つまらない本屋さん

ねむるこ

第1話 つまらない本屋さん

 ふらふらとあてもなく街を歩いていると、可笑しな店を見つけた。

 じっと目を凝らして看板に「本」と書いてあることに気が付く。屋根に描かれた文字が読めなくなってしまうぐらいに建物は寂れていた。


 こんな所に本屋なんてあったか?


 俺は不思議に思いながらこじんまりとした店内を覗く。中に人の気配がなく、薄っすらと本棚が並んでいるのが見えた。

 道行く人は本屋なんて見えていないかのように慌ただしく通り過ぎて行く。

 目の前を通り過ぎて行った男性なんてスマホで漫画を読んでいた。


 今時本屋か……儲からないだろうな。


 電子書籍の売り上げが伸びる昨今。紙の本は年々売り上げが落ちてきているらしい。

 本を見て一番に思い浮かぶのが出版不況という言葉だ。

 社会人になってから本をめっきり読まなくなった。読むとしたらビジネス書か、参考書。自己啓発書ぐらいだろう。

 漫画も無料の漫画アプリで事足りる。

 最近は本の内容を完結に纏めた動画も出回っているし。それを見てしまえば時間を割いてまで読書に講じる必要もない。

 時間もあるし。冷やかしついでにこの古めかしい本屋でも見て行くか。

 そんな軽い気持ちで本屋に足を踏み入れた。


「何だこの本屋!」


 俺は思わず声を上げてしまった。

 本棚の本はスッカスカで、商売どころの話ではない。もしかすると出版不況で店仕舞いするところだったんだろうか……。

 辛うじて確認できる本を手に取って確かめる。

 ビジネス書少々、体を鍛える本。資格取得のための参考書。就活の問題集にビジネスマナーの本……。

 だだっ広い本棚に数冊ずつ収まっていた。


 これだけ品数が少ないのに、本を分類する必要あるか?一つの本棚に集めればいいのになんて心の中で文句を言う。

 更に店内を見回ると、やっと本屋らしい本棚に巡り合った。その本棚だけ他の本棚よりも本の数が多い。


「ちゃんと本、あったんだな」


 どんな本が充実しているんだろうと思ったら……なんと殆ど児童書だった。

 俺はパラパラと児童書を捲りながら呆れた。


「何だ?じゃあここは児童書の専門店ってことか?」


 他にも絵本や漫画雑誌が置かれているがどれもひと昔前のもので御世辞にも面白いと言えるものではなかった。


「ご主人この本屋、終わってるな。こんな品揃えじゃやっていけないだろう」


 俺が皮肉っぽくそう言うとレジの前でずっとだんまりを決めていた店主が口を開いた。


「ええ、本当に。終わってますよ貴方がね」


「え?」


 そう言われて俺は我に変える。

 なんて失礼なことを言う店主なんだと思った。


「はあ?何言って……」

「本は人を豊かにする。心を、思考を。行動すら変え、人生をも変えるでしょう。では、その本の品揃えが悪い人は?

この本屋のようにつまらない人なんでしょうね」

「……」


 まさか。

 俺は慌てて本棚の本を確認していく。

 ああ、そうだ。この本屋に置かれている本はどれも今までに俺が読んできたものだった。

 ということはこのつまらない本屋は……。


 気がついたら、俺は通りに突っ立っていた。

 本屋のあった方角を見るもそこには空き地が広がっていた。

 俺は頭を掻くと、再び歩き始めた。


 この辺にどこか本屋でもあったかな?

 


 

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