宇宙戦艦ヒエロニムス ~辺境惑星でスローライフを送ろうとしたら、美少女首相に無理矢理軍役に駆り出された~
江良野
第1話 辺境惑星フィチーノ
私はエラノ・ベーメ。大手機械メーカー、ノーブルファー社に勤めている男だ。ノーブルファー社は車両、船舶、航空機、ゲームソフト、コンピュータ・システム、果ては人型機動兵器まで、様々なモノを開発している。モノづくりが好きな人間にとっては、天国のような職場だ。
私は高校生の頃からノーブルファー社の社長、レイティア・グラッドストーンと親交を結んでいた。そして大学卒業後にノーブルファー社に入社し、主に人型機動兵器の制御システムを開発してきた。それだけに熱中できていれば良かったのだが、最近、人型機動兵器を運用する宇宙艦艇に関心を持つようになった。
宇宙艦艇の建造には広大な土地が必要となる。3ヶ月前、私はレイティア社長と交渉し、緑豊かな辺境の惑星、フィチーノに土地を購入した。そしてUVW社製の宇宙艦艇建造装置「レオナルドXL」を購入し、設置した。それから何度かの試作を経て、この度、ついに自作の駆逐艦「ノモス級駆逐艦」がフィチーノ宇宙軍に正式採用されることに決まったのである。進宙式にはフィチーノ王国首相、ルシオ・ヴィルゲンが出席するという。くれぐれも、失礼の無いようにせねば。式次第を思い出しながら、私は設計開発用のコンピュータに向かっていた。
フィチーノ王国首相、ルシオ・ヴィルゲンはノモス型駆逐艦の進宙式を心待ちにしていた。フィチーノ王国はかねてより、シン帝国の侵略に脅かされてきた。宇宙軍士官学校の学生であった彼女はクーデターを起こし、首相に就任したのである。だが宇宙軍が保有する戦力は他国から購入した中古の旧式艦ばかりであり、強固なPLA装甲を纏ったシン帝国艦に性能面で劣っていた。そんな中、ノーブルファー社がPLA装甲艦の建造施設を建設したいと申し出てきたのである。渡りに船とばかりに、彼女は建設計画を承認した。フィチーノ独立を守るため。いや…
「強力なPLA装甲艦を使えば、憎きシン帝国に逆進攻できるかもしれん。フィチーノは田舎国家だが、国王陛下は旧アトランティス帝国の皇帝の血を引く由緒ある家系。今こそかつてのアトランティスの栄光を取り戻す時なのだ。そのために、エラノとかいう男にはしっかり働いてもらわねば…」
執務室の椅子で、ルシオは野心の炎を燃やしていた。
「それにしても」
エラノはコンピュータのキーボードを打ちながら、疑問を抱えていた。
「新しく建造指令が下ったラウム級巡洋艦…こいつはフィチーノが持つにしては、ちとオーバースペックすぎるのでは…?」
ノモス級駆逐艦の航続距離3光年に対し、ラウム級巡洋艦の航続距離は10光年。これは、隣のシン帝国領惑星ロウアンに行って帰ってこられる計算だ。ロウアンを拠点とする臣民解放軍艦隊の出没は、よくテレビでニュースになっている。世論も軍拡に肯定的だ。
「シンとやりあうには、この国は小さすぎると思うんだけどな」
私は宇宙艦艇の建造を楽しみにしてきたが、負け戦はごめんだ。
「もしかすると、あれを使うことになるかもしれない」
レオナルドXLで試作した艦艇の中には、「戦艦」が含まれていた。圧倒的な火力と装甲で敵を屠る、宇宙の王者。そのロマンに憧れ、こっそりと建造していたのである。
エラノとルシオはノモス級駆逐艦の進宙式で、初めて互いを認識した。
「はじめまして、首相閣下。ノーブルファー社のエンジニア、エラノです」
「ルシオ・ヴィルゲンだ。この国の行政府の長を務めている」
「ニュースではよく拝見しておりますが…お若いですね」
アイドルグループにでも所属していそうな、19歳の女の子だ。金髪碧眼で、西洋人形のような見た目をしている。まるでアニメか漫画から出てきたかのようだ。
「ノモス級は君が設計したと聞いている。よくやってくれた」
「フィチーノの防衛戦略に則って作りました。火力と装甲に重点を置き、航続距離と速度は削っております」
「うむ。あくまで自衛を目的とした装備であるな」
「はい。特筆すべきは量産性ですね。我が社の設備を使えば、最短1日で1隻建造できます」
「素晴らしい。資源の問題がクリアできれば、我が軍の防衛力は大いに向上するな」
「そうですね。PLA装甲艦は、素材が入手しづらいのが難点です」
フィチーノ王国はPLA素材の採掘基地を持たない。ノモス級の資材は、アトランティス王国から輸入した。その価格は高く、ノモス級のコスト面でのネックになっている。
「ちなみにだが…ラウム級の完成はいつになる?」
「あと1ヶ月ですね」
「そうか。そうなると、旧式艦とノモス級で、事を進めることになるな」
「事?」
「ああ。最近、PLA装甲の素材、PLAの資源が眠る小惑星が近傍宙域で発見されたのだよ」
「なんと。それは朗報ですね」
「ただな、そこはシン帝国が領有権を主張している宙域でもあるのだ」
「えっ…」
「2週間後、我が国は小惑星、ナヴレンを正式に領土に編入する」
そんな事をしたら、シン帝国が黙っちゃいないのでは…
「ノモス級の雄姿を見て確信した。お前の力があれば、この国はかつての栄光を取り戻すことができると」
「えっ…!無茶言わないでくださいよ!ロウアン基地には臣民解放軍の戦闘艦が10隻も駐留しているんですよ!まともに戦ったら勝ち目はありません!」
「だが、そのうち7隻は弱っちい護衛艦だ」
「駐留艦隊旗艦の一式重嚮導艦…朱雀がいるんですよ」
「あと、2隻の八七式嚮導艦もな」
「そうです!ノモス級と旧式艦じゃ勝負になりませんって!」
「おやおや」
「はい?」
「この星には既に、奴らを正面から撃破可能な戦闘艦があるんじゃないのか?」
「えっ」
「先日内務省から、こんな写真を入手したのだがね」
そう言って、ルシオは一枚の写真を見せてくる。
「これは…」
「戦艦ヒエロニムス。君の、“試作品”だろう?」
ばれてた。
「戦艦を操って雑魚相手に大暴れ。心が躍らないか?」
「私はエンジニア、軍人ではありません」
「首相指令だ。君は戦艦ヒエロニムスの艦長として、ナヴレン制圧作戦に参加したまえ」
「なんと」
「私は国王陛下の全面的な信認を受けている。この国のため、命を捧げてくれたまえ」
「かしこまり…ました…」
「ちなみに、このノモス級の艦長は私だ。私直々に、陣頭指揮を執る」
かくして私は、秘蔵の宇宙戦艦を軍に接収され、小惑星ナヴレンの制圧作戦に駆り出されることになったのであった。
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