◆アリスがJKになるのを全員で必死に止める配信
こんばんアリス。
今日もいつも通り、私の部屋からの配信です。
『お、クラシカルなメイド服だ』
『ハウ○劇場で出てくるタイプのメイド』
『黒のハイネックブラウス。主張控えめのホワイトブリム。白手袋。黒いロングスカート。パーフェクトじゃないか』
『放棄を持ってポーズ付けて立ってほしい』
『もうずっとこれで行こう』
なんでこれが人気なんでしょうね……?
私としてはけっこう落ち着くスタイルではあるんですが。
城勤めのメイドも似たような格好してましたし。
『服飾文化、地球と似てるの?』
いや、こっちの方が遥かに粗末です。
フリフリとかありませんでしたし。
染め物の生地なんかこっちにもたくさんありますし、麻や布、シルクも当然あります。
あ、でも、魔物の糸を使ったシルクなんかは地球のより上質かもしれませんね。
特に耐久力の観点だと。
『魔物製のシルクかぁ』
『地球に持ち込んだら凄い金額になるんじゃないの?』
流石にこっちの世界でも凄い金額ですけどね。
魔力が付与されてるので、熱攻撃を防ぐとか呪いを防ぐとか色々と機能があるので、ごくごく一部の貴族や王族が身につけるためって感じです。下手したらお屋敷が建つくらい高いですし。
『さすが異世界』
『そういうの着たいとか思わないの?』
あー、ほしいと言われたらほしいですけど。
耐久力とかはどうでもよいです。
ある程度フォロワーパワー稼げてる状態だと全門耐性と全状態異常無効がデフォルトですし。
『裏ボスみたいな性能しやがって……』
ですので、純粋な服飾デザインだけで考えてます。
そう考えると地球産の服の方がほしいかなって。
★☆★天下一ゆみみ:じゃあ、もっと女の子女の子した服着よう カネなら払う ¥10,000★☆★
ありがとうございます! 払わないでください!
あ、でも女の子っぽい服で、一つ着てみたいのがあるんですよ。
『おっ、どんなの?』
『教えて』
セーラー服。
あるいはブレザーとかもいいですね。
『えっ』
『えっ』
『えっ』
『えっ』
『えっ』
……なんですかその反応?
あ、そういえばスタッフに行ったらなぜか引かれたんですよね……?
何か問題あるんですか?
『いや、えっと……』
『すごい似合うとは思うけど、26歳配信者が着るのはよからぬ文脈が生まれる』
『端的に言ってえっちのライン超えてますね』
『本人が着たいって言うんだから着せてやろうぜ!』
『待て待て待て。アリスさんはJKの制服着る意味をわかってないだろう』
制服を着る意味、ですか……?
あ、もしかして制服って、普通の人が着ちゃいけないって意味です?
騎士の身分がない人が騎士の格好しちゃいけない、みたいな。
『…………だいたい合ってる』
なるほど。
じゃあ、みなさん。
こう言いたいわけですね?
日本の女子高生の制服を着たければ、受験をしろと。
『そっち!?』
『高校受験? え、マジで?』
『なんで! なんでそう変な方向にばかり思い切りがいいのよ!?』
むう!
私が学校に行きたいの、変ですか!
『変っていうか、理由がわからん』
『そうそう。配信で食っていけてるだろうし』
でも、この配信見てる人、ほとんど学校に通ってるか卒業してますよね?
ずるくないです?
私、学校行ったことないんですけど?
『……なるほど』
『ああ、そっか』
『アリスさんは聖女で、配信者だけど、学歴がないのか』
そうですよ!
まあ、軍にいた頃に文字とか計算とか、基礎的な礼儀作法とかは習いました。
でもなぁ……学校って感じじゃなくて、家庭教師みたいなのが教えてて、学生生活とかは送ってないんですよ。
部活とか。
学校帰りに買い食いするとか。
教室の窓側、最高峰の席で眠そうにしてたら謎の転校生がやってきて、世界を破滅から救う戦いに巻き込まれるとか。
『アリスさんは謎の転校生サイドでは』
『アリスが転校してきたら避難防災計画の手引書を真っ先に読む』
ともかく!
そういう青春したいんです!
あと、そもそも中卒とか高卒の資格ほしいですし。
『案外切実だ』
『そう言われると、応援せざるをえないな……』
『制服はさておき』
なんで「制服はさておき」なんですか!
カワイイから着たいんです!
漫画とかアニメとかでみんな着てるし!
てゆーか他の服は着せたがるのに制服着させようとしないの、なんでですか!
『俺たちにはその資格がない』
『26歳配信者がJKの制服を着るという状況は非常に嬉しいし美味しいんだけど、JKの服を着せたという戦犯になりたくない』
『なまじ似合ってしまう分、ギルティ度が増す』
どーしてなんですかぁ!?
◆
アリスは、誠や翔子から様々な漫画を借りていた。
ついでに動画サブスクのアカウントを作ってもらい、ドラマや映画、アニメなど様々な映像作品を視聴していた。そこで、アリスはうっかり思いついてしまった。
私も女子高生になりたい、と。
26歳の大人の女性が女子高生の服を着るといううわキツ感については、地球に転移したばかりの今もまだ気付かない状態である。
それゆえに誠は、「その意味を知らない状態で着せるのはよくない」と思っていた。
だが一方で、アリスが学校に行きたいという願いは止めてはならないものだともわかっている。
学生をしたことがないという人間が学校に憧れるのはごく自然なことなのだから。
それに現実的な問題も解決できる。日本で社会生活をする以上、学歴はあっても決して困るものではないのだから。
「アリスは高校行きたい?」
動画が終わったタイミングで、誠はふと聞いてみた。
「はい!」
アリスは威勢よく頷く。
まったく迷いのないきらきらした目に、誠は覚悟を決めた。
「……すぐには行けない」
「ああ、受験とかあるんでしたっけ?」
「それもあるけど、そもそもアリスはなんていうか……戸籍とか住民票がない……つまり、身元を保証するものがないんだ。住民票の写しを発行してもらわないと、どの高校の受験資格も得られない」
誠の言葉に、アリスは眉をしかめた。
が、すぐ納得したように溜め息をつく。
「あー……異世界からやってきた人間ですからね……。多少の不便は覚悟の上です」
「おっと。勘違いしないでほしい。なんとかしてみよう」
え? とアリスは意外な表情を浮かべた。
「……なんとかなるものなんです?」
「具体的にはスパチャで稼いだマネーパワーと、マネーパワーで雇う弁護士パワーと知名度パワーで、住民票とかもぎとってみせる」
「み、身も蓋もない気がしますが、わかりました」
「どっちかというとアリスの身元保証よりも、セリーヌさんが『鏡』を通して物品を売買した件を無事に終わらせる方が大変かも……俺と翔子姉さんは書類送検くらいは覚悟しておかなきゃ……いやでも味方になってくれそうな役人もいそうだし……なんとかなるか……?」
誠が唐突にぶつぶつと難しい言葉を呟き始めた。
「あ、あの、誠さん? けっこう疲れてます?」
「だ、大丈夫! なんとかなるよ!」
「は、はぁ。でも無理はしないでくださいね本当に……」
心配そうにアリスは声をかける。
だが、誠は気にするなとばかりに笑った。
「いや、目的があった方が張り合いが出るよ。やろう。それに……アリスは、地球に来たからには地球を楽しんでほしい。そのために頑張ろう」
「……はい!」
アリスはえへんと胸を張った。
「あ、でも無理しないでくださいね。小難しい話が得意とは言えませんが、こう見えても聖女ですから! 役人や貴族と交渉したりって経験もけっこうあるんですよ」
「まあ八公二民の徴税役人とかは多分いないから、喧嘩はしないでね」
「しませんって!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます