幕間:黄金の騎士と篭の鳥(ナナ視点)


 視覚監視システムが緊急指令を上げてきました。

 視線を正面から優先タグを付けられたオブジェクトに切り替えます。


 そこには、2体の幼生体の姿。

 奴隷商館の入り口に下げられた鳥かごに収監されているようです。


 救出しなくてはならないと論理回路が訴えます。


 救出を実行――エラー。

 再実行――エラー。


 これは由々しき事態です。

 エラーの理由は、最優先処理のマスターの指令による物と判明。


 金銭授受を伴わない物品の移動を禁止する項目があります。

 仕方ありません。


 私には禁則事項を破る権限はないのです。

 商館に踏み入れ幼生体を、正規ルートで獲得しましょう。


「主人、この子達を解放したいと要請します」

「これはこれは探索者のお嬢様、お目が高い。これは翼人族のなかでもなかなか希少な種族でして――」


 要約すると、「幼生体の所有権が欲しくば、金貨100枚を持ってこい」という理不尽な物だと判明。


 所持金は、金貨2枚。

 あと98枚ほど不足。


 マスターに支援してもらいましょう。

 論理回路の回答に従って、店を出ます。





「ダメ」

「再考を」

「ダメ」


 マスターは幼生体の確保を拒否します。

 ぱふぱふで籠絡を試みましたが、ルルに妨害されました。


 マスターの支援を得られないとなると、幼生体の救出は絶望的だと論理回路が告知してきます。

 困りました。


「どうしたんですか? ナナ様」


 訓練校の教師をしている獣人が、会話を申請してきました。


「金銭の獲得方法を検索中です。良案があれば提示を」

「そうですね、ペンドラゴンの皆さんなら、上層の33区画のルビーゴーレムあたりを討伐すれば一攫千金できるんじゃないですか?」


 ルビーという名前を検索したところ、宝石の一種である事が判明。

 ゴーレムの体を構成できるサイズのルビーであれば、金貨100枚程度の価値はあるはず。

 情報提供者に礼の言葉を告げ、出発します。


「あ、ナナ様。ルビーゴーレムの傍には、猛毒スライムが――」





 探索者ギルドにて経路を確認し、迷宮に出発します。

 途中でオリハルコン装備に換装し、移動ペースをアップします。もたもたしていては自由行動許可時間が終了してしまいます。


 マスターを見習い、雑魚敵は自在剣で始末し、強敵はオリハルコンの大剣で叩きつぶします。


『なんだ? 黄金の騎士?』

『おいおい、ナニモンだ? 迷宮蠍を一撃だってよ』

『赤鉄の誰かじゃないのか?』

『あんなハデハデなヤツはいねぇよ!』


 時折、他の探索者達とすれ違いますが、処理優先が低いので会話等の行動は処理キューの奥に破棄します。


 偶に現れる実体剣の効かない相手には、理術で速やかに排除します。


『おい、いま無詠唱で魔法使ったぞ?』

『無詠唱って、勇者様か?』

『黄金の勇者様だ!』


 偶然、危地を救うことになった探索者達が、会話を申請してきますが行動キューが詰まっているので対応できません。


 今度は、5つも首があるヒュドラが道を塞いでいます。

 速やかに排除したいのですが、他の探索者達が戦闘しているので、ヒュドラを排除するのは「横殴り」という禁則事項に触れるようです。


 探索者達は、一人また一人と行動不能になっていきます。

 対処方法を検索して一つの結論を得ました。


「問おう! 汝らは救援をもとめるや否や!」


 そう、相手が救援申請をしてくれれば、禁則事項に該当しません。

 我ながら素晴らしい妙案だと自画自賛します。


「頼む、助けてくれ!」

「救援申請を受託する」


 マスターが与えてくれた装備の「城塞防御フォートレス」機能を起動します。

 8枚の理力の盾と3枚の魔法壁が、ヒュドラの火炎や毒息を防ぎます。


 私には、リザやポチの様な圧倒的な攻撃力はありません。

 ですが、マスターの授与してくれた鉄壁の防御力があります。


 全ての攻撃を無効化し、地味な大剣の攻撃で敵対ユニットを排除します。


「おお! ヒュドラの首を大剣の一振りで切断してるぞ!」

「それより、どうして鉄をも溶かす火炎を浴びて平気なんだ!」


 マスターの武具を装備しているのです。

 これは当然の結果だと分析します。


 ヒュドラを排除し、33区へ急ぎます。

 後ろからコアがどうとか叫ぶノイズが聴覚回路に届きましたが、優先順序が低いので破棄しました。

 移動速度をアップするために理術による身体強化を付与しましょう。





 33区であることを標識碑を確認。

 マスターの索敵機能があれば、ルビーゴーレムの所在を確定できるのですが。


 前方に大質量スライムが通路に満ちているのを発見。


 理槍による排除を実行――失敗。理槍の吸収を確認。

 自在剣による排除を実行――失敗。切断は無効。刃の吸収を確認。

 大剣による排除を実行――失敗。切断無効。


 有効な対策手段を検索――該当なし。

 スライムを回避して探索を続行。


 前方の空間にルビーゴーレムを発見。

 中間地点に複数のスライムを確認。


 有効な対策手段を検索――該当なし。

 ルビーゴーレムへの接敵手段を検索――該当なし。


 有効な対策手段を検索――該当なし。

 ルビーゴーレムへの接敵手段を検索――該当なし。


 有効な対策手段を検索――該当なし。

 ルビーゴーレムへの接敵手段を検索――該当なし。


 論理回路のループを確認。

 ブレイクスルー手段を検討――アリサ語録を発見、検索を開始……。


 対抗手段を発見。


防護陣シェルター」を多重起動。

 オリハルコンアーマーの緊急移動バーニアを始動。


 急激な加速で防護陣を張ったままスライムの中を通過。

 後方で散逸したスライムの再生を確認。

 脅威レベル、低。放置します。


「ルビーゴーレムよ! 宝石だからといって偉いと思うのは誤解であると論破します!」


 接近してきたルビーゴーレムを「理槍ジャベリン」の連打で撃破しました。

 目的に反するので大剣の使用は自重したのでマナの残量に不安があります。

 緊急手段の使用許可条件をクリア――魔力回復薬を使用。


 オールミッションコンプリート。

 帰還を開始。





「これはルビーゴーレム! どうやって、こんなに完全な姿で!」

「換金を」

「いえ、どうやって――」

「換金を」

「あ、はい。少々お待ちください」


 無事に金貨100枚を獲得。

 奴隷商館にて、幼生体の保護に成功。


 白翼族の幼生体を「シロ」と命名。

 黒翼族の幼生体を「クロ」と命名――エラー。


 ライブラリを検索し「クロウ」と再命名。


 ホームに帰還後、マスターにお披露目します。


「確保しました。シロとクロウです」

「返してきなさい」


 マスター!

 無慈悲な命令に対抗する手段を検索――友軍ユニットに支援を要請。


「再考を」

「ダメ」

「いーじゃん、育てて連絡要員とか砲撃の測量要員とかさ~」

「かわい~?」

「そうなのです! 可愛いは正義なのです!」

「ん」

「ご主人様、私からもお願いします」

「僭越ですが、ナナの奴隷として購入済みなので、メイド見習いとして教育してはいかがでしょう?」


 友軍の支援により、ついにマスターも白旗を揚げ、無事にシロとクロウの屋敷への着任を許可してくれました。

 感謝の意を込めて、就寝時にマスターの好きなぱふぱふをしたら、友軍ユニットから集中砲撃をうけました。


 理不尽で不可解です。


 感謝の表現とは、難易度の高いものだと評価します。

 困惑と歓喜に混乱しつつ、シロとクロウの羽に包まれて眠りに落ちました。


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【あとがき】

 書籍版ではいつ出てくるのか心配なシロとクロウのお話でした。

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