11-22.王都へ(2)
サトゥーです。何で見たかは覚えていませんが、飛行船が停泊した広場で見物客が沢山集まってお祭り騒ぎになっているシーンが記憶に残っています。
そのシーンの中で見た手作りアイスクリームがすごく美味しそうだったんですよね。
◇
「おっき~?」
「すごくすごいのです!」
左右の窓から身を乗り出したポチとタマが、空に浮かぶ巨体を見上げてはしゃいでいる。
タマはいいが、ポチのシッポがブンブン当たって痛い。
「むぅ」
両方の窓を占拠されてしまったミーアが、不服そうに御者台との会話用の小窓を開けて外の景色を覗いている。
アリサ、ルル、ナナの三人は席取りじゃんけんで負けて前の馬車だ。
リザは何故か槍を持って御者台に座っている。意外に高い所が好きなんだよね。
窓外では見送りと見物客でごった返しているのが見える。
オレ達の馬車に気が付いた人達から、パレードを思い出させる歓声が次々と上がる。
御者台に座っているせいか、リザに掛かる声援が多いようだ。
◇
「サトゥーさん、これ飛空艇で食べてください」
「ありがとうございます、ゼナさん」
ゼナさんに手渡された包みを受け取る。
ほかほかとした温もりが手に伝わってくる。これはゼナさんの手作りかな?
「これはゼナさんが作ったんですか?」
「……えっと、それはその……」
オレの何気ない問いで、ゼナさんが窮地に陥ってしまった。
早く話を逸らさなければ――。
「残念ながら、作ったのは兵舎のまかないのおばちゃんと、あたしだよ」
「ちょっ、リリオ! 内緒だって言ったじゃないですか! それに私だって、ちゃんと盛り付けをしました!」
オレのフォローの言葉より早く、リリオが真相を暴露してしまった。
後でゼナさんの苦労の成果を見せてもらう事にしよう。
「そうですよ、彩良く盛り付けるのは中々に難しいんですから」
「は、はい……そうですよね……じゅーよーです」
ゼナさんが視線を逸らして、ぽそぽそと呟く。
しまった、これはフォローじゃなく、スルーしてあげた方が良かったか。
失敗、失敗。ギャルゲーだったら好感度ダウンの効果音が鳴るところだ。
「ペンドラゴン卿、この度は魔法兵ゼナの縁にすがる形で厚かましい申し出を――」
ゼナさんやリリオと一緒にいた文官の女性が、長台詞でお礼を言ってくる。
ゼナさんに頼まれて彼女を探索者育成校の臨時職員として採用したので、そのお礼だろう。
彼女はセーリュー伯爵に仕える文官で、ゼナさん達――迷宮選抜隊に随行してきた人だ。
迷宮都市セリビーラの探索者ギルドのノウハウを学び、セーリュー市の迷宮運営に生かすのが彼女の仕事らしい。
他にもゼナさんを含む魔法兵とリリオを含む斥候兵の合計四名を、探索者育成校のオーナー枠として訓練に参加できるように手配してある。
ゼナさん達は恐縮していたが、高レベルの魔法使いや実戦経験が豊富な斥候が一緒なら生徒達だけでなく、教師達にもプラスになるはずだ。WIN-WINの良い取引といえるだろう。
装備品の修理待ちの残りの騎士や兵士達は、太守夫人に口を利いてもらって衛兵たちに混ざって探索者たちを相手にした治安維持について学んでもらっている。
――これで迷宮都市を離れている間に、ゼナさんが窮地に陥る事はないだろう。
少々過保護な気もするが、友人が無茶をしないか心配するのは普通だよね。
「……サトゥーはゼナの事が好きなんですの?」
「唐突ですね、カリナ様」
オレは後ろから声を掛けてきたカリナ嬢の方を振り向いて、脱力してしまった。
……どうしてドレスじゃなくて鎧姿なのかと問いただしたい。
「その衣装はどういう事ですか? 今日は公爵閣下と同席するから、お渡ししたドレスで準備しておいてくださいと、お願いしたはずですよね?」
オレは笑顔でカリナ嬢に詰め寄る。
せっかく有力貴族と同席するんだから、縁談が来易くなるような攻撃力のある素敵なドレスを用意させたのに。
「……だって、ドレスを着たら殿方の視線が怖いんですもの」
「そんな風に可愛く言ってもダメです」
「サトゥーが意地悪ですわ! ゼナにはあんなに優しいのに……」
そりゃ、ゼナさんは友人だし、色々と恩があるからね。
拗ねた様子のカリナ嬢は良いとして、ゼナさんやアリサがこっちをガン見してくるのはナゼだ?
リリオ達のニヤニヤした顔を見て事態を理解した。
――さっきのカリナ嬢のセリフか。
「そ――」
「勝負ですわ!」
オレが「尊敬できる大切な友人」と言おうとしたセリフを、若干焦った様子のカリナ嬢が被せるように大声を出した。
元々、彼女がした質問に答えようとしただけなのに。
「ワタクシと勝負しなさい! 貴方が勝てばあの恥ずかしいドレスを着てあげます」
ちょっ、ちょっと、人聞きの悪い事を言わないでほしい。
オレが用意したのは、王都で流行している最新のドレスだ。やや胸元がゆったりとしているが、それほど露出が激しいわけではない。
今までカリナ嬢が着ていたドレスは、グルリアンで作った物も含めて少し古臭い保守的なデザインだった。そのせいで、そう感じたのだろう。
まあ、勝負に勝ったら素直に着てくれるなら、さっさと決着をつけよう。
「仕方ありませんね、決着はポチやタマ相手のルールでいいですか?」
「もちろん、望むところですわ!」
ポチやタマとカリナ嬢が対戦する場合、一本勝負で場外に押し出されるか、背中を地面に付けた方が負けになっている。
「私が勝ったら――」
そう言えばカリナ嬢が勝った時の要求を聞いていなかった。
カリナ嬢が赤い顔で、こちらを見つめてきた。
むしろ睨まれていそうな印象を受ける。
テンパった顔で、カリナが衝撃の要求を突きつけてきた。
「――ワ、ワタクシとこ、こん――結婚していただきましゅわ!」
は? 結婚?
周りでアリサがギルティと連呼して喧しい。
ミーアがポチやタマを連れて買い食いに行っていて良かった。
ちなみにルルはリザやナナと一緒に、飛空艇に搬入する為のコンテナに荷物を積み込みに行っている。
ギャラリーから歓声とも罵声とも取れる声援が、カリナ嬢に投げかけられている。
「ち、ちが」
目をグルグルさせたカリナ嬢が慌てているが、ダレも彼女の言い訳を聞いていない。
多分、王都での婚活をしなくて済む様に「婚約者のフリをしろ」とか言おうとして、テンパって言葉が出てこずに「結婚」と言ってしまったんだろう。
彼女がオレに好意を持っているのは間違いないと思うが、異性としてオレに惚れているだろうかと問われれば首を傾げざるを得ない。
むしろ、悪友や兄弟なんかに抱く感情に近いんじゃないかと思う。
ゼナさんが「結婚」と壊れたレコードのようにループしているのが気になる。
「若様! 舞台の用意ができましたよ!」
オレがそのフォローをする前に、気の回るギャラリーが勝負の準備を完了してしまった。
オレ達が向かうのは、リザがいつも勝負をする時に借りる仮設闘技スペースだ。
◇
カリナ嬢と相対する。
今日の彼女の装備はオレが用意した防具にラカだ。武器は持っていない。いつもの徒手空拳だ。
オレもそれに合わせて、腰に下げていた妖精剣をアリサに預ける。
カリナ嬢の防具は防御力を維持しつつ胸の揺れを妨げない会心の作だったのに、アリサによる魔改造が施されて揺れないように固定されてしまっていた。
「ちょ、ちょっと、わざと負けようとか思ってないわよね?」
「思ってないよ」
「おっぱいに釣られちゃダメよ? わたしのなら後で好きなだけ触らせてあげるから」
「いや、それはいい」
アリサが小声でバカな事を尋ねてきたので、即答で否定する。
そもそも、幼女の胸を触ってどうする。
「だったら、後でルルの胸を触らせてくれるように頼んであげるから!」
成長著しいルルの胸に触っていいという許可は少し魅力的だが、本人以外の許可なんて空手形にも程がある。
「アリサ、落ち着け。負ける気は無いから」
「そ、そう? そうよね。だって、わたし達がいるもんね」
不安そうなアリサの頭をくしゃりと撫でて、オレはカリナ嬢の待つ仮設闘技場の中央に足を踏み出した。
さくっと勝負に勝ってしまいたいところだが、そういう訳にはいかない。
苦も無く一瞬で勝ったらカリナ嬢に恥をかかせる事になるし、周りに判るレベルで手を抜けば結婚したいのかと思われてしまう。
しばらく互角の勝負を続けて、僅差で勝利というパターンが最良だ。
なかなか、やっかいな話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます