第二章 初めての高校生
第14話 月と静香との出会い
月は女子でありながら女子が苦手だった。
女子は男子とは違い、よく群れ、みんな一緒ということを強制してくる。
一般的にはそれを派閥と呼び、自分以外の派閥の女子を毛嫌う傾向がある。
だから女子はほとんど自分以外の派閥の女子とは話さない。
そういう派閥が月は苦手だ。
月はそんな女社会を上手く生きていくことができず、中学生の頃はボッチだった。
それはそれで楽なのだが、他の女子から陰口が聞こえてくると胃が痛くなった。
本当に女は面倒くさい。
どうして自分以外の派閥を毛嫌いするのか。
どうしていつも一緒にいなければならないのか。
それが月は理解できない。
それに、派閥内でも序列があり、同じ派閥であっても上下関係がある。
本当にくだらないと月は思う。
男子のように仲良くなりたい人と仲良くなれば良いと思う。それが自分がいつもいるグループではない別グループだとしても。
だから月は高校でも、ボッチで良いと思っていた。
高校なんて所詮、高校卒業証明書をもらうための場所でしかない。
別に友達を作る場ではない。
だから月は高校でも友達を作る気はなかった。
「ここ、どこだろう」
入学式初日。
中学とは比べ物にならないぐらい広い高校の敷地内で月は迷子になっていた。
「高校の敷地内で迷子って、凄く恥ずかしい」
周りにはチラホラ学生たちがいるのだが、在校生もいるのかみんないろいろな場所に向かっている。
引っ込み思案の月にとって知らない人に道を聞くのはかなりハードルの高いことだった。
「すみません、もしかして道に迷ってますか?」
「えっ……。あっ、はい」
あまりにも挙動が変だったらしく、知らない生徒が月に話しかけてきた。
先輩だろうか。
月は緊張百パーセントの声で返事をする。
「そうなんですよね。高校って広いですよね。もしかして新入生ですか?」
「はい、そうです」
「そうなんだ。私も新入生なんだよ。だからそんな畏まらなくても大丈夫だよ」
「はい……あっ、うん」
「私、石川静香って言います。同じクラスだと良いね」
月に話しかけて来た生徒は先輩ではなく同級生だったらしい。
静香という男の娘は月が同級生だと分かると、緊張していた表情がほぐれ柔和になる。
「私は日下月って言います」
「日下さんってルナって言うんだね。なんか可愛い」
「えっ、か、可愛い……」
自己紹介されたので月も自己紹介をすると、月という名前が可愛いらしく静香は目を輝かせる。
初めて自分の名前を『可愛い』と言われた月は反応に困る。
別に嫌ではない。
むしろ、嬉しいのだが戸惑いの方が勝ってしまい、上手く返すことができなかった。
その後、静香が案内してくれたおかげで無事入学式に間に合った月。
これが月と静香の出会いだった。
もし、ここで静香と出会っていなかったらきっと月は高校でもボッチだっただろう。
だから月は静香に感謝をしている。
あの時、月に話しかけてくれて。
そして今も友達でいてくれて。
その後、月は帆波と天音とも友達になる。
他人といてここまで心地が良いのは初めてのことだった。
それはもしかしたら三人とも男の娘で、女の子ではなかったからかもしれない。
だから三人が男の娘で良かったと思う反面、不安なこともある。
それはあの中で、月だけが女の子ということだ。
同性と異性では明らかに縮められる距離が違う。
当たり前だが同性の方が異性よりも距離が縮めやすい。
だから、月は自分だけ少しずつ三人と距離が離れていくのではないかと三人と一緒にいられて楽しい反面、不安を募らせていた。
自称吸血鬼の女性がクラスメイトになった。
この時点で静香は考えるのを放棄した。
自分のことを吸血鬼と自称し、しかも明らかに高校生に見えない女性が静香のクラスに編入してきた。
学校側が編入手続きしている以上、異議を唱えるつもりはないが腑に落ちない。
「おはよう静香」
「おはようございますメアリーさん」
家を出ると当たり前のようにメアリーが立っていた。
まるで西洋人形のように美しいメアリーはただ立っているだけでも目立つ。
メアリーが静香たちの高校に編入してから、メアリーは毎日のように静香を迎えに来ている。
「高校生というものはこんなにもキツキツの服を着ないといけないのか」
発育の良い体をしているメアリーにとって胸元が閉まっているセーラー服は着辛いらしい。
そのため、メアリーの胸がセーラー服からあふれ出して谷間が見えている。
静香だって男の娘だ。
女の子の、しかも豊満な胸が目の前にあったら意識してしまう。
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