SS:レリリルの憂鬱?
「ありえねぇです!」
私室で一人気炎を上げても、それに応えてくれる者はいない。
賢者様の残された館の管理人を任されたのに、人族の小僧が新しい主になるなんて……。
せめて、エルフのミサナリーア様が主に就任してくださったら良かったのに。
よりにもよって、ハイエルフ様のご友人とか馬鹿げたお話まで作って、その片棒をミサナリーア様に担がせるなんて、ふてえヤツです。
ふるるるる、と管理人のメダリオンから音がする。
小僧の呼び出しかよ、と思いながらメダルを見ると発信元が世界樹の通信局となっていた。
慌てて身だしなみをチェックして、メダリオンを軽く叩いて通話状態に切り替える。
『はじめまして、あなたがリレルルね?』
『アイアリーゼさま、違います。レリリルですよ』
『え? うそ、やだ。ごめんなさい、レリルル』
『だから、レリリルですってば』
普段なら「人の名前を間違えるんじゃねぇです」と怒鳴りつけるところだけど、今はそんな余裕は無い。
だって、メダリオンが映し出した通話相手はエルフ様だけじゃなく、見たら目が潰れそうなほど神々しい聖樹様――ハイエルフのアイアリーゼ様だったのだから……。
わたしは、きっと今日死ぬんだ。
エルフ様にお会いできただけでも10年くらいは職務に励めるのに、うちの耄碌爺だってお会いした事がないような聖樹様にお声を掛けてもらえるなんて。
名前を間違われた事くらいどーってことねぇです。
『リレレル、サトゥーの事をよろしくね。サトゥーなら蔦の館の設備を有効に使ってくれるはず。トーヤの遺言も知っているから、きっと良い行いに使ってくれると思うわ』
「聖樹さまの御心のままに。誠心誠意お仕え致します」
『アーゼ様、ビロアナン氏族から例の賢者の石の件で通話が入っています』
『あら、すぐ行くわね。じゃ、レリリル――で、合ってるわよね? サトゥーのお手伝い頑張ってね』
聖樹様に名前を呼んで激励してもらえるなんて!
ああっ、もう、死んでも良いくらい嬉しい。こんな余禄があるなら、小僧の手伝いくらい幾らでもしてやるです。
◇
「あれ? ミサナリーア様はご一緒ではないのですか? 小ぞっ、サトゥー殿」
「ああ、ミーアなら迷宮で頑張ってるよ。オレは、工房を使いに来たんだ」
人族の分際でエルフ様を愛称で呼ぶなんて、とっても無礼な野郎です。
でも、聖樹様に頼まれた以上、このレリリル、私心を押し殺して手伝いをしてやるのです。
どーせ、手伝ってやらなきゃ、この館の装置一つ動かせないに決まってやがるのですから。
……どうして初見の装置をそんなに当たり前みたいに動かせるですか?
「ああ、事前にトラザユーヤの残した資料に目を通しておいたからね。それにギリルから蔦の館の設備について『ヒアリング』してあるから問題ないよ。レリリル、悪いけど培養液を合成するから清潔なトレイと大き目のバケツを持ってきてくれないかな?」
「は、はい、です」
教えられたからといって、使えるわけねぇはずですけど……使いこなしてやがりますね?
おかしい。このレリリル様だって、耄碌爺の数年にわたる地獄の特訓でようやく機材の使い方を覚えたのに。
でも、こぞ、サトゥー殿は普通に使っている。
まるで、使い慣れた道具で料理を作る調理師のように。
練成機材を魔法を併用して何台も並列して動かすなんて、見ていても信じられねぇです。
おまけに、この館の
まったく、ありえなさすぎて、頭が痛いです。
聖樹様がお認めになっただけあります。
そうだ! きっとサトゥー様は、人族の振りをした亜神様か神々の使徒様に違いないのです!
そう考えればガテンがいくです。
聖樹様のご友人で、エルフ様を嫁にできるなんて人族のわけがないです。
「急用ができたので屋敷の方に戻る。レリリル、悪いが工房の後片付けを頼む」
「はい、了解しましたサトゥー様!」
これからは気合を入れてお仕えしなくては!
お出かけになられるサトゥー様をお見送りして、私は腕まくりして工房の片付けに向かった。
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