第三章 ~『妻になって欲しいとの告白』~


 ジルとのデートの当日――夕暮れで朱に染まる噴水広場で、彼と待ち合わせをしていた。


(まさかこんな短い期間に二人の男性とデートすることになるとは思いませんでしたわ)


 ケインもジルもどちらも誰もが羨む美男子である。だが当の本人のマリアは、ジルとのデートに対して緊張が勝っていた。


「おまたせしたね」

「い、いえ、全然待っていませんわ」


 黄金の髪に、整った顔立ち。大人びた格好の彼は、夕日を背に受けているからか、輝いてみえた。


「早速デートに行こうか。完璧なエスコートをしてみせるよ」

「お、お願いしますわ」


 ジルと並んで街道を進む。すれ違う女性たちが振り向くのは彼の魅力に惹かれたからだろう。


「今日はレストランを予約してあるんだ」

「どんな店か楽しみですわ」

「もうそろそろ……着いたよ、ここだね」


 案内されたのは王都でも有数の高級店だった。大貴族でも躊躇うほどの金額だと、噂で聞いたことがあったマリアは腰が引ける。


「あ、あの、ジル様、私はもっと庶民的な店でも……」

「私がご馳走するから。遠慮しないでくれ」

「で、でも……」


 躊躇うマリアの手を引いて、ジルが店の中へと案内する。店員と慣れた様子で話を進め、窓際の席に座る。


「こちらがメニューになります」


 店員からメニュー表を渡されるが、知らない料理名が並んでいる。困惑していると、ジルが助け船を出してくれる。


「私の方で注文しようか?」

「お、お願いしますわ」

「では――」


 呪文のような注文を伝えると、店員が頭を下げて去っていく。不相応な店の雰囲気に押しつぶされそうなほどの重圧を感じ、マリアの喉はカラカラに渇いていた。


 それからテーブルの上に豪華な料理が並ぶ。子羊のステーキや、魚介類のスープ、ブドウ酒まで用意されていた。


 だがマリアは緊張で味を感じなかった。空腹だけが満たされ、虚しさを覚える。


(ケイン様とのデートは楽しかったですわね……)


 庶民的だが、彼と一緒に過ごした時間の方が心は安らいだ。その内心を見抜いたのか、食事を終えたジルは「出ようか?」と提案する。


 二人で店を出る頃には、街はもう暗くなっていた。街灯の灯りが照らす道を二人は無言で歩く。


「……今日は悪かったね」

「い、いえ、ジル様は何も悪くないですわ!」

「いいや、君の性格も踏まえてデートコースを考えるべきだった。すまないことをした」


 楽しめなかった自分に対して、マリアは罪悪感を強める。だが彼の想いは十分に伝わっていた。


 冷たい空気が肌を撫で、二人の間に静寂が流れる。


「マリア、君に伝えたいことがあるんだ」

「はい……」

「私の妻になってくれないか?」

「――――ッ」


 突然の告白にマリアは固まるが、上擦った声で何とか言葉を返す。その言葉は、「少し考えさせてほしい」と保留を意味するものだった。


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