第二章 ~『パートナー選び』~


 式典を終えて、ティアラと共にAクラスの教室へと向かう。階段型教室には横長の机が並べられており、自由な席に座ってよい形式だ。


 席の数は二十人分用意されている。既に交友を深めたグループが盛り上がっているところもある。


(ティアラと友人になっていて、本当に助かりましたわ!)


 既存のグループに話しかけるのは勇気がいる。だが声をかけられるほど積極的な性格でもない。隣に立つ友人が心強かった。


「マリア、ここの席に座ろう」

「いいですわね」


 ティアラが確保してくれたのは後ろの窓際の席だ。まだ他の人に取られていない幸運に感謝しながら腰掛けると、続くように彼女の前の席に男性が腰掛ける。


(どうして、神父さんがいるのかしら⁉)


 小麦色の肌に、綺麗な黒髪と黒目。鍛えられた肉体は修道服の上からでも分かるほどに盛り上がっていた。


「あ、あの、はじめまして」

「フン、俺に何の用だ……」

「え?」

「用事がないなら黙っていてくれ。俺は友人と話すのに忙しい」


 ツンツンした態度を向けた後、彼は窓辺の小鳥に話しかけていた。その行動は異常者そのものだ。


(イケメンなのに、残念な人ですわ!)


 最悪な第一印象を感じていると、ケインが教室へとやってくる。教卓の前に立つと、彼はグルリと周囲を見渡した。


「僕が君たちの担任になるケインだ。よろしくね。さっそくだけど、君たちの疑問を解消しようと思う」


 その疑問とはなぜ大聖女候補が集められた教室に同世代の神父がいるのかだ。


 その答えを伝えるため、ケインが指をパチンと鳴らすと、手帳が輝いた。中身を確認すると、新たなページが追加されていた。開くと、そこには学友である神父たちのプロフィールがズラリと並んでいた。


「これから君たちには、この場にいる神父の中から一人を選んでパートナーを組んでもらう。彼らは君たちの仲間であり、使用人でもある。なにせ大聖女候補は忙しい。学ぶだけで毎日が激務となるからね。それに候補生は命を狙われることもある。そんな時、彼らがボディガードとなり、守ってくれるはずさ」


 予想もしていなかった展開に、教室の候補生たちがざわめく。逆に神父たちは冷静さを保っている。既に教会側から事情を聞いていたからだろう。


「もちろん、彼らにも特典がある。パートナーが大聖女へと至った際、莫大な報奨金と上級司教の地位が手に入るからね。特に後者はお金で買えない。公爵でさえ喉から手が出るほどに欲しい権威なのさ」


 上級司教は王国に数えるほどしかいない。その権威は王族と並ぶ力があるため、十分過ぎるほどの報酬といえた。


「では誰と組むかだけど、ここにいる神父十名が投票し、票数の多い候補生が優先的にパートナーを選択できる。同数の場合は評価ポイントが高い者が優先されるから、順序が曖昧になることもないよ」


 説明を受け、パートナーの選定の難しさを知る。


 まずは票集めだ。同級生の神父たちに自分が大聖女になるだけの力があると示す必要がある。幸いにもマリアには主席合格という武器があるが、特徴のない人物だと票を集めるのも一苦労だ。


 さらに問題はもう一つある。それはパートナーを誰にするかだ。


(手帳のプロフィールを読んだ限りだと、最も人気がありそうなのはジル様ですわね)


 黄金の髪に、整った顔立ち。魔法の腕も超一流で、家柄も子爵家と悪くない。さらに幾つかのビジネスを成功させた経験もある商人としての顔も持ち、国内有数のお金持ちでもあった。


 だが彼の本当の価値はその職業適性にある。万能――時間制約はあるものの、どんな適正も模倣できる。数ある適正の中でも上位数パーセントに位置する貴重な能力だった。


(ジル様は誰に投票するのかしら?)


 ジッと視線を向けていると、彼は気づいたのか柔和な笑みを返してくれる。愛想も良く、人気者になるのは間違いないと確信した。


「投票は明日の夕方に実施するので、悔いのないようにね」


 ケインは説明を終えると、授業を始める。内容が頭に入らないほど、パートナー選びの件で頭を悩ませるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る