本屋には
伽藍青花
第1話
ある日の放課後。
小学校からの親友が、話しかけてくる。
「おーい、一緒に帰ろーぜー」
「あー……。ごめん、今日、ちょっと用事ある」
最近、一緒に帰ることが少なくなっている僕に、彼は少し寂しそうに聞く。
「今日もかよ。最近つれねーなー。用事ってなんだよ」
「本屋に行くんだ」
「本屋って、なんでまた。お前、漫画ですら読むの無理だったじゃねーか」
「最近ハマったんだよ」
活字が苦手な僕が急に本にハマったことに、彼は疑わしい目を向けながら話を続ける。
「最近は電子書籍もあるし、初めはそっちの方が良いだろ」
「紙の本が好きなんだよ」
「わざわざ本屋に行かなくても、通販でもいいだろ」
「うるせーな、別にいいだろ」
僕は、これ以上深掘りされないように話を切って、本屋へ向かう。
僕が本にハマったのには理由がある。
好きな人が、本好きだからだ。
同じくクラスの女子で、家が本屋の子。
二人っきりで会えるのは、本屋の中くらい。
だから、本屋に行く。
今日は、彼女が店番だから。
彼女が教室で読んでいた本の中で、簡単そうだったものを持っていく。
「あの、これください」
彼女は、読んでいた本を閉じて、僕が渡した本のバーコードを読み取る。
「はい、770円ね」
「1000円で」
「最近、よく来るよね」
おつりを渡しながら、彼女が話しかけてくる。
急に話しかけられて、僕は少しびっくりした。
「えっ、あ、うん」
「本にハマったの?」
「まあ、そんなところ」
「ほんとにぃ~? 活字苦手って言ってなかったっけ?」
「君が、好きだから!」
「えっ」
「あ、いや、違くて。好きな君が本のことが好きだから、好きな人の好きなものが好きになって、それで……」
「ぷっ。何もごまかせてないじゃん!」
彼女が吹き出して、僕は恥ずかしくなった。
けれど、彼女の笑顔を見て、僕もつられて笑い出した。
夕方の本屋。
窓から差し込む夕日が、彼女の笑顔を赤く照らしていた――。
本屋には 伽藍青花 @Garam_Ram
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