024 そして当然だが、自分を批判されるのも大嫌いだ。
「とりま賠償金って形で有り金全部没収な。財布出せ」
「いやいや、損害賠償は親がすべきだろ。あ、モアのアネキってことは両親もいねェのか! 悪りィ悪りィ!!」
「ま、親がいなきゃあんな狂犬みてーな女になってもおかしくないわな。ははッ……あーあ、死ねば良いのに」
殺意と悪意が煮える現場で、メビウスは罵詈雑言を黙って受けていた。隣にいるフロンティアが怪訝そうな表情になり、もしかしたらメビウスのために怒ってくれたのかもしれない。彼女は、「てめえら、バンデージさんはあのちびっ子と関係ねえだろうが!! だいたい親がどうのこうの言うんじゃねえ!!」と怒り散らかした。
「あっ! そっか!
「着払いでセブン・スターのジョン・プレイヤーの家へ送られた哀れな
「ぎゃははッ!! 傑作だわ! 見ろよ、この勘違い女のアホ面ァ!! 男ぶってる癖に産まれをいじられたくらいで泣きそうな表情してるぜ!?」
予鈴まであと1分ほど。メビウスは自らを擁護したフロンティアが涙目になっていることを知り、途端に魔力を膨張させた。
「ンだぁ? やり合うつもりか?」
「そこの
「ンだよ、その目つき。本気でムカつくな。仲良く臨死体験してみるか──!?」
瞬間、その不良男子生徒3人は、膝をついてメビウスに屈したかのように跪いた。
「こ、
倒れた生徒のひとりの胸倉を掴み、白髮少女のメビウスは宣言する。その見た目に似合わない威厳をもって。
「良いか? 私は家族や友人を貶されることがとても嫌いだ。そして当然だが、自分を批判されるのも大嫌いだ。分かったか? 若造」
「……!!」
「どうした? 貴様ら、口が聞けないのか? いや、そんなわけない。先ほどまで饒舌に中傷を重ねてきたのだから、返事くらいはできるはずだ」
目の色が、メビウスの青い目が変わっていく。赤く染まっていく。それは憤怒の合図だ、と確信したフロンティアの涙は引っ込んだ。この白髮少女が威圧感だけでヒトを殺さぬよう、赤髪少女は肩を叩く。
「バンデージさん、もう勘弁してやってください。学校内で殺人事件が起きるのは怖すぎるし」
すでに3人は泡を吹きながら白目を剥いでいる。メビウスの見た目にそぐわない魔力に感化され、自身の身体を巡る魔の体力が萎縮したからだ。
血流のように巡るそれが身体のどこかで硬直しており、このままでは『睨み合っていたと思っていたら、片割れが突然跪いて足をピンと伸ばしている……要するに死にかけている』と思われても仕方ない。
「それに、こんな誹謗くらいで泣いてたら父ちゃん越せないですよね。オレが着払いで送られてきて一番頭抱えたのは父ちゃんだと思うし」
そんな折、予冷が鳴った。生徒3人が泡を吹きながら地べたに倒れている無法地帯へ、教員が訪れる。
「オリエンテーションを始めます~……なんです、この子たち」
当然、その小柄な女性教員は修羅場に気がつく。どのように言い訳しようか思考を巡らせていると、彼女は予想外の言動を見せる。
「まあ、
普通の学園であればメビウスは入学早々停学処分、あるいは退学を食らうはずだった。だが、MIH学園の美徳は強さだ。美学からもっともかけ離れたところにいる“弱者”の味方をするわけがない。
「というわけで、オリエンテーション始めましょ~。まずは在学生の中から特別講師を招いています~。キャメルちゃん、どうぞ~」
メビウスはポカンと口を開け、
まず、この意識不明の生徒3人を完全放置するつもりか? 魔力がすっかり抜かれていて、そろそろ注入しないと手遅れになる。頭に血が昇って手加減しなかったメビウスにも非はあるが。
それに、キャメルという名前は良く知っている。彼女はかの大統領クール・レイノルズの妹だ。もう10年以上会っていないが、最前の魔力膨張で察知される可能性は高い。正体を感づかれて良いことなんてひとつもないため、ここで事実上メビウスは自身の本性をさらけ出してしまったと思う。
そんなわけで硬直し座る素振りも見せないメビウスを訝り、教員が入ってきた段階で座っていたフロンティアがメビウスの袖を掴む。
「座ったほうが良いですよ。初日から目立つこともないでしょ」
「……。もうすでに目立っているような気もするが」
「ま、キャメル先輩のお話を聞きましょう。バンデージさんにはなんの意味もないかもしんないけど」
「ふむ……」
ちょっと不貞腐れた表情になったメビウスを、フロンティアはジッと凝視する。顔になにかついているのでは? と疑念を感じるほどに。
「先生。いくら後輩への見せしめだからって、死にかけの1年生3人放置はまずいのでは?」
「そうですね~。救急隊員、呼びましょうか」
とはいえ、学園内で殺人は発生しないようだ。キャメルの一声で彼らは助かる可能性が非常に高まった。
そして、身長150センチにも満たないくらいの低身長茶髪美少女キャメル・レイノルズは、つらつらとありがたいお話を始める。
──誰が台本を書いたのやら。カンペを頻繁に確認し、自分の言葉で喋れていないようだしな。ただ話し方自体は爽やかで抑揚が効いている。やはりクールの妹というだけあって、演説上手のようだ。
メビウスとキャメルはしばしば目線を合わせるが、彼女はまるで応じない。見た目があの蒼龍のメビウスでないと判断したのか、それとも魔力の探知ができないのか。
「──というわけで、以上です。ですが最後にひとつ。そこにいる白い髮の子、あとですこし話しましょう」
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