6-19.黄金の聖剣と魔法道具
サトゥーです。夜遅い仕事のせいか社会人になってから夜中に自室の風呂に入った記憶がありません。大抵は朝起きて目を覚ますために熱いシャワーを浴びて済ます事がほとんどです。
ゆっくり湯に浸かれるのは、連夜の泊まり込み中に気分転換で行くスーパー銭湯くらいのものでした。
◇
ここ数日、夜風が冷たくなってきたので、夫妻には馬車の中で寝てもらった。オッサンはともかく、ハユナさんが風邪を引いて赤ん坊にまでうつったら困るからね。
今日の夜番は、いつもと組み合わせが違う。
いつもは、オレ、ミーア、ルルが一番手、ポチ、タマ、ナナが二番手、リザ、アリサが三番手なんだが、今日は、アリサとミーアが順番を交代している。
「何作ってるの?」
「
大抵の教本では、
今作っているのは、普通の
うん、素材が違うだけで、作り方は普通の
「ふ~ん、あれ? いつもは赤く光ってなかった?」
目ざといなアリサ。今は集中を切らしたくないので、アリサの言葉には答えずに、魔力を吸って
半分に割って
適度に温度を落としてから流し込んだので、前みたいに台座の木が燃えることはない。
「黒いけど、これも木刀なの?」
あまり無視するのも可哀想なので、軽く顎を引いて肯定しておく。ルルは、大人しくみてるのに、騒がしいヤツだ。
木剣の残り半分に薄く膠を塗って重ね合わせて貼り付ける。さらにヒモで縛って固定する。そのまま魔力付与台に載せて、木剣の中の
やがて見ているのに飽きたのか、アリサは干し肉を咥えたまま、膝を抱えてゴロンと横になってしまった。その姿勢のまま、こちらを眺めている。
オレの横ではルルが、額に浮いた汗をハンカチで優しく拭いてくれる。きっとルルの女子力は、53万くらいあるはずだ。
完成した木剣に魔力を注いでみる。リザの槍より魔力の通りが悪いが、なかなかだ。
木剣全体が、薄っすらと青く光る。
魔力の供給をやめても、少し暗くなったものの光ったままだ。
「ね、ねぇ、青い光を放つ魔法の剣って……そ、そんな訳無いわよね。アレがそんなに簡単に作れる訳無いもんね」
アリサの言葉に動揺がある。正体に気がついたみたいだ。
もう一度、魔力を供給しながら木剣を振る。
青い軌跡が綺麗だ。
「ねぇ、ソレって本当にアレなの?」
その残像が闇に溶けるのを待って、アリサに答える。
「そう、聖剣だよ」
◇
「ちょ、ちょっと聖剣って言った?」
「正確には聖剣モドキだよ」
昼間、アリサが縦読みを見つけた紙束に載っていたのは、聖剣を作ろうとした男の研究記録だった。
主な内容は、聖剣を作るために必要な特殊な
もっともオリジナルの部分はここだけで、後は魔剣と同じ作り方みたいだ。その辺はトラザユーヤの書物の方が詳しかったので、そちらを参照した。
モドキと言ったのには訳がある。
さっきのように木剣などで作ると成功するのだが、鍛造する剣では上手く作れないらしい。鍛造は熱い金属を叩いて延ばすんだから中に精密な回路を形成できるわけが無い。今回は木みたいに柔らかい素材だから成功したみたいだ。
トラザユーヤのように高度な術理魔法を使う者でも、魔剣の作成は鋳造でしか成功しなかったみたいなので、他の聖剣みたいなモノを作るには更なる秘儀が必要になるのだろう。
「モドキなの? でも、
「実体が無くて弱っちい敵なら、本物と同じような効果が出そうだけど、所詮は木剣なんだよ。切れ味増加とか攻撃力アップみたいな回路の作り方も判らないし、今のところは聖属性を持たせた木刀だね」
このレシピを残した研究者だが、予想に反してサガ帝国の人間ではなく、シガ王国の人間だった。
王都にある王立研究所に居たらしいが、派閥争いに負けて辺境に追いやられてしまったらしい。これは違う紙束に、やはり縦読みで隠して書かれていた。殆どが恨みつらみだったが、エルフの賢者という人物の協力で1本だけ鋳造の聖剣を完成させたらしい。その剣の名前も載っていたが、あんまりな名前なので黙して語らないでおこうと思う。
この木聖剣だが、持っている聖剣の中で一番弱いジュルラホーンが相手でも、打ち合ったら一合と保たずに破壊されてしまうだろう。たぶん、リザの槍どころかポチやタマの小剣と打ち合える程度だと思う。
この青い
アリサ風の感想をいえば「永久機関キター!」と叫びたい感じだ。実際は永久機関というよりは風力発電や太陽光発電みたいな感じだが、かなり便利だと思える。大規模に作るのは、ドライアドの居た山みたいに、自然破壊が予想できてしまうのでNGだろう。
「ちょっと貸して~」
そう言って手を出してくるアリサに木聖剣を貸してやる。後で、お揃いの木魔剣も作ってみよう。両手に持って中二なセリフを言うアリサの姿が目に浮かぶようだ。
アリサは魔力を注いでは青い軌跡を楽しんでいる。
途中、何を思ったか、魔力をどんどん注ぎ始める。爆発したらどうする。危機感知が反応する前に取り上げる。
「危ないだろ、爆発したらどうするんだ」
「ごめんなさい、どのくらい吸うのかと思って試してたら止まらなくて。100ポイント注いでも限界に行かなかったわよ」
一度限界を試してみたいが、当分の間、夜の散歩はアリサが許してくれなさそうだ。野営地で試して皆を怪我させたくないので、機会を待つことにした。
せっかくなので、少し遊びを入れてみよう。
木聖剣の表面に金箔を貼っていく。鍔の所に刻んであった薔薇の模様に、粉末状に砕いたサファイアを塗布する。さらに花弁に見立てたサファイア片を貼る。この時、サファイア片の裏に
刀身が寂しかったので、金箔の上にも
魔力を通すと金色の木聖剣に青い光が浮かんで、キラキラと綺麗だ。特に根元の薔薇の光り方がいい。
「ご主人さま、素敵です」
「うっわ~ なにソレ、成金が泣いて喜びそうな装飾ね」
確かに、金ぴか過ぎたか。木魔剣は銀色にしよう。
◇
さて、検証が終わってスッキリしたので、兼ねてから作りたかった魔法道具の試作を始める。設計は移動中の暇な時に済ませてある。サンプルが幾つも有ったので、そのなかから簡単なものを組み合わせただけのものだ。
まず、今日の昼に作っておいた銅貨を叩いて引き延ばした非常に薄い銅板に発熱するタイプの
次に木を削って、拳の半分くらいの大きさのプロペラを作る。
プロペラの中心に穴を開けて軸を入れて、魔力を通すと回転するように
回転させるための
この前から簡単に作っていたが、普及率から考えて魔法道具を作れる人間は、思ったよりも希少なのかもしれない。
完成したパーツを筒に組み込んでいき、最後に取っ手をつける。
「まさか!」
「そう、髪を洗った後に欲しくなるアレだ」
試運転はアリサに任せる。魔力を注ぐとプロペラが回転し、発熱板の生み出した熱を空気と共に流す。
「まさか、こっちでドライヤーが使える日がくるとは思わなかったわ」
そろそろ寒くなってきたし、次は暖房設備かな。冷たい水で洗いものとか洗濯とかで、ルルの手がアカギレする前に、湯沸かし器でも作ってみるのもいいかも知れない。
夢が広がるね。
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【あとがき】
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