本屋の中で、交渉

一色 サラ

交渉

 ショッピングモールの内に本屋さん。多くの家族連れがやって来る。いつものように、親子の言い争いが聞こえてくる。

「こっちにしなさい」

「こっちがいい」

 小学生くらいの男の子が親と揉めている。その声は静かな店内に響いているが、親は声を荒げて、子どもが買う本を見定めることに必死なようだった。

「いい加減しなさい。こっちの方が分かりやすくでしょう」

「どこが?」

 親は黙ってしまう。子どもを言い負かせるつもりが出来なかった親は、素直に子どもが望んだ本をレジへと持っていった。たまにここに来ると、こういう光景が見ることができる。大人になれば、自分が欲しい本を自分で買う。でも、子どもは親に欲しい本を交渉しないと買ってもらえない。


「ママ、これ欲しい」

幼稚園児くらいの女の子。絵本を母親に見せている。

「それは高いからダメ。こっちにしよう」

 母親は女の子が選んだ絵本を取り上げて、「これ持って」と母親が選んだ絵本を女の子に持たせた。女の子は何も言わなくなった。母親に手を引かれて、絵本を片手で持って床に引きずりそうになって、俯てトボトボと歩いていく。この時点で、子どもは交渉は決裂してしまう。可哀想にも思えるが、これが現実なんだろう。女の子はまだ幼いし、母親の言葉には態度にはまだ勝てないのだろう。

 

「これ買って」

「また、漫画」

「いい加減しなさいよ。もうちょっと賢い本を読もうと思えないの。ダメだから、元のある場所に戻してきなさい」

「賢い本って、何?」

「小説でしょう」

「別に、漫画も賢い本だよ」

 子どもはまだ、交渉するように買ってと言い続けているが母親はを無視して、レジに行って買い物を済ませてしまった。少し、母親の機嫌を損なってしまったようで、男の子は酵素湯を失敗したようだ。


 子どもは1冊の本を買ってもらうのに、こんなに苦労するんだなと思う。子どもの頃から交渉力をもっと身につけておければよかったと感じてしまった。




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本屋の中で、交渉 一色 サラ @Saku89make

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