SS:ハンバーグ詐欺(ポチ視点)
「ただいま~?」「なのです!」
お屋敷の中に入る前に、ちゃんと玄関脇の水瓶の水を使って、手や靴を洗ったのです。だって、ちゃんと洗わないとルルに怒られるのです。
屋敷の中には美味しそうなハンバーグ先生の香りが!
あれ? おかしいのですよ。
「臭いが違うのです」
「しちゅ~?」
「ルルが気分でメニューを変えるのは珍しいですね」
「ん」
パタパタと屋敷に入るとメイド長のミテルナが出迎えてくれたのです。
いつもならルルが、厨房から声だけでも「みんな、おかえりなさい」って言ってくれるのに、今日は静かなのです。
「お帰りなさいませ」
「マスターに帰還報告を」
「それが、子爵様の晩餐からまだお戻りになっておられません」
ご主人様がいないなんて、寂しいのです。
ししゃくの人なんて……なのです。
「食事の用意ができているので、食堂へどうぞ。アイナとキトナは、皆さんの道具をお部屋に運びなさい」
「「はい」」
ミテルナの後を追って入った食堂には夢もちぼーも無かったのです。
「ありり~?」
「ハンバーグ先生がいないのです!」
イスの上に乗って周りを見回しても、やっぱりないのです。
リザに「行儀が悪い」と叱られたけど、それよりもじゅーよーな事があると思うのですよ!
「ああ、ルルさんがいないので、ハンバーグではなく黒肉のシチューに変更してあります。料理人の不在に厨房を我が物顔で使うわけにはいきませんから」
そんなミテルナの残酷な言葉が耳を抜けていったのです。
「ぽちー」
「たまぁ」
タマと絶望を共有しながら、食べた黒肉のシチューは少ししょっぱかったのです。
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