第7話 グラノーラはこの世界初のジャンクフード?

【グラノーラはこの世界初のジャンクフード?】


 城のパンは不味い訳では無い。

 僕たちの食べるパンは全粒粉だが小麦パンだ。

 でも、前世日本の知識を持つ僕からは、

 さして美味しいものではない。


 パンは、


 白い小麦パンー王侯貴族

 全粒粉パンー上位層

 ライ麦パンー下位貴族、庶民

 雑穀パンー貧しい庶民


 と、身分・収入とパンの質がリンクしている。

 

 貧民になると、パンも食べられない。

 雑穀のお粥が主食になる。


 それと、前述の理由で自作にこだわる必要がある。

 つまり、毒対策だ。



 僕たちは拠点近くの村までいって小麦・ライ麦・燕麦を購入した。

 1年分をそれぞれ200kgとし、一括で買い上げた。


 籾摺りや製粉はもちろん自分たちで行う。

 これも製粉用の魔道具を作った。

 風魔法の応用で、さして難しい魔道具ではなかった。



【黒パン】


 ライ麦パンは、別名黒パンである。

 パンと言っているが、小麦パンとは性質が違う。


 一番の違いは、ライ麦にはグルテンが含まれていない。

 そのかわり、ライ麦パンはサワードゥというものを用いる。

 ライ麦粉に水をいれて放置すると、やがて発酵する。

 乳酸菌と酵母が成長するのだ。

 これがサワードゥである。


 サワードゥをパン生地に混ぜる。

 すると、乳酸菌は乳酸や酢酸、二酸化炭素などを生成する。

 乳酸や酢酸は酸っぱさの元となる。

 二酸化炭素は生地をふっくらとさせる。

 しかし、小麦ほどのふっくらはない。


 これがライ麦パンの味を決定する。

 少し酸味があり、固いパン。

 あと、ライ麦自体の味。少し苦い。



 もう一つ。

 前世日本のパンとの大きな違い。

 日本のパンにはたいてい砂糖を入れる。

 発酵を促せるためだ。


 ところが、欧州のパン、フランスパンとか黒パンには、

 砂糖を入れないことが多い。

 欧州人が黒パンを恋しがるのはここにある。

 甘いパンを好まない人もいるのだ。


『坊っちゃん、私は白パンより黒パンのほうが好きですね。小さいときからこれで慣れてきましたから、固くて酸っぱくないとパンを食べた気になれません』


 ロベルトのように、一部は黒パンに慣れている。

 固くて酸っぱいパンがソウルフードなのだ。


『私も小さいときから黒パンでしたが、白パンのほうがいいですわ。お祝いごとの時に食べるパンでしたもの』


 だが、多くはエレーヌのような感覚を持つ。

 小麦パンとライ麦パンを比べると、

 小麦パンのほうが格上、という価値観がある。

 

 日本で言う、銀シャリと麦飯、雑穀飯の差と同じだ。


 ところが、栄養面からはライ麦のほうが小麦よりも

 (表皮を取り除いた小麦)

 ビタミンB類、ミネラル、食物繊維が多く含まれている。



【グラノーラ/フルグラ】


 黒パンには癖がある。

 口に合わない人も多い。

 僕も黒パンを嫌いではないが、毎日では飽きてくる。

 そこで考えたのが、グラノーラだ。


 グラノーラの主原料は燕麦。

 猫の草を成長させると、燕麦になる。

 オーツ麦だ。

 燕麦を乾燥させて押し麦(オートミール)にする。

 お粥にして食べたりする。


 決して美味しいものではない。

 ただ、栄養があり、健康食品として食べる人も多い。


 僕はそこを一歩進めてグラノーラにしてみる。

 燕麦の押し麦・ナッツ類、麦芽糖、植物油とで混ぜて

 オーブンで焼いたもの。


 さらにドライフルーツを混ぜるとフルーツグラノラとなる。

 レーズン、ブルーベリー、ラズベリー、リンゴなどが、

 この周辺では簡単に手に入る。



 ただし、グラノーラをジャンクフードと呼ぶ人もいる。

 ならば、僕がこの世界で初めて作るジャンクフードかな?


 燕麦は表皮を取り除いた小麦よりも

 豊富な栄養素を持つ。

 しかし、グラノラは砂糖が非常に多い。

 ダイエット目的だとここがネックになるし、

 砂糖自体があまりよい添加物ではない。


 僕は砂糖の代わりに麦芽糖を使用する。

 麦芽糖だから健康にいいとかはない。

 糖分だから、事情は同じ。

 ただ、手頃な甘い添加物が麦芽糖しかない。



【小麦パンは白くてフワフワ】


 前世で僕たちが気軽に食していたパン(小麦パン)。

 それさえ、この世界では手に入れるのが大変だ。


 この世界では酵母菌はまだ発見されていない。

 経験的にビール(エール)樽で小麦をこねると、

 パンがふっくらすることが知られていた。


 僕はそれを一歩進め、パン専用の酵母菌を作ることにした。

 酵母菌作成はさほど難しい訳では無い。


 フルーツエキス

  フルーツに糖分と水を加え、発酵させる。

 

 元種

  小麦、フルーツエキス、塩を混ぜて発酵させる。

  これが元種になる。

  これを使って、小麦粉を発酵させ酵母菌を増やす。


 フルーツエキス、元種にせよ、品質は安定しない。

 また、パンを作る時の発酵具合も、

 素材以外に温度や湿度が関係してくる。


 だから、安定したパン作りは難しい。

 これも魔道具では解決できない。

 ここまで複雑な条件がからむと、

 人の経験に頼らざるをえない。



 ただ、単純作業の魔道具は性能が高い。

 つまり、ゴミ除去、脱穀、製粉魔道具。


 これら魔道具はこの時代でも最高級品質の製粉が可能だ。

 魔道具が普及しないのは、高価であること。

 一般的に燃費が悪い、つまり魔力消費量の多い傾向にある。

 一般庶民では手が届かないのだ。



 パンには砂糖は入れない。

 高価だからだ。

 その代わりに麦芽糖を入れる。


 糖分を入れなくてもパンはできるが、

 発酵に時間がかかるのと、よりこねる必要がある。


 出来上がったパンはフランスパンに近い。

 外側はカリッと中はふわっとした仕上がりになる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る