第4話 新たな主
宇宙戦艦ヒエロニムスは、6隻のノルマル級巡洋艦と共にアトランティス王国首都星に向かっていた。
「急ぎ脱出したが…惜しい忘れ物をしたな」
忘れ物、とは艦艇建造装置、レオナルドXLである。
エラノ・ベーメは悔しげな表情を浮かべながら、艦長席に座っていた。
「仕方あるまい。あの星は”災禍の大商”に支配されていることがわかったのだから」
エラノの隣には、ノーブルファー社の社長、レイティア・グラッドストーンが付き添っていた。
3日前、自宅に帰る途中、エラノは暗殺者の襲撃を受けた。だが運良く逃れることに成功し、急ぎヒエロニムスで惑星を脱出したのである。
レイティアおよび護衛艦隊と合流し、今は公宙(どこの国にも属さない宙域)を航行している。
「”災禍の大商”ネム・バルキリア。手段を選ばない奴だとは聞きましたが」
「彼女がフィチーノに潜伏しているとは、私も知らなかった。まさかアルケオニス重工の、社長だったとは」
元の主と離れたレオナルドXLは、新たな主の下で、奴隷のように酷使されていた。
長距離航行が可能な戦略爆撃艦、ノルディア級を次々と生産していたのである。
「ハハハ…この船で数多の街を焼けば、宇宙は憎しみの炎に包まれる…そうすれば、私達は大儲けだよ、レイティア・グラッドストーン」
ネムは稼働するレオナルドXLを眺めながら、高笑いしていた。
「失礼します、ネム様。巡洋戦艦グラーフ・シュタール級の設計が完了しました」
やって来たのはアルケオニス重工艦艇設計開発主任、フォノ・シダールだ。
「お疲れ様、フォノ君。少し休みたまえ」
「ありがとうございます。しかし私達設計部門はこれから忙しくなりますね」
「そうだな。なんせ私達はこれからシン帝国相手に戦争をするんだからな」
「マイマイ王国のレジスタンスをはじめとして、各地の協力組織は勢い立っていますね」
「ああ。共に宇宙の歴史に名を刻めるのだから」
「それにしても。エラノを逃したのは惜しかったですね」
「ふふっ。彼は兵器開発者としては、いまいち思い切りが良くないんだよね」
「破壊の悦楽を楽しむ…ネム様の美学に惚れてしまった私とは、違いますね」
「そうだねえ。さて、レオナルドXL君。君も新たなご主人様の元で、しっかり働いてくれたまえよ…」
レオナルドXLは悲鳴のような駆動音を空に響かせながら、資材を戦略爆撃艦へと作り変え続けていく…
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