第13話 転校生

「大丈夫大丈夫。月以外の女の子にはしないから」

「そういう問題ではなくてですね」


 天音と帆波はまだ言い争っているみたいである。


 その後、チャイムがなり自分の席に座り、先生が教室に入って来て、ホームルームが始まる。


「えぇー、突然ですがこのクラスに転校生が来ることになりました。それでは教室に入ってきてください」


 あまりにも突然のことに、静香はクエスチョンマークを頭の上に浮かべる。


 先生の言うとおり、あまりにも突然すぎる。


 昨日までそんな予兆はなかったはずだ。


 他のクラスメイトもいきなりの転校生に気分が高揚しているらしく、近くの子たちとヒソヒソ話を始める。


 ただ一人、天音だけはまるで全てを知っているかのようにニコニコしていた。


 先生に呼ばれ、転校生が入ってくる。


 その瞬間、静香の息が止まった。


 スラリと高い身長。


 制服の上からも分かる胸の豊満さ。すでに胸がセーラー服からあふれ出している。


 西洋人のように美しい髪の毛。


「えっ、すごく綺麗」

「背、でっけー」

「外国の方かしら。とても美しいわ」


 教室から黄色い歓声の声があがる。


「メアリー・ブラッドリーだ。高校生は初めてだがみんな、よろしく頼む」

「ブラッドリーさんは海外の人のため日本の文化や学校には不慣れです。みなさん、ブラッドリーさんのフォローしてあげてください。ブラッドリーさんも分からないことがあったらクラスメイトに聞いてくださいね」

「分かった、感謝する」

「ブラッドリーさんの席は窓側の一番奥ですね。石川さんの隣ですね。まだ教科書は届いてませんので石川さんに借りてくださいね」

「分かった」


 教卓前で自己紹介した生徒は、昨日静香のことを静江だと勘違いをしていたメアリーだった。


 声は上げなかったものの、静香は心底驚愕した。


 それは静香だけではなく、月も帆波もそうらしく目を見開いて驚いている。


 一番はしゃぎそうな天音はニヤニヤしながらメアリーを見ている。


 先生に案内されたメアリーは静香の隣の席にやってくる。


「今日から我も高校生だ。よろしくな静香」

「よろしく……ってメアリ―さんってどう見ても高校生じゃないですよね。どうして高校生になってるんですかー」

「高校生になってみたいからなっているのだが。それに天音にも誘われたしな」

「天音。これはどういうことですか。私たち、全く聞いていなんですけど」

「うん、だって言ってないからね」

「メアリーさんって絶対十代じゃないですよね」

「うろ覚えだが、確か今は七百十四歳だった気がする」


 昨日赤い色のドレスを来て現れた女性が、今度は女子高生のコスプレをしてやって来た。


 昨日の印象から高校生には見えなかったため、制服を着てもただのコスプレにしか見えない。


 メアリーが言うには高校生になりたかったから高校生になったらしいが、意味が分からない。


 なりたいからなれるものでもないような気がする。


 静香が天音に問い詰めるも、天音は軽い感じであしらう。

 明らかに十代に見えないメアリーの年齢を聞く月に、メアリーは意味不明な答えを返す。


 さすがに七百十四歳は盛りすぎである。


 人間、そんなに長生きはできない。


 それに、明らかに十代に見えない女性が高校生をしていることに疑問を持たないどころか、入学手続きまで済まされている。


 明らかにおかしい。


「どうやって入学したんですか。絶対、普通の方法では入学できないですよね」

「まぁー、それは、なんだ。企業秘密だ」

「それ絶対、違法な手段使いましたよね」


 もし静香が学校の先生だったら素性も知らないメアリーを入学なんかさせない。

 その秘密を問いただそうとした静香だったが、メアリーに答えをはぐらかされてしまった。


 こんなにも自身がないメアリーは初めてある。


 その後、よほど違法な手段を使ったのかメアリーは罰の悪い表情を浮かべるだけで口を割ることはなかった。


 高校二年生の春。


 自称吸血鬼がクラスメイトになった。


 きっとこの日から、静香の平穏な日常は終わっていたのかもしれない。


 でも、まだこの時の静香はそのことに気づいてはいなかった。

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