第三章 ~『霊獣の試練』~


 次の日、デートの興奮がまだ冷めないでいたマリアは、誰かに感情を共有したいと教室に向かう。いつもより早い時刻にも関わらず、ティアラが着席していた。


「おはようですわ。今日は早いですわね」

「マリアからの報告を聞きたくてね」

「お互い、考えることは一緒ですわね」


 話をしたいマリアと、聞かせて欲しいティアラ。互いの求めるものは一致していた。


「ケイン様とのデートは楽しかったですわ。意外にもカフェに通っていることを知れましたし、嫉妬深い一面があることも……」

「嫉妬? あのケイン先生が?」

「実は……ジルにデートに誘われましたの」

「え⁉」


 驚きでティアラはポカンと口を開ける。きっとマリアも逆の立場なら同じ反応を返すだろう。


 だが反応を示したのは彼女だけではなかった。聞き耳を立てていたのか、前の席に座っていたカイトも反応する。


「悪いな、聞くつもりはなかったんだが、驚きのニュースなせいでつい耳に入ってきた」

「隠しているわけではありませんから別に構いませんよ」

「だがまぁ、ジルか。悪い奴じゃないよな。人当たりは良いし、悪い噂もまったく聞かない。優良株だと思うぜ」


 女子だけでなく、男子から見ても人気者なのは、ジルの人格が優れているからこそだ。彼への尊敬がさらに深まる。


「恋人にするなら断る理由はないだろ」

「デートに誘われただけで、交際を申し込まれたわけではありませんわ」

「でも好意を抱いていない相手をデートに誘ったりしないだろ」

「それはそうですが……」


 ジルは女子たちの憧れの対象だ。イリアス家での不遇が原因で、自己評価が低い彼女は、そんな相手から自分が好意を抱かれているとは未だに信じられなかった。


「私ばかりずるいですわ。カイト様には浮いた話はありませんの?」

「ないない。俺が接する女なんて、マリア以外だとティアラくらいのものだからな。実は昨晩も二人で食事したんだぜ」

「デートしたんですの⁉」

「違う、違う。これから始まる試練のための作戦会議さ。昨日の夕刻に学生帳に通知が届いたんだが、まだ見ていないのか?」

「失念していましたわ……」


 昨夜はデートの興奮が冷めなかったせいで、手帳を確認するのを怠っていた。改めて確認してみると、カイトの言う通り、通知が届いている。


「霊獣の契約に関する案内ですわね……」


 霊獣とは聖女が従える魔物であり、パートナー同様、彼女らの味方となってくれる存在だ。その霊獣をダンジョンで発見し、契約するのが次の試練とのことだ。


「でも魔物って、ゴブリンとかスライムですわよね」

「そういう魔物もいるが、霊獣は違うぞ。聖女が従えることのできる魔物はキャット種のみだ」

「キャット種?」

「まぁ、一言で言えば猫だな。もちろん魔物だから戦闘力があるし、厳密には違うんだが、可愛らしい外見をしているから、女性人気は高いな」


 キャット種は上位種だと魔法を使うこともでき、下位種でも素早い動きと鋭い爪で強力な戦力になる。


 当然、上位種と契約した聖女の方が、大聖女に相応しいといえる。そのため試練の結果に対しても評価ポイントが割り振られる。


 グレーキャット:ランクE。評価ポイントを10ポイント加算

 ブラックキャット:ランクD。評価ポイントを20ポイント加算

 マジックキャット:ランクC。評価ポイントを30ポイント加算


(種族名から判断すると、マジックキャットが魔法を使える猫様ですわね)


 できれば上位種と契約したい。そんな願望を胸に、マリアは次の試練に想いを馳せるのだった。



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