ワンルームと私

百方美人

第1話

想い人の代替品、居心地の良い空間を提供するだけの存在。

6畳一間の隅で私はうなだれていた。

乾いた涙痕は、侘しさを表す様にうっすらと残っている。

いつまでこの不安を抱えていくのだろう。

私は、まるでゴールのない迷路に足を踏み入れてしまったように感じた…



彼と出会ったのは高校の入学式終わり。

元々、地元の高校へ進学する予定だった。

実家と高校が近く、数分で学校に行けることが、朝に弱い私にとっては都合が良かったのだ。

けれど、噂話がすぐ広まる閉鎖的な地元、念願の華のJKなのに一切映ない背景の田畑、県で1番ダっサい制服に嫌気が差し、苦手な勉強を大量にこなしやっとの思いで都会の高校へと入学した。


知らない人しかいない街。通り過ぎる人達はモデル級に容姿が整っており、惚れ惚れしてしまう。


映えスポットに流行りのスイーツ。最近、雑誌で取り上げられていた物ばかりだ。


スカート丈は膝上でも怒られず、アイドルのようなふわっとしたリボンが特徴のセーラー服。


今まで待ち侘びていた生活が私の目の前にある。


しかし、中学の同級生達は皆地元に残り、学校には知り合が誰一人いなかった。

こんなにも素敵な街を一緒に回ってくれる友達がいない。

初めてつまらない生活から脱却出来た嬉しさよりも、寂しさが勝った瞬間である。



今日は入学式が行われる、新品の制服に腕を通し気持ちが高まっていく。

私は期待と不安で胸が張り裂けそうだったが、前髪が決まらず熱中するあまり、そんな想いはすぐに消えていった。

学校へ着くと、入学式と大きく書かれた横長の看板、沢山のパイプ椅子が並べられた体育館へ入場させられ、各々名前が呼ばれ「はい」と返事をする。

高い声、太い声、裏返る声、色んな声があった。

長い時間声を出していなかったせいか、はたまた緊張に飲まれたのか、か細い声で「はひぃ…」と言ってしまったことは、後に1ヶ月家族間で話題となるのだった。

必死に親族はビデオテープを回し、目一杯の拍手を送る。

母親達は、入学する子どもより気合いが入っており、髪型や装いから何となく察せた。

後で保護者会の役回りでも決めるのだろう、PTAや面倒くさい仕事を押し付けられないよう舐められないようにしてるんだと、我ながらどうでもいい事を考えてしまった。

泣いてしまう人も中にはいて、入学式の為に早い時間から起きてしたであろう化粧は崩れており、涙を拭くハンカチはファンデーションによって色づいていた。

校長先生や偉い人達の無駄話を乗り切り、出番を終えた新入生は何事も無かったように退場していく。

こうして入学式は終わり、各自これから1年間の自分の居場所となるクラスへと散っていった。


私は1年A組。

中学と比べると校舎が大きく、人数の多さに戸惑ったが、迷わない端のクラスに所属出来て少しほっとした。

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