とある街の古書店

なつめオオカミ

第1話 とある街の古書店

とある街には古書店がある。

品揃えが豊富で店主の顔がいいと言うことから連日多くの人が足を運ぶ人気書店だ。

人が少ない昼頃。書店に一人の学生が訪れた。

彼女は朝日奈楓。よくこの書店へ通う本好きの学生だ。

「またサボりですか?朝日奈さん」

扉を開けて中を覗き込んだ楓に店主のである檜山蓮夏が声をかける。

細身で穏やかに笑みを浮かべ眼鏡をかけている彼は若いながら古書店を営んでいる。

「違いますよ、今日は創立記念日なんです。それよりオススメの本ありますか?」

「…全く。少し待っていてください取ってきますよ」

呆れたように蓮夏は店の奥へ入って行った。

楓は蓮夏を待つ間に店を回る。

この古書店、見た目に反して中が広いのだ。常連である楓でさえ全てを見切れているとは限らない。

そうしているうちに、ふと目に映る本があった。

「なんだろうこれ」

目についた本を棚から取り出してみた。

タイトルが掠れて読めないが辛うじて表紙の絵からミステリーかな?と思える代物だ。

「朝日奈さん。立ち読みは厳禁ですよ」

中を覗こうとした時に後ろから蓮夏の声がした。

「うっひゃぁ!」

「ふふ、なんですかその声」

「笑わないでくださいよ、びっくりしたぁ」

本を受け取りながらそう言えばと思いさっき見つけた本について聞くことにした。

もしかしたら掘り出し物なのかもしれない。

「そう言えば、これ何の本なんです?題名が掠れて読めないんですけど」

さっきの本を取り、蓮夏に見せてみる。

すると、いつもだやかに笑みを浮かべている蓮夏にしては珍しく目を少し見開くと掛けている眼鏡を外した。

何故眼鏡を外したのだろうと思っていると暫く間が空いて答えが返ってきた。

「それは…最近流行っているミステリー本ですよ、旅館の殺人。聞いたことぐらいあるでしょう?」

「あれなんですか!でもこんなにボロボロで…」

本の正体は楓も一冊持っている超人気なミステリー小説だ。外がボロボロだから中はどうだろうと思い本を開こうとすると…

「っ!開けるなバカ!」

という蓮夏の声が聞こえた気がしたが時すでに遅し楓は既に本を開いていた。

「え?なにこれ!」

開いた本から文字が飛び出してあたりに飛び散り楓に向かって突進していく。

「きゃあ!こないでよ!」

それなりのスピードで向かって来る藍の文字に思わず身構える

「全く、この書店では立ち読み厳禁なんですがねぇ」

緩い声がして蓮夏が目の前に立つ。一冊の蒼い本を持ち一言

「鎮帰」

と言った途端、周りを飛んでいた文字たちが帰っていく

「毒には毒で制す、あの文字達はヒトの思いが溢れて具現化した物…さて、見たからには手伝ってもらいますよ?朝日奈さん」

「ヒェ…」

この超現象と緩やかに笑みを浮かべる店長を見て今までの日常が変わってしまう予感がした。


後書き

人生で初めて応募する作品です。

余裕で777文字通り越してしまいました……。

楽しんで頂けたら幸いです。

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とある街の古書店 なつめオオカミ @natsumeookami

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