その本をトランクに

ろくろわ

その本をトランクにのせて

 村外れにある丘の上の小さな家が私のお家。


 お母さんは毎日私のお薬を買うために村まで一時間かけてお仕事に行っている。その間私はお留守番をしている。学校にも行っていたのだけど、もう長いこと通えていない。

 でも全然寂しくないし退屈なんかじゃない。

 小さなトランクいっぱいに本を詰め込んで彼が毎週月曜日に私の家まで来てくれるから。

 しかも彼はいつも本を一冊私にくれるのだ。

 お金を持っていないから本は買えないと言ったのだけど「それなら本を読んだ感想やマリアちゃんの読みたい話、見たいものを教えてくれたら良いよ」と言って私の話を聞いてくれて本をくれるのだ。

 彼がくれる本は私が読みたい話ばかりで、どれも見たことも聞いたこともない話が書かれている丁寧に創られた手作りの本だ。

 今日も彼は村から私の家まで来てくれて沢山の本を見せてくれた。そしていつもと同じように読んだ本の感想や読みたい話、見たい景色の話をして一冊本をくれると「また月曜日に来るね」と彼は言って再び村へと帰っていた。

 私は次の月曜日が待ち遠しく、胸をドキドキさせて貰った本を何度も読み返すのだった。




 丘の上の家から一時間かけてルーカスは村へと帰ってきた。そんなルーカスの姿を見つけた子供達が矢継ぎ早に話しかけてくる。

「ルーカス、マリアちゃんは元気だった?」

「ルーカス、マリアは今度の話はどうだったって?」

「ルーカス。マリアは次はどんな話が聞きたいって?」

 ルーカスはそんな子供達一人一人にマリアは元気だった事。貰った本を楽しんで読んでいる事。今度はウサギさんが旅に出る話を読みたい事等を伝える。

ルーカスは子供達を集めると「さぁ、次の月曜日まで後6日もあるよ。今度はみんなでウサギさんのお話を考えてみよう」と子供達の頭を撫でた。


 次の月曜日もルーカスはマリアの為の本屋になる。村の子供達の優しい気持ちをトランクに詰め込んで。


 了

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その本をトランクに ろくろわ @sakiyomiroku

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