第2話 資源小惑星制圧作戦

王国歴523年2月13日、フィチーノ王国は小惑星ナヴレンの領有を国際社会に向け宣言した。

 外交政策が功を奏し、宣言はアトランティス王国、ジパング皇国、ブルースター連邦の承認を受けることができた。

 だが、チーグル連邦は回答を保留。シン帝国は「ナヴレンは我が国固有の領土である」として、領有を認めなかった。

 のみならず、「フィチーノ艦がナヴレンの領空に侵入した場合、シン帝国は断固たる措置を取る」と威嚇。ナヴレンに向け、一式重嚮導艦「朱雀」を主力とする5隻の艦隊を発進させた。

 これに対し、フィチーノ王国からも4隻の艦隊が発進。内訳は2隻の旧式駆逐艦に加え、ルシオが座乗する最新鋭駆逐艦「ノモス」、そしてエラノが試作した大型戦艦「ヒエロニムス」である。


「偵察機からの情報によれば」

 朱雀の艦長、マウ・ロンシェ上将がつぶやく。


「フィチーノ艦隊には、この朱雀を上回る大きさの、新型宇宙戦艦が含まれているという」

「なんと。アトランティス王国から供与されたものでしょうか」

「いや、それがどの大手メーカーの戦艦ともシルエットが異なるというのだ」

「となると、独自開発ですか」

「ああ。最近フィチーノに移ってきた新興のメーカー、ノーブルファー社のものらしい」

「強いんですかね」

「私はこの朱雀の性能を信じている。我がシン帝国の艦艇建造技術は他の先進国に後れを取っていると言われているがね。新参者には負けんよ」




 5隻のシン艦隊と4隻のフィチーノ艦隊は、共に単縦陣を組みながら、ナヴレン沖に突入した。


 シン帝国艦隊:

  旗艦 一式重嚮導艦 朱雀

  八七式嚮導艦 明遠

  九九式護衛艦 威星

  七五式護衛艦改 方順

  七五式護衛艦 泰遼


 フィチーノ王国艦隊:

  旗艦 駆逐艦 ノモス

  戦艦 ヒエロニムス

  駆逐艦 プレトン

  駆逐艦 ペトラルカ


 「目標、方順!主砲、発射!」

 ヒエロニムスの大口径主砲が、敵艦相手に初めて火を噴く。だが、命中弾はなし。距離が遠すぎた。


 「突出してきたデカいのを狙う!くらえ!」

 威星が果敢にヒエロニムスに突撃し、主砲を発射する。だが、外れる。


 「危なかった…!」

 エラノの背を冷汗が伝う。


 「怖気づくなよ、エラノ。ヒエロニムスの装甲は強力だ。そう簡単にやられはしない」

 ルシオからの通信が入る。


 「わかってますけど…!いやあ、戦場ってドキドキしますね!」

 「朱雀、接近してきます!」

 「うおお、強そうなのが来た!」


 朱雀の主砲がヒエロニムスを狙って放たれる。だが、ヒエロニムスは巧みな操艦により回避する。

 「フィチーノ軍人の腕をなめるなよ!」

 「さすがです!」


 朱雀の威容には圧倒される。

 だが、ヒエロニムスの方が装甲火力共に上だ。

 簡単に負けるわけにはいかない。


 後続のプレトンが朱雀に向けて発砲するも、命中弾なし。


 「そこだ!くらえッ!」

 ルシオのノモスが朱雀に対し発砲。初めての命中弾を当てる。


 「くそう、被弾したか!だが損傷は軽微だ」

 朱雀の分厚い装甲に阻まれ、あまり大きなダメージを与えることはできなかった。


 「落ちろ、デカブツ!」

 明遠の砲撃がヒエロニムスを襲う。

 これも回避に成功。


 「旧式艦にも意地があるってこと、見せてやるよ!」

 ペトラルカの主砲が朱雀に向け放たれる。命中!

 「いいぞ!」

 ルシオがはしゃぐ。

 「良い調子ですね。このまま突出した朱雀を袋叩きにしましょう」

 我が軍は優勢だ。


 「目標ノモス、撃て!」

 方順と泰遼がノモスに向け砲撃するも、命中弾なし。

 

「ええい、日頃の訓練はどうした。こんなものでは独裁者ルシオからフィチーノを解放できんではないか」

 ロンシェの顔に苛立ちが現れる。


 「大型艦同士のタイマンといこうか。目標朱雀、撃て!」

 ヒエロニムスの主砲が朱雀を穿つ。


 「損傷率拡大!5割を越えました」

 「くっ…!」

 命中弾のないまま、大きな被害を受ける朱雀。

 「ヒエロニムス…思った以上にやりおる」

 「どうします、上将閣下」

 「この朱雀はロウアン防衛の要。ここで沈められるわけにはいかん」

 ロンシェは悩んだ上、撤退を決意した。

 朱雀の艦体から、信号弾が放たれる。


 「撤退の合図だ。退却するぞ!」

 「逃がすかよ!」

 逃げ遅れた明遠に対し、プレトンとノモスが命中弾を叩き出す。大きな損害を与えたが、撃沈には至らなかった。


 「敵艦隊、ワープアウトしました」

 「逃したか。まあ仕方がない。占領に移ろう」

 「勝利、ですね」

 「ああ、よくやってくれた」

 「敵の弾が当たらなくてよかったです。みんな無事で」

 「そうだな。素晴らしいことだ」


 その後、後詰の工作艦隊が到着し、PLA採掘基地の建設を始めた。

 ナヴレン制圧艦隊はそのまま駐留し、防衛任務にあたった。

 敵の侵攻はなく、1週間後に工事が完了し、PLAの採掘が可能になった。

 また、時を同じくして、ラウム級巡洋艦の完成の報も入ってきた。


 「さて、次はどんな船を作ることになるのやら」

 エラノは事務作業に取り組みながら、新しい宇宙艦艇の構想に頭をめぐらせるのだった。

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