本屋とトイレと赤いマーク

みない

第1話

 本屋に行くとトイレに行きたいと思うことはないだろうか。

 理由はいまだに不明だが、青木まりこ現象と言う名前が付けられているくらいにはメジャーなものらしい。

 さて、何で僕がこのような話をしているかというと、僕は本屋に来ている。そして今目の前にあるのは使用中を示す赤のマーク。

 そうトイレの前にいる。

 さて、ここで僕には選択肢が生まれる。

 まず一つはここを使用しているであろうものを待つ。もう一つはこの本屋の向かいにあるコンビニで用を足すことだ。いま現時点での腹の調子からいえばどちらを選択したとしても余裕がある。ただ、だからといって空いているかどうかわからないコンビニのトイレに向かうよりは、ここで待った方がいい……ような気がする。

 とても難しい問題だ。選択肢があるからこそ悩むものである。

 もしコンビニが向かいではなく、隣にあったとしたら迷わずコンビニに行くところだが、如何せん道路を挟んだ向かい側にあるのが悩ませる。

 この本屋とコンビニの間にある道路はそこそこ交通量が多い。一応本屋から少し歩いた場所に信号のある横断歩道があるが、便意を催した状態で横断歩道の信号待ちをしたくない。


 閑話休題。

 ふといま僕の目の前にある選択肢が二つしかないと思い込んでいた。

 第三の選択肢。それが頭に浮かんできた。

 戸を叩いて本当に中に人がいるのかを確認するということだ。

 ワンチャンを掛けて叩いてみる。

 二、三度叩き、中からの反応を待つ。

 三十秒程待ってみたが、中からの反応はない。

 中に誰もいない可能性を信じてトイレの戸に手を掛ける。

 軽く引いたところで僕は全てを察した。

 あっさりと開いた戸の向こうには誰もいなかった。

 結論からいうと、トイレの使用中を示すマークの部分が壊れているだけだった。

 三分くらいトイレの前であーでもないこーでもないと考えているだけの無駄な時間。

 たぶんこれが本屋で一番時間を無駄にしたことだろうな。そう思いながら用を足し、目当ての本を買い帰路へ着いた。

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本屋とトイレと赤いマーク みない @minaisan

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