本屋も色々ある。
卯野ましろ
本屋も色々ある。
数年前、お世話になっている本屋の入り口に「閉店」の二文字が大きく表示されていた。正しくは「閉店します。長い間ありがとうございました」というようなメッセージだった。ずっと通っていた本屋であったため、私はショックを受けた。
ちなみに、そのころの私は通販で書籍を購入することが多くなっていた。好きな漫画の単行本に特典が付くことが、大きな理由だった。お目当ての特典がある書店が近所になかったので、通販を利用するのだ。
その本屋が閉店を決めた原因はネットショッピングやペーパーレス(電子書籍など)の普及では、と私は思った。しかし長年お世話になっていた店がなくなるというのは、やはり淋しいことである。また、その本屋限定のコミックス購入特典もあったので、私は残念に思った。
閉店を決めた本屋は、書籍だけではなく文房具や日用品も売っていた。悲しいメッセージを表示した直後、その本屋では閉店セールが始まった。様々なものの値札に「◯%off」というシールが張られているのを見た私は「ああ、本当になくなってしまうのだなぁ……」と、ますます淋しくなった。だが、あのとき「あっ! これ超お買い得じゃん! ラッキー♪」などと思いながら買い物を楽しんでいる私もいた。
「閉店」の二文字に衝撃を受けた数日後、もっと驚く出来事があった。それは本屋の淋しげなメッセージが「これからも営業を続けます」という明るい言葉に変更されたことである。その本屋が閉店しないと知った私は、もちろん喜んだ。そして「こんな短期間に、一体この店で何が起こったのだろうか……」と不思議に思った。よく分からないが、とにかく本屋にも色々あるのだろう。その閉店になりかけた本屋は、今でも元気に営業中である。
閉店といえば更に昔「夜逃げした」と噂された本屋があったことを思い出した。また、その本屋も閉店セールをしていた。学校で同級生の男子が「これ、あそこで安く買えたんだ!」と購入品を見せながら、楽しそうに話していたのを覚えている。
正月に文具の福袋を販売していた本屋が閉店したときも残念に思った。お年玉なのか、福袋には文具と共に五円玉が入っていた。それが何だかかわいらしくて、そしておもしろかったのを今でも忘れていない。福袋の中身が想像していたよりも豪華で嬉しかったことも、はっきりと覚えている。最も気に入ったオシャレなペンケースは早速、新学期が始まってから使っていた。
本屋に限った話ではないが、お世話になった店は記憶に残るものである。どの店にも、そこにしかない魅力があるからだろう。
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