SS:リザ買い食い


「お、リザさん、ハッケーン!」


 西門前の軽食エリアに来れば、誰かいると思ったのよね。


 声を掛けたいトコだけど、買い食いする品を選んでる時はダメなのよ。前に声を掛けたときに、食い殺されそうな目を向けられたもん。アレは夢に見るレベルよ。

 露店のオヤジとか、あの視線に曝されながら脂汗を流しつつ笑顔で接客するなんて、見上げた商人魂だわ。笑顔が引きつってなかったら「一流の」って付けてあげたんだけど。


「おい、アレは黒槍のリザか?」

「お、今度は何の肉を選んでるんだ?」

「トカゲの肉串と兎の骨付き肉を迷っているらしい」

「どっちも、大銅貨が必要な肉か~、さすが赤鉄証の探索者は羽振りがいいねぇ」


 周りの探索者達が話すのが聞こえた。リザってば、有名人じゃん。

 鋼トカゲの肉串と岩兎の骨付き肉を選んでるのか。どっちも硬そう。

 でも、朝方、アイツから皆に金貨1枚配ってたんだから、両方食べればいいのに。

 選ぶのが楽しいから別にいいけどさ~


「お、選んだぞ」

「どれだ?」

「トカゲの肉串だ」

「おいおい、共食いかよ」


 む? ギャラリーの最後のセリフがムカついて振り向いたら、周りのリザのファンからタコなぐりにされていた。


 あらら、出番なしか。

 街中じゃ魔法が使えないから、スキルレベル0の杖術が唸ったのに。やっぱ、ルルみたいに護身スキルでも取っておくべきかな? かな~?


「美味です。鋼トカゲの肉串は、淡白な味に思えて噛めば噛むほどに中から旨味が染み出してきて――」


 うぁ、リザってば、串を齧るなり語りだした。

 でも、ホントに肉なの? 何かヘンな音してるよ?


「おい、リザさんの『美味です」が出たぞ。あの串焼きはアタリみたいだ」

「はん! この素人がっ。『美味です』の後の言葉をよく聞け」


 素人って、アンタ達……。


「そうそう、歯ごたえを絶賛している時は買っちゃダメだ。オレ達ごときの惰弱な顎じゃ歯が立たねぇ」

「お前ら人族と一緒にするな、獅子人のオレに喰らえぬ肉など無いわ! オヤジ、オレにもコイツと同じ肉をくれ!」


 まわりのギャラリーの人の忠告を無視して獅子人族の男が、リザと同じ肉を買って食べて「歯がっ」とか呻いて座り込んだ。

 ご愁傷様~

 それにしても、あんな肉を仕入れるなんて、チャレンジャーよね。

 半分くらいの肉串は、色が違うから別の種類の肉なのかな?


 リザが、2本目に選んだ肉を咀嚼している。今度は「歯ごたえがイマイチですが」と続けている。

 なるほど、選んでたのは、どれを食べるかじゃなくて順番だったのか。納得。


「よし、岩兎の方が狙い目なわけだな」

「オレ、今度、迷宮で大金を稼いだら岩兎の肉を食べるんだ……」


 最後のヤツが死亡フラグを立ててない事を祈るわ……。

 結局、リザさんに声が掛けられたのは、5本目の締めの蛙肉の肉串の後だった。


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