片思いのクラスメイトがうちのばあちゃん宿ってるに違いない件
葉っぱ
あんたまさか、うちのばあちゃんなのか?
タケオです。関東の普通高校に通う2年生です。
剣道部で図書委員。勉強も運動もそこそこできるほうです。めっちゃ普通の高校生って感じですけど、特に長所があるというなら身長が高いことでしょうか。じいちゃん譲りで187cmあります。高いところにある物を取るときによく人に重宝されます。朝の通学で乗る満員電車は、僕だけ頭二つ分くらい上に抜けているので息がしやすいです。
気になる女の子はクラスメイトのメグミちゃん。心の中ではメグミちゃんと呼んでいるけど、実際は名前すら呼んだことがありません。彼女は今時のギャルっぽい見た目だけど派手過ぎはしない。いつも女の子のグループの中で華やかに笑っている。なんとなく気がついたら目で追っていて、授業中も僕より少し斜め前に彼女が座っているから、つい鑑賞してしまうんです。
柔らかそうな細いセミロングの髪はいつも綺麗にカラーがされている。美容室の話題でオレンジブラウンで染めていると言っていたのを盗み聞いたことがある。ビーフシチューの色みたいな感じなのかな。綺麗系のくせによく見るとあどけなさが残っていて可愛いんです。
仲が良いってわけでもないので、たまにしゃべる会話はこんな感じ。
「君、今日日直だよね?先生からプリント渡せって預かったから、はいこれ。」
「あ、悪い。ありがと。」
「今日、お昼ご飯みんなでこの辺で食べたいんだけど、席借りてもイイかな?」
「あ、いいよ。僕あっちで食べるからどうぞ。」
と、こんな感じで。事務的な用事で彼女から話しかけられることが多い。僕は女性チームに入っていって話しかけられるほど度胸はない。でもそんな数秒の会話でも、僕より大分背の低い彼女が上目遣いでニコッと笑いかけるものだから、ドキドキしてしまうのは仕方ないことだ。でも男ってどうもなんとも思ってない感じでかっこつけてしまうよね。だからなのか会話が発展することはほとんどない。
もうすぐ夏休み。2学期の席替えで隣にでもなれたら良いな、なんて。どこまでも運頼みな僕です。でも何かきっかけでもあれば告白するってのも考えないこともない。あーうー、いやぁ、まぁ、、多分ですけどね。
そんなわけで、こじつけでも会えるチャンスなど自分で作れもしないまま、夏休みが始まってしまった。僕の夏休みの予定は部活と母方の田舎に行くくらい。母方の実家は飛行機で2時間かかるから、祖父母とは念に1度会えるくらい。しかも祖母は去年他界してしまった。
何日かが過ぎて、僕は母方の田舎にいた。こっちには年の近い従兄弟といえば1つ下の女の子であるミヤくらい。たまにしか会わないから仲良しってわけでもないけど、行けばそれなりに世話を焼いてくれる。
「タケ兄ちゃん、久しぶりねー。そんな背高かったけ?ウケるんですけど。」
「おう、ミヤは変わらないなー。兄ちゃんらしくアイスでも奢ってやろうか?駅前でも行くか?」
「まじで?あーでも、ばあちゃんがさ、いろいろ残してるから、タケ兄ちゃんが欲しいもの見繕ってからにしよー。」
「そうなんだ?でもばあちゃんの趣味って、小物作りとか編み物だったろ?僕よりミヤがもらったらいいよ。」
「でもねー、ばあちゃん、タケ兄ちゃんのことも考えててさ、男の子っぽい帽子とか編んでたみたいよ。とりあえず見てみなよ。」
そうミヤがいうので、僕はミヤと二人でばあちゃんの部屋に行ってばあちゃんがみんなにと作り溜めた小物を物色したのだった。
僕がもらったのは、赤ちゃんの頃の僕がばあちゃんに抱っこされた写真や、紺のニット帽にマフラー。僕にって作ってくれてたと聞いて、急に寂しくなってしまった。
そして和風の鈴のストラップ。赤と青の二つ。彼女でもできたらおそろいでつければ?ってミヤに渡された。そんなことを言われて、僕の頭に思い浮かんだのは当然メグミちゃんのことだけど、今の何でもない関係でこれを渡すのは無理がある。でも、鞄の中には入れっぱなしにしておこうかな、なんて。そんな風に考える自分のことキモいって思ったけど、夏休み明けの僕の鞄にはしっかり青いストラップがつけられていて、サイドポケットには赤いストラップがしまいこんであったのだった。
ばあちゃんの墓参りでは、「編み物とストラップありがとう。大事に使うね。」と手を合わせ、ばあちゃんが大好きですと伝えた。
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帰省後の夏休みはこれと言ったこともなく、宿題、部活、友達と遊んだりして過ぎていった。今日から二学期が始まる。
ホームルームが始まると、担任が宿題を集めたり服装や生活リズムについて軽い小言を話したとに、「席替えするぞ!」と言った。え?始業式に席替え?慌ただしいなと声の聞こえる中、問答無用であっという間に黒板にあみだくじが書かれた。男女に分けて、右の一番前の机から番号を振って、あみだくじで選ぶ方式だ。
僕が引いたのは幸運なことに窓際の後ろの席。背が高いから後ろの人に邪魔扱いされないのはとても有り難いこと。気分よく机ごと移動して席に座りホッと息をついて前を見ると、なんと僕の前の席はメグミちゃんだった。
隣だったら授業中にこそっと話しかけたりといったラブコメが始まりそうだが、前の席ときたかぁ!でもこれ、ずっと後ろ姿を近くで見られるってことなんですけどっ!!隣より前だな、うん。一生分の運を使い切った気分だ。
ホームルームが終わり1限目も担任の授業だったこともあり、席替えのあとは自習にしてくれた。プリントを一枚だけやれば後は好きにして良いと。やり終わったプリントは教卓に置きにいって、後は好きに過ごす。僕が教卓へ行って席へと戻ると、メグミちゃんがくるっと後ろを振り返って僕の顔を見て言った。
「もう終わったの?」
「え、うん。」
「すごい。頭いいね。ねぇ、ここの答えだけおしえて?とかダメかな?」
近い近い近い。
可愛い顔が目の前にあるよ~!
さっきふわって良い匂いしたよ~!
「や、ダメじゃないけど。。えっと、ここは・・・。」
ぶっきらぼうすぎるだろ!と自分にツッコミを入れつつ、「他には?」なんてかっこつけちゃって、少しでも長く話せるように会話を引き延ばしてしまった。
「おーわりー。ふふ、ありがとー。おかげで早く終わっちゃった。」
やばい、かわいい。自分の顔が熱いので絶対赤くなってるのがバレるとドギマギした。
「ね、下の名前、タケオだよね?」
「え?ああ、うん。良く知ってるね?」
「知ってるよぉ!もう2学期だもん。」
「そういうもんかな?でも僕も知ってるよ。メグミだよね、名前。」
言ってやったぞ。メグミって。このチャンス逃すものか。
「そうそう。良く知ってるね?メグミでいいからね?」
「え、それはなんていうか、呼びづらい。」
「そう?じゃあ、メグでもいいよ?」
全然呼びづらさ変わってませんけど。ていうかさらにハードル上がってますけど。・・・とは突っ込みも入れられず、今は無理としていつかさらっとメグミと呼んでしまおうかなんて思っていると、、
「私は、たー君って呼ぶね。」
「・・・」
なんて?
今、なんて?
そんな呼び方、ばあちゃんしかしなかったぞ。フレンドリーが過ぎないか、この子。もういっそのこと、このバグったような距離感に身を任せよう。うん。
「じゃぁ、僕もメグって呼ぶよ。」
ぱぁっと顔を明るくして笑ったメグミは、「うん!」と機嫌良さそうに見えた。
僕は高校受験より、部活の試合よりも、人生で一番頑張った日となった。
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メグミ視点
ついにきた。きちゃったよ。やばーーー心臓痛いんですけど!
せんせーに頼み込んで良かった。夏休み前に「席替えしようよ」って頼み込んだんだ。だって、タケオ君が私より後ろの席だから見つめることすらできないんだもん。
私はあるとき、クラスで一番背の高い男の子、タケオ君と一緒に日直になったの。ベタだけど、黒板消すときとか、日誌渡すときとか、彼と対面してその背の高さに男の子を感じたんだ。あ、すごい、このまま抱きしめられたらあの辺に顔が重なるんだなって、彼の胸のあたりをみて、自分の顔がそこにおさまるのを想像してしまった。
顔も好き。声もなんかいい。話し方優しい。落ち着く感じ。好き。
業務連絡っぽい会話を何度か試みたけど、なかなか仲良くなるきっかけがなかった。休み時間に目で追うだけでは物足りない。せめて席が隣じゃなくても後ろから眺めるくらいさせてほしかった。そうしたら、タケオ君は私の後ろの席になっちゃった。まじ完全に見つめられなくなった。がーんとショックを受けるような気持ちもあるけど、話すきっかけは増えそう。こうなったら絶対仲良く話せるようになってやる!
プリントをやり終えた彼に思い切って話しかけた。わからない問題の答えを彼は優しく教えてくれた。やだ、良い感じじゃない?少し恥ずかしそうに見えるけど、彼も私と会話するのは嫌じゃなさそう。思い切って、名前で呼び合おうなんて言ってしまった。唐突すぎる提案をした自分に失敗した!って思ったけど、「じゃあ、メグって呼ぶよ。」って言ってくれた。実はあのとき、全身の血が頭に上がるのを感じて、「お母さん無理、助けて!」なんて心の中で叫んでた。パニック過ぎる。
ていうか、たー君ってなによ。とっさに思いついて言っちゃった。呼べないよたー君とか。どうしよう。あの後もちょっとだけ会話したけど、上手く話せたか思い出せない。今日、彼お弁当だったな。お母さんが作るのかな。いきなり私がお弁当作って渡すとか不審だよね?一緒に食べようって聞いてみようかな。いつも一緒にお昼食べる友達に言っておこう。あとは、アドレス交換と、一緒に帰ったり?ああ、考えただけで幸せ。でもその前に美容室行こう。だって後ろに彼がいるし。後ろ姿、綺麗にしておかないと。
メグミはタケオよりパニクっていたのだった。
翌日。
タケオの脳裏にはおびただしい数のクエスチョンが浮かんでいた。
「おはよ。たー君。飴あげる。」
朝一にそう言ってメグミがくれたのは龍角散ののど飴だった。
「ねぇ、お昼移動するの面倒だし、ここで一緒に食べない?」
そうメグミに言われて喜んで頷き、友人のからかうような目を無視して二人で弁当を食べていると、
「おかず。沢山作ったから良かったら食べてね。」
そういってメグミは自分のお弁当箱とは別に小さなタッパーを持ってきていた。中身はイカと大根の煮付け。
僕がジュースを買いに自販まで行こうとすると、
「あ、私水筒にポカリ持ってきてるよ。一緒にのも?」
そう言われて飲んでみると粉末を水で薄めに溶かしたものだった。
こう連続で来ると、気づかないわけにはいかない。そう。たー君という呼び方もばあちゃんしかしなかったけど、のど飴もイカと大根の煮付けも薄めのポカリも、全てうちのばあちゃんが僕によくしてくれたことなのだ。
極めつけが、
「部活。剣道だったよね。宮本武蔵じゃん。かっこいい!」
これも僕が剣道を始めた小学生の頃にばあちゃんが言った台詞である。
えーと。ばあちゃんが乗り移ってます?????????
そんな馬鹿なと思うけれど、ここまで証拠を突きつけられるとリアルだぞ?
ていうか、ばあちゃんがメグミの中にいるとして、それはなんで?僕と恋がしたかったの?ばあちゃん。そんな馬鹿な。
「明日のお弁当はチキン南蛮にするから、たー君も良かったら食べてね。」
はい、確定です。それは僕の田舎の名物料理です。なにこれ怖い。
その時のメグミはこう思っていた。
(良い感じに距離近づいてるかな。なんか、たー君が度々「え?」って驚いた顔してるけど、多分私がアピール強めだからだよね?ここまできたら、放課後遊ぼうって誘っちゃおうかな。)
一週間後。
この一週間、僕とメグミは徐々に距離を詰めていった。明らかに僕への好意を匂わせる彼女に、僕はドキドキしたし嬉しくもあった。でも、どう考えても彼女の言動が僕のばあちゃんを思わせる。
初めて一緒に放課後遊んだときには、「久しぶりにぬれせんべいが食べたい。」とメグミは言った。ばあちゃんの好物である。僕はためらいなく田舎の従兄弟であるミヤにメッセージで、「仏壇にぬれせんべいを供えてくれ。」と頼んだ。ミヤはそんなことを突然連絡してくる僕を気味悪がっていたが。しかし、今時のギャルが好意を持つ男と初めて放課後デートするときに、ぬれせんべいが食べたいなどと言うわけがない。うちのばあちゃんだから言うのだ。
さぁ、ここまできたら、うちのばあちゃんなんだろ?と問い詰めてみたい気もするが、若い女の子にばあちゃんか?と聞くなんて嫌われる案件に違いない。というか、僕は彼女が好きだ。多分彼女も僕に好意を持ってくれている、と思う。二人でいる時間は自然と増える一方だ。
「付き合いたい。」
声にして言ってみると、それが自分の本音なのはわかる。
「ばあちゃんだけどな。」
どうもシリアスに聞こえない。気分は至って切実なんだが。
最近は、寝る前にメグミとチャットをしていたが、昨日からは電話になった。30分くらい何気ない話をする。次の週末は二人で会う約束もした。こんな状況は夢にも見なかったんだ。嬉しいに決まっている。
「よし、決めた。ばあちゃんでもいっか。」
僕は、ばあちゃんが宿る女の子に告白することを決めた。
だとしたら、そう。やることは一つだ。
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週末。
二学期が始まって2度目の週末である。僕とメグミは二人きりで初めてのデートをしていた。高校生のカップルらしく、高級ではないレストランで食事をして、カラオケに行き、このあたりでは一番大きいショッピングモールを見て回った。ゲームセンターに立ち寄って、プリクラも撮った。二人でいるうちに気がつくと肩や腕が触れる機会が多くなったのに気づいた。
よし、帰りに言おう。
夕方になって、僕は彼女を家まで送ると提案した。
「うん、じゃ、お願いしよっかな。」
そう言って、メグミは嬉しそうに僕の手をそっと握ってきた。僕がそっと手を握り返してみると、彼女の顔も耳も真っ赤になっていて、こっちをチラチラと見ては恥ずかしそうに微笑む。その可愛らしさは衝撃的すぎて、僕は口元が緩むのを隠せなかった。
彼女の家の近くにまで来ると、小さな公園があった。少し話をしてから帰りたいと言って、僕はメグミを公園のベンチに座ろうと誘った。
「今日、楽しかった。ありがとう。また遊びに誘っていいかな?」
「も、もちろんだよぉ。私もすっごく楽しかった。」
ちょっと夕日が差して、人気のない公園でのその会話は、とてもつもない甘いムードを醸し出した。
「あ、あ、あのさ。言いたいことあるんだけど!」
メグミのほうから告白しようとしているのか?でも僕は、ちょっと準備をしてきたんだ。決めていた台詞があるんだよね。
「あ、待って?先に渡したい物があるんだけど。」
そう言って僕は、バッグからある物を出した。ばあちゃんが作った僕とおそろいの鈴のストラップだ。
「これさ、夏休みに田舎に行ったときにもらってきたんだけど、うちのばあちゃんが小物作りが得意で手作りなんだ。一つもらってくれない?」
そう言って手渡すと、
「いいの?かわいい。ありがとう、大事にするね。」
「うん。それ実は、僕とおそろいなんだ。僕は鞄につけてる。」
「え、それは、、うれしいかも。(やだ、嬉しすぎる。おそろいなんて!)」
メグミはストラップを夕日にかざして、嬉しそうに見つめた。
「それでさ、ちょっと変なことを言うようだけど聞いて欲しいんだ。」
僕は用意していた言葉を伝えることにした。
「メグ、これからは高いところにある物は全部俺が取ってやる。」
この台詞、うちのじいちゃんがばあちゃんにプロポーズしたときの台詞なんだって。きっとメグにはわからないのかも知れないけど、それでも僕はそう言いたかった。
「好きです。僕と付き合ってください。」
一瞬、きょとんとした顔をしたメグミは、しばらくすると、つーっと静かに涙を流していた。
「あ、あれ?ごめん、泣くつもりなくて・・・」
そう言って慌ててハンカチを出して涙を拭くと、メグミは改めて姿勢をピンと伸ばして、
「私も、同じクラスになってすぐにタケオ君のこと好きになってたんだよ。大好きです。こちらこそよろしくお願いします!」
満面の笑みでそう答えてくれた。このとき、メグミは僕のことをタケシ君と言った。後で気づくことだが、それからはメグミはばあちゃんを思わせる言動をしなくなったんだ。もしかして、僕のために後押しする為に居てくれたのかな。
で、もう一つ、じいちゃんがやったことを僕はするつもりでいた。じいちゃんはプロポーズをした後にばあちゃんにキスをしたんだって。あんなに素敵なことはなかったとばあちゃんは母によく話したんだそうだ。
緊張するけど。行くぞ。
「ありがとう。メグのこと、大事にするね。」と言って、僕はメグの肩に両手をそっと置いた。そして軽く力を加えて、メグの体をこちらに少し向けさせて、ゆっくりと顔を近づけてキスをした。
ばあちゃん、僕とメグミを近づけてくれてありがと。天国で見守っていてね。
それと、僕、健全な男子高生だから・・・キス以上のことをするときには、ちょっと席を外しててね。恥ずかしいからさ。
完
片思いのクラスメイトがうちのばあちゃん宿ってるに違いない件 葉っぱ @gibeon
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