第11話 せいしゅん? それはなんなんだ。おいしいものなのか?

「静江が見つかるまでの暇つぶしだと思ってね。私も静江探し手伝ってあげるからー」

「……背に腹は代えられぬか。分かった、別に良いだろう」

「やったー。これからよろしくねメアリー」


 しつこいほどウザい天音の勧誘に断り続けるのが面倒だったメアリーは折れた。


 それに人探しは数が多いほど見つかる可能性は高くなる。


 それに加え、同族の友達ならいろいろと悩みも話せるし、基本死なないため半永久的に一緒にいることができる。


 三百年前、人間の男の娘に出会い、そして死に別れたことによって、メアリーは死んだらもう二度と会えないことを学んだ。


 死んだらもう二度と出会えない概念は、不老不死の吸血鬼にはなかった概念だ。


「そうだ。せっかくだからメアリーも高校生にならない?」

「こうこうせい? それは昼間天音がしていたものか?」

「そうそう。ずっと静江ばかり探していたら気が滅入るでしょ。だから少しは気分転換しないと。精神的に大変だよ。それに高校生になれば青春を味わえるし」

「せいしゅん? それはなんなんだ。おいしいものなのか? それとも面白いものなのか?」

「う~ん。具体的に言われると困るけど、吸血鬼社会では味わえないほど甘美なものだよ。私が何百回もなっちゃうぐらい」

「ふむ。……ってそんなにかっ。そう言われると気になるな」

「でしょでしょ。人間の子供たちが友達や勉強、恋をして大人になっていく姿を見てると胸がキュンキュンしちゃうんだよ」

「なるほど。あまり分からないが楽しそうな雰囲気だけは伝わった」


 いきなり天音に高校生にならないかと言われて困惑するメアリー。


 そもそも吸血鬼社会に高校生という概念はない。


 高校生を知らないメアリーに天音が高校生のことを教えるが、やはりメアリーには通じなかった。


 天音はこれまで何百回も高校生になり、人間を観察し、青春というものを堪能してきたらしい。


 天音の言っていることはほとんど分からないが、不老不死の吸血鬼にとって時間というものは無限にある。


「それに高校生になれば、もっと静香と仲良くなれるよ」

「別に静香は静江の生まれ変わりではないのだから関係ないだろ」


 なぜここで天音の口から静香のことが出てくるのか分からなかった。

 もう静香は静江の生まれ変わりではないということが分かったのだから、これ以上、メアリーが静香に固執する理由がない。


「別に静江の生まれ変わりじゃないから仲良くなってはいけないという決まり事はないよ。それに静香と話しているメアリーはとても楽しそうだったよ。私や他の人と話している時よりもね」


 天音の言うことも一理あり、別に静香が静江の生まれ変わりではないからと言って仲良くしてはいけない決まりなどない。

 それに天音視点、静香と話しているメアリーはとても楽しそうな表情をしていたらしい。


「確かに静香との会話は楽しかったが、静江の生まれ変わりでない以上、我が静香と話す理由はない」

「理由とかじゃなくて、メアリーはもっと静香と仲良くなりたいと思っていないの? 静江との生まれ変わりかそうでないかを抜きにして」

「……」


 天音の言うとおり、静香との会話は楽しく、静江と話しているかのような安心感があった。


 でも静香は静江ではない。


 そのため、もうメアリーに静香と話す理由がない。


「それは確かに、楽しくなかったと言えば嘘になる」


 天音の問いにメアリーはすぐに返事をすることができず、一拍間が空く。

 メアリー自身も分からないのだが、静香と話していると静江と話しているのかと思うぐらい楽しくて幸せだった。


「なら決まりだね。メアリーも一緒に高校生になって静香たちと友達になろう」

「待て、別に我は高校生になるとも静香と友達になるとも言っておらん」

「手続きはしておくから、明日学校に来てね~制服も持っていくから~」

「おい待て。勝手に決めるな」


 メアリーの意思を確認すると天音は強引に話を進める。

 そもそもメアリーは高校生になるとも、静香と友達になるということも承諾していない。


 天音を引き留めようとするものの、天音は聞く耳を持たない。


「まぁーまぁー、たったの二年間だけだから。それに一度は高校生を体験するのも悪くはないと思うよ」

「……まっ、二年間だけなら」


 天音はどうしてメアリーを高校生にしたいらしく、メアリーの説得を続ける。

 高校生には興味がないが、もし静香とまた話せるならそれはそれで悪くはないだろう。


 それにたったの二年間だけなら、すぐに終わる。


 人間の、特に高校生の二年間はとても貴重なものだが、悠久の時間を生きる吸血鬼にとって二年間は、取るに足らない時間である。


 メアリーは、あまり乗り気ではなかったが断るだけ時間の無駄だと察したメアリーは、天音の誘いに乗ることにした。


「そういえば一つ気になったことがあるんだが」

「どうしたのメアリー」


 天音と別れる直前、メアリーは気になっていることを天音に聞こうとし天音は軽く首を傾げる。


「なんか前話した時と口調違くないか」

「あれはキャラ作りだよ。高校生をするには自分へのキャラ付けが大事なんだよ」

「そういうものなのか?」

「そういうものだよ」


 夕方に会った時の天音はもっと声が幼く、間延びした声で話していた。


 でも今の天音は口調もしっかりとしており、年相応の話し方をしている。


 それを指摘すると、意味不明な答えが返って来て逆にメアリーは困惑した。


 高校生になるには、キャラ付けが必要らしい。


 全く理解できなかったが、これ以上聞いても理解できないと思ったメアリーは無理矢理納得することにした。


 その後二人は空に浮き、夜闇に消えるかのように自分の家へと戻っていった。

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