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 誠は自宅で動画編集の作業をしていたところで、翔子からの吉報を受け取った。


「アリス、翔子姉さんからの電話だ。剣の目処が付いたらしいぞ」


 誠がアリスにそう伝えると、アリスは鏡の向こうでにんまりと微笑んだ。


「なんだ、やっぱり嬉しそうじゃないか」

「そ、それはそうです。やはりあるとないとでは話が違いますからね」

「動画も撮りためが増えてきたし、そろそろ動画投稿を始めようか」

「と、とうとうやるんですね」


 アリスが重々しく頷く。


「そんなに大それたことじゃないって。別に失敗したらやり直せば良いだけだ」

「ですけど、初陣は初陣です!」


 実直な返答に誠は苦笑する。

 だが茶化すことはなく、誠は『トルミル』にログインした。


「さて、それじゃあ第一弾の動画投稿と行こう」

「はい……!」


 誠は既に動画配信の経験者だ。動画そのもののデータの他、サムネイル画像や説明文など、あらかじめ用意すべきものは前もって準備している。流れ作業のようにアップロードを済ませた。


「お、回線空いてるな。アップロードもすぐに済んだ」

「おお!」


 アリスは喜びの声を上げた。


 ほとんどアリス用になっているタブレットで動画アプリを開く。そしてURLを直打ちして目当てのチャンネルを開いた。


「おお……これが……!」

「そうだ。これがアリスのチャンネル、『聖女アリスの生配信』」

「……マコト」

「なんだ?」

「ふと思ったんですが、投稿動画なのだから生配信ではないのでは?」

「まあそのうち生配信もやろう」

「そ、そうですね……それも一度やってみたいです……しかし、マコト」

「どうした、アリス」

「再生数が上がらないんですけど」

「そうだな」

「おかしくないですか!? そ、そんなに私の動画は魅力がないんですか!」


 アリスの顔が絶望に染まるが、誠はどうどうと宥める。


「落ち着いて落ち着いて、宣伝も何もしてないんだから当然だ。誰でも最初はこうなる」

「なら一刻も早く宣伝するべきです!」

「いや、まずは一週間くらい毎日投下する。『あ、ちゃんと毎日投稿してるんだ』ってことがパッと見でわかるようにしてから本格的に宣伝していこう」

「……考えがあってのことなのですね?」

「画面とにらめっこしててもアクセス数は増えない。大丈夫、動画のポテンシャルは保証するから落ち着いてやろう」

「は、はい」


 しかしアリスはそわそわしながらタブレットをいじり、ログインしてアクセス解析を見てはガッカリしてログアウトする……を繰り返している。誠はそれを生暖かい目で見守っていた。誠自身、自分の動画チャンネルを開設したときはそうだったからよくわかる。


 すぐに話題になることなどありえないと頭では理解していても、視聴者の反応がないか、どうしても気になるものなのだ。だからこそ、自分が落ち着いてアリスのサポートをしなければと誠は気を引き締めた。


「さて、これから忙しくなるぞ」







 幽神霊廟とは、神の眠る墓だ。


 今の世の人間は、あまりにもその場所に対して無知である。ただ伝説と恐怖だけが残るのみで、実際にどんな脅威があるかについては忘れ去ってしまった。


 幽神とはまさしく偉大なる死の神であり、その神が生み出した眷属や信奉者たちは霊廟の中で封印された幽神を、そして霊廟そのものを守っている。


 ただ、上層にいるドラゴンは眷属でも信奉者でもない。ただ霊廟の魔力に惹かれてやってきた野良犬に過ぎない。


「……野良犬と言えど、霊廟の庇護を受けた者が倒されたことには違いあるまい」


 幽神の眷属である守護精霊、スプリガンが呟いた。


 こんなことは数百年もの間、一度もなかったことだ。この霊廟の地下十層を守る存在として生み出されたスプリガンは、心が躍っていた。


 幽神の復活までただ静かに時が過ぎるのを待つのは、あまりにも長すぎる。当たり前に生まれた人間であれば肉体が滅び、あるいは人間の上位存在の魔人であったとしても精神が発狂するであろう。幽神の眷属であるが故に、体も心も滅びることなく長きに渡り生き長らえることができる。


 が、暇なものは暇だ。


 スプリガンは生まれ落ちて千年もの間、霊廟の上層を守り通してきた。自分の守る地下十層よりも下に進むことができた者は数えるほどだ。ほとんどの挑戦者が、鋼鉄の巨人たるスプリガンを攻略できなかった。百年も過ぎた頃には、挑戦者自体が現れなくなった。


 次に、霊廟の魔力に惹かれて外界の魔物がやってきた。これもことごとく倒した。倒した魔物は十層より下に行くことは諦め、やがて定住するようになった。結局、平穏が訪れてしまった。


 そんな退屈の数百年の中、ようやく挑戦者が現れたのだ。

 ここで心躍らずして、なにに踊るというのだろうか。


「さて、何者かは知らぬが……顔を拝ませてもらおうか」




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