するが、天音はヘラヘラ笑っている。

 全く反省していない顔である。

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