38-0魔王様、願いを叶える

 四界統一を果たした。


 ということで、いつも通りみんなにお任せして開催されることになった勝利の宴。


 誰かが三日三晩続けるぞ、と言ったのは聞こえていたけれど、まさか実現するとは思わないじゃん?


 誰も寝てないの。


 大丈夫? もう死んでない?


 僕はカフェインの過剰摂取で何とか起きてるよ。


 今、うたた寝しなかったって?


 起きてる起きてる。


 ちゃんと産まれた子にミルクをやりながら、頑張って起きてるよ。

 メイド達も宴で忙しいからね。


 でも、そろそろ限界かも。


 僕は、とても大きなアクビをしてしまった。


 それを見計らって、主要メンツが僕の前に並び、跪く。


 どうしたの? ドランのワイバーン・モバイルシステム起動してるじゃん。


 世界中にこの映像を発信させて、何をさせるつもりかな?


 美紗に押され、ヒデオが前にやってくる。


 大丈夫かな? 冷や汗びっしょりだよ?


「ジェイド様、つきましては、そろそろ褒美のお願い事を……」


 そうだね。

 そしてそういう事だね。


 僕が眠たくなるまで待ってたよね?


 僕の思考が鈍ると思った?


 美紗の入れ知恵かな?


 残念、僕は眠くなる程、集中力を増す人間なんだよ?

 むしろ別の意味で覚醒する頃合いじゃないかな?

 

「良いぞ、ヒデオ・ラッシュ。約束だからな。貴公の望みを言うが良い」


 久々に魔王モードで言ってみる。


 お願い事を聞くんだから、やっぱり威厳がなくっちゃね。

 ちゃんと簡易の玉座も作って設置したよ。


 だからそんなにビクビクしなくても良いのにね。


 美紗がヤッベーって顔して、みんなに睨まれている。ふふっ、良い気味だ。


「と、特に何かある訳じゃなぃんすが……」

「ぉん?」


 ここで遠慮するぅ?

 僕が魔王モードになっちゃったからかな?

 んー……。

 

 僕が魔王モードのままで悩んでいたら、ヒデオが美紗やらフーリムやらにど突かれていた。


「いででで! じゃ、じゃあコイツを! 家宝に致しやすんで!」


 そう言って僕に差し出すように見せてきたのは二振りのビームセイバーだ。


 ごめん、渡したままだったね。

 良いよ。せっかくだし、あげよう。


「良かろう。勇者ああああを幾度となく押し留め、さらには押し返した功績に十分見合うであろう。今後とも、魔王近衛隊の長として、存分に力を奮うが良い」


 僕は立ち上がり、左手でマントを広げながら、全世界にヒデオの貢献度をアピールしておく。


 ちゃんと僕も見てたからね。


 ハイライト映像も流してあげよう。

 眠気を誤魔化すために編集した甲斐があったってものだね。


 ヒデオは、将軍の家来が俸禄を受け取った時みたく、ハハァ、と言いながら下がって……駆けて消えた。


 え? 帰ったの?


 あ、とっても遠くからギャラリーに混じって見てる。


「じゃあ次は俺な!」


 ふふんと鼻を鳴らして出てきたのは、ヒデオを差し出して僕のやりたげな事をほぼ理解した美紗だ。


「ミーシャ・ヴァーミリオン。『黄昏』の勇者として、魔王ジェイドの妻として、よく傍に仕え、よく支え、最後までよく戦った。愛してるよ、美紗。ずっと、これからも、永遠にね」


 ここは敢えて愛を囁やこう。

 世界に向けてね。


 魔王モードのままで来ると思っていたらしい美紗の顔は、耳まで真っ赤になった。


 僕含め、全世界の生きとし生ける者がニンマリしていることだろう。


「うっせ! 知ってっし! んなことより! 俺の褒美な! みーくんの花嫁は俺のモノ! 以上! 分かったな! ヨロシクゥ!」

「ハイハイ」


 僕の投げやりな返事を聞く前に、美紗は駆けて消えていった。


「コンチクショー! 恥かかせやがってぇ! みーくん、覚えてろぉ!」


 遠くから、怒りのヤジを、飛ばす美紗。

 顔はしばらく、赤いままだね。


 実に気分が良いね。

 僕は玉座に座り、遠くで吠える美紗を眺める。


 さ、この上機嫌な状態でやってくるのは、ネイとアム。

 二人同時に僕の前に跪く。


「此度の戦における全ての危機は、吾輩が齎したモノである。容赦、恩赦の余地は無い程である。しかしながら、生存こそが願いの条件であるならば、せめて、アムには、今後の生活に不自由なきよう取り計らっていただければとお願い申す。吾輩はどうなっても良いのである。せめて、アムだけは、容赦を」


「ジェイド様、ネイも悪かったっちゃが、アムも悪かったっちゃ。全ての功績を、ネイやアムの失敗の帳消しに使って良いっちゃ。ネイの言った事の後半は忘れるっちゃ! アムは、ネイが無事でさえいてくれたら、アムだけ地獄に行っても幸せっちゃ! でも、出来ることなら、失敗を帳消しにして、今までと同じように、ネイをここに住まわせて欲しいっちゃ」


 まだ引き摺ってたの?


 良いって言ったのに、土下座までしちゃって。


 あー、そうか。

 僕が軽く言うからいけないんだな。


 周りの目もあるし、ここはビシッと言っておこう。


「『真』の勇者ネイ・ムセル、『雷』の魔王アム・ノイジア、そして皆よ、聞けぃ!」


 僕は再び立ち上がる。結構疲れるな、コレ。


「最果ての地より、サウス・マータゲートにおける勇者ああああの移動速度は完全なる想定外だ。それを失敗とは思わん。むしろ、魔王アムと勇者ネイは、よく止めた。あの場で留めねば、完全に戦線が崩壊していたであろう。失敗? 何を言う。立派な功績であろう? よくやった! それともナニか? 我が存命し、功績として讃えようというのに、敢えて拒むか?」


 僕は演技で睨む。

 真っ青な顔しなくても良いんだよ?

 演技って分かってるよね?


「無言、ということは、功績として良いということだな! 住まいは改めて用意しよう。しばらくは魔王城内に……離れでも作ろうか。結婚式も挙げて良いぞ。日取りはまた後日、使いの者を出そう。それで良いな?」


 僕はニッコリと微笑んだ。

 はずなのに……。


 訪れる静寂……からの、割れんばかりの拍手が沸き起こる。


 何だったのかな? 今の静かな間は?


 でも、ネイとアムの潤んだ目に免じて色々と許してあげよう。


 2人は改めて僕に頭を下げ、ギャラリーの中に消えていった。


 どうして? 別にこの場に居ても良いんじゃないの?


 あ、遠くで2人並んでコッチ見てる。

 メッチャ笑顔じゃん。

 緊張してたんだね。


 相手が僕なんだからもっと気楽にしてくれれば良いのに……ねぇ?

 

 続いてショーコとアイが出てきた。


「『閃』の勇者ショーコ・ライトニング、『氷』の勇者アイ・スクリームよ……」

「ジェイド! もうそーゆーの良いから! みんなビビってんの! 早くしてやれよな!」


 しょぼんとする僕。

 アイに怒られちゃった。


「じゃあ、サクサク行こうか。二人はなーに?」


 ということで、いつもの僕モードに移行しまーす。


「私と、結婚……してくださぃ!」


 ショーコからプロポーズされちゃった。

 いつの間にか、花束を持たされている。

 光速移動を使ってまでやることかな?

 

 いや、やりたかったんだよね。


「良いよ。美紗もオッケーみたいだし」


 遠くで見てる美紗が、腕で大きな丸を作っていた。

 美紗がオッケーなら全部オッケーだよ。


 まだ、僕は頑張れる。


「あたいは、あたいと子供を大事にしてくれれば……あ、子供の名前をつけたい! 子供の命名権ちょーだい!」


 オッケー。僕は頷いて了承した。


 そう言えば、まだ子供の名前決めて無かったよ……。


 美紗が遠くでバツ印を作っている。


 よく分からないけれど却下だね。

 美紗のネーミングセンスはちょっとね。

 僕やミーシャの名前の付け方からして、アレだからね。

 僕がしっかり考えることにするよ。


 そして次に前に出てくるのは、『運』の勇者ロドラ・コンクエスト。


「正直に言うよ。ロドラ、ありがとう。あんまり僕に良い想い無いはずなのに、よく戦ってくれたね」


 ロドラも、僕が真面目に応対すると思っていなかったのか、少しだけ、驚いている。


「ワレも、そのへんはよく分からんゾ。ただ、勇者として為すべきことを為したまでゾ」


 ぶっちゃけネイも美紗もサウス・マータゲート前であんまり役に立たなかったからね。

 運の要素が強かったとは言え、区間賞あげたいくらいだもん。


「さて、ワレの願いだが……」

「ごめんね、ロドラ。ロドラのお願いを聞く前に、別の方々がビデオ通話を所望されております。はい、ではどーぞ」

「ほぁ!?」


 驚くロドラを余所に、僕は早々にぶん投げた。

 2つのモニターに映るそれぞれのお姫様に。


『ロドラ様! 魔王ジェイド・フューチャー様より許可をいただきましてよ!』

『リアーナ! はしたないです! まずはジェイド様以外に自己紹介ですの! わたくし、ルーブムンク王国第一王姫、フィオーラ・ルーブムンクと申します。以後お見知りおきを』

『あら、それは失礼ですわね。私は、トルサマリア王国第一王姫、リアーナ・トルサマリアですわ。よろしくお願い致しましてよ』


 サウス・マータの人類を統治する2王国の姫だね。

 リアーナは金髪ドリルツインテール。

 フィオーラは桃髪ポニーテール。


 2人とも、11歳だってね。

 可愛くて元気いっぱいのお姫様達だよ。


 いきなり僕にワイバーン・モバイルシステムで通信してくるくらいには度胸がある子達だ。


「なんでココにいるゾ!? しかも『ジェイド様』とはどういうことゾ!?」


 僕を睨むロドラ。

 でも、僕は怯まない。


「僕は何もしてないよ。彼女達を『応援する』と言ったら、勝手にそう呼ぶようになっただけ。ね? 二人とも」

『その通りでしてよ!』

『むしろジェイド様だけが味方でしたの!』

「……だけ、ゾ?」


 ロドラの顔が怒りの赤から青に変わる。

 嫌な予感しかしない。

 そんなことを言いたい顔をしてるよ?


『そもそも、ロドラ様はナニをお願いするつもりでして?』

『私も気になりますの』


 姫様二人に問い詰められて、タジタジのロドラ。


「別に普通の事ゾ! もう勇者の仕事もなくなるゾ……。そこそこの地位と名誉と老後まで安心のお金を、ワレは所望するゾ!」


 なんだ、割と現実思考じゃん。

 僕、ロドラの考え方、結構好きだよ。


 拍手する。

 僕だけではない。

 リアーナやフィオーラもだ。


『でしたら、問題無くなりましてよ。ロドラ様』

『これで安心ですの。ロドラ様』


 2人は、違う場所にいるはずなのに、画面に合わせて、向き合い、決心したように頷く。


『ワタクシとフィオーラと、結婚していただきましてよ!』

『私とリアーナと、結婚するんですの!』


 唖然とするロドラは、完全に思考が停止しているようだ。


「2人が……結婚するゾ? おめてとうゾ?」

『ロドラ様も入れて3人でしてよ! 3人で夫婦でしてよ! 誰が好き好んでそんなワガママ娘と!』

『3人で夫婦ですの! ロドラ様! 両手に華でございますの! じゃじゃ馬娘と一緒なのはしょうがないことですの! 賑やかし用の道化師とでも思って下さいですの!』

『なにぉおでして!?』

『だぁれがワガママ娘ですの!?』


 ギギギギという歯軋りが聞こえてきそうなくらい歪み合う2人だけど、誰がどう見ても仲良しだね。

 政略結婚かと思ってちょっと様子見てたけど、これなら大丈夫そうだ。


「ドッキリぞ?」

「見える?」

「将来の話ゾ?」

「今だよ」


 大丈夫じゃないのはロドラの方だね。


「さぁ、どうするロドラ。まずは、姫君方に返事をするべきだと思うな」

「いや何言ってるゾ!? 年端も行かぬ女子……それもサウス・マータを統治する二大王国の姫ゾ!? そんなことすればどうなるか分かってるゾ!?」

「だから、僕に対するお願い、残してあげてるんだよ? ロドラのお願いの条件、満たしてない? そこそこの地位と名誉とお金。全部あるよ?」


 ロドラは膝を付き、地面を叩きながら叫ぶ。


「姫との結婚が『そこそこの地位と名誉』な訳無いゾォ! しかも二股ゾォ!」


 でも僕の援護射撃は止むことを知らない。


「王様にだって側室の一人や二人、ねぇ?」

「選べるかぁ! ゾ!」


 無理矢理、ゾって付けなくても良いのに。


『そこはすでに決着しておりましてよ』

『先に子を孕んだら正妻ですの』


 解決済み。素晴らしいじゃないか。


「素晴らしくないゾ!」


 心読まれちゃったかな?


「ねえ、ロドラ、嫌なの?」

「うぐぅっ!」


 分かりやすく動揺するね。

 まぁ、子供だけど綺麗だし、将来間違いなく美人だよね。


「国民の反発は必至ゾ?」


 僕は星ノ眼で、それぞれの王城前広場を映し出す。


 画面いっぱいに群がる人々は、皆揃ってロドラコールを上げていた。

 それを見て、ロドラは固まっている。


「当然、僕が仕掛けた訳じゃない。姫達が煽った部分はあるだろうけど、それでこんなに人は集まらない。勇者として、認められ、祝福されている現実も見てあげて。こっちの映像も」


 そう言って、僕は王室内の映像も映した。


 それぞれの妃は応援グッズを持ってこちらに手を振っており、王様も……涙しながらも腕で大きな丸を作ってくれていた。


「大丈夫。僕もネイも、人の事言える立場に無いし。僕の応援があれば、気にすること無いよね?」


「うっ、だが、それでも……」


 往生際が悪いなぁ。


『ロドラ様、ワタクシと、結婚してもらえなくて?』

『ロドラ様、私と、結婚、嫌ですの?』


 ……姫達の、うるうるビームだ。


「ぐっ……分かった! 分かったゾ! 但し条件ゾ!」


 おやおや? 僕は注視し、準備する。


「いつも喧嘩ばかりゾ。仲良く……2人仲良くするゾ? それが、条件ゾ」

『ありがとうございましてよ! 大好きでしてよ! ロドラ様! 大好きでしてよ! やったぁ! 父様、母様! やりましてよぉ!』

『ありがとうですの! お慕いしておりますの! パパ! ママ! やりましたのぉ!』


 喜びを爆発させる二人に、沈むロドラ。


 僕は準備しておいたタンカで、ロドラを運び出してもらった。


 おめでとう。そして、頑張って!


 拍手の中、淀んだ空気を振り撒く『翼』の勇者、ポン・デ・ウィングが現れた。 


「ラヴをください……俺っちにも、ラヴをくださいッスゥー!」


 勇者の威厳も何もかもを捨てた男の末路を見た気がした。

 まぁ、気持ちは分かるよ。

 声には出さないけどね。

 キラリと光るヘッドに免じて、僕も協力してあげよう。


「勇者ポンよ。良き相手を見つけてやる、と魔王ジェイドの名の下に約束しよう」

「おぉ……マジっすか……ありがたき幸せっしょ」


 ポンだけじゃなく、どよめく世界。

 こんなことに魂の盟約をするんだからね。


 でも、どうせすぐに見つかるよ。

 だって、ロドラに次いでの活躍だもん。


 勇者ポンがいなければ、アムとネイが止められず、確実に崩壊していたからね。


 それでも見つからなければ、仲良さそうだったメイドさんに声を掛けよう。

 満更でも無さそうだったし。


 勇者ポンは喜びの舞を踊りながら奥に消えた。


 だからなんで誰も残らないのかな?


 次に、ゲンタ、オリシン、あと大きくなったヌエが来た。


「私達の約束は決まっておりますー」

「あっしらの当面の支援の約束と、たまにで良いのでヌエに会いに来てやってくだせぇ。そんだけですぜ」


 その約束を違えるつもりは無いよ。

 ちゃんと守るから、安心してね。


 僕は頷き、二人と握手した。


 でも、ヌエは不満のようだ。


「違うよ! 私も結婚! ジェイドおじさんと、結婚するの!」


 相変わらず僕のハートを抉ってくれるねヌエは。

 おじさん扱いは、本当に精神的ダメージ大きいよ。

 

 でも、子供相手に本気になってはいけない。

 何事もね。


「ヌエ、大きくなって、その願いが変わらなかったら、結婚しようね」


 そう言って、ヌエの額にキスをする。


 ヌエは、額に手を当て、にへへと笑い、ゲンタとオリシンと手を繋いで奥に消えた。


 ねぇどうして? すごくすごくどうして?


 いい加減みんな揃って奥に消える理由を知りたくなったんだけど、ジャックがもう目の前にいた。


「俺様は……旅に出る。永久パスポートとそこそこの金をくれ。金は最低限で良い。あとは俺様が稼ぐ」


 淡白なお願い。


 だけど、ジャックらしいと言えばジャックらしいかな。


「いってらっしゃい。いつでも、帰っておいで」

「……おうよ」


 最後に少しだけニッと笑うところもジャックらしいね。


 僕は手持ちのお金入り袋を渡す。

 そして、僕直筆のパスポートを発行する。

 世界に1つしかないジャックのためのパスポートだ。

 ジャックは、それらを受け取り、去っていった。


 うん、こういう形で僕の前から消えるのは有りなんだよ。


 ん? 魔王城の城門の上からジャック、こっち見てない?


 僕が物申してやろうと思ったら、ウーサーが笑いながらやってきた。


「ふはははは! 我は一生遊んで暮らせる金と地位と名誉である! 一生遊べる金と地位であるぞ!? さぁジェイド、どうする!?」


 え? どうするって……え? ウーサー……君もなの?


 いつの間にかウーサーの横にいたネーサーが、僕の思ったことを代弁してくれる。


「つまりジェイド様の嫁にしろ、という回りくどい言い方ですので、今後とも不肖、私の妹ですが、ジェイド様ヨロシクお願いしま……」

「ちがぁあう! んな訳な……」

「だって、ねぇ。それで全部揃うじゃん」


 僕の言葉に、横に首を振りながらも涙を浮かべるウーサー。

 耳も顔も真っ赤だよ?


「違うのであるぅ! ジャック! 我も連れてけ! こんなところいたら、我の頭がおかしくなるぅ!」


 ウーサーは、失礼なことを叫びながら、城門の上でこちらを見ていたジャックに走り寄る。


 ジャックは、笑いながらも嬉しそうに言った。


「おぅよ。よろしくな、ウーサー」


 そう言っているように、僕には聞こえたよ。


「私、ネーサー・ペンタゴンは、ジェイド様の第3妃として、続けて傍に居させてもらいます。子供も、産ませてくださいね」


 ネーサーは、さすがネーサーって感じだよね。

 潜ってきた修羅場が違う。


 僕はネーサーの頭を撫でて了承した。


 そしてネーサーは、逃げるように去った。


 うん、これは去るよね。


 瘴気を纏ったルナが、そこに立っていた。


「……もうだめ。情操教育の終焉だよ……。なんで、ピュアラブが無いの? こんなの未来も無限ループなんじゃ……ジェイドくんの……子供……ハッ! 私が、ジェイド君の子供の専属家庭教師になる! それで、教育を……正しい教育を!」


 なんか一人で解決してくれそうなので、それを願いとして聞き入れた。

 多分、きっと、何とかなるなる。


 僕が終始ビビり散らしていたせいで、世界に別の意味のどよめきを与えてしまった。

 でも、フーリムのおかげで平常運転開始だ。


「私もジェイドとの子供が欲しいわ! 私も結婚させなさいよ! もう何番でも良いんだから! ねぇ、私と出会った時のこと覚えてる? 一目惚れ(疑惑)だったのよ! それがどうしてこんなことに……」


 オヨヨと泣き崩れるフーリム。

 でも、演技だって分かってるからね。


「だって(疑惑)だったんでしょ?」

「うぐっ……もぉ! バーカバーカ! ジェイドのバーカ! 私だって、ジェイドのこと、大好きなんだからね! 責任取りなさい!」


 こんな僕で良ければ。美紗も大きな丸作ってるし。

 心の中を読めるなら、僕のこと、そんなに好きになる訳無いと思ってたけど、物好きも居たもんだね。


「……それ、公にしたらジェイド、滅ぼされちゃうんだからね? ほんとーに、気を付けなさいよ」


 大丈夫。フーリムにしか言わないよ。


「……またそんなこと言って……」


 だって、本音で話せるのは、フーリムだけなんだから。


「……ふんっ! そーゆーことに、しといてあげる!」


 そう吐き捨てるように……頬を赤らめながら、去るフーリム。

 だから去る必要無いんだってば。


 フーリム、聞こえてるでしょ?


 あ、美紗の隣に移動した。


 二人して、僕に卑しい笑みを向ける。

 どっちが魔王なのかな?


 テンテンとシッシが、揃って前に出てきた。


「私、ジェイド様の、妾に。子、孕めないこと、分かったので。ジェイド様、気の向くままに」


 テンテンもサラッとすごいこと言うなぁ。

 でも、お願い事を聞くと言った手前、あと美紗が二重丸を掲げる手前、断ることはできないので了承する。

 大丈夫、まだ僕は頑張れる……。


「ボクは、次期インキュバスの王、その地位の約束を」


 シッシは現実的なお願いだね。

 なんか、やっとお願いらしいお願いを聞いたような?

 僕としても文句無しなので、頷いて了承する。


「テンテン、シッシ。これからもヨロシクね」


 二人は恭しく礼をして、奥に消えていった。


 だからさ、僕の隣にいても良いんだよ?


 僕が文句を口にする前に、ドラン、フラン、サランのドラゴン親子が目の前に跪く。


「フランも、ジェイド様との子供ちょーだい。成龍が安定するまで、できないみたいだけど……。それでも欲しいの!」

「私の願いは、フランと挙式をしていただくことでございます。フランの幸せを、第一に願いましょう。私の願いは、すでにたくさん叶えて頂きましたので」

「妾も、これ以上は望みませぬ。それでもと仰るなら、ドラン同様にフランの幸せを願いますのじゃ」


 フランは予想通り。

 ドランとサランは控え目だね。

 つまり挙式を派手にあげろということかな?


 美紗は……三重丸を作っている。


 フランは僕が守ろう。約束だ。


「その願い、ちゃんと叶えるよ」


 僕がこう言うと、3人揃って龍化し、空を旋回し始めた……。


 敢えて何も言うまい。


 視線を目の前に戻せば、ノウン……と、ブレンが居た。


「……あたしもっ、ジェイド様との子供っ! それだけで良いからっ! 母ちゃんは余計なこと言うなよなっ! ジェイド様、スキッ!」


 ほっぺにチューされた。


「ふああああああ!」


 そして叫びながら走り去った。


 遠くから、ジェイド様のほっぺやわらかぁ! と聞こえた気がしたけれど、気のせいということにしておこう。


 美紗も片手で小さい丸作ってるし。

 もう片手? 鼻を抑えてるよ。なんでだろうね?


「ブレンは?」

「願わくば、娘のハレ姿を」

「手伝ってよ?」

「ムフフ、何なりと。むふむふ」


 何考えてるのかは、敢えて聞かない。


 そして、ブレンは僕の横に留まるようだ。

 え? なんで? と一瞬思ったが、去る者に問わず、留まる者に問うのも変な気がしたので、一旦堪える。


 次はギリだね。


 やって来たギリは無言。


 僕の言葉を待っているように見える。


 だから、僕はギリ専用に用意した巻物風の俸禄を魔法で広げ、読み上げる。


「ギリ・ウーラよ。此度の戦、文句無しのMVPである! よって、事前に受けた願い『個室キッチン』の詳細を此処に記した! 確認のため、読み上げる!」


 チラッとギリを見る。

 口角が上がりそうなのを必死に堪えている。

 僕も読み上げ甲斐が有りそうだ。


 四ツ口IH、ガスコンロ、オーブン、レンジ、自動調理器、瞬間湯沸器、炊飯器、トースター、冷蔵庫、冷凍庫、保冷庫、ワインセラー、燻製器、圧力鍋、他付属品多数。


 読む毎に、ギリの手に力が入り、最後の物を読み上げ終えた瞬間、ギリは拳を高く掲げた。


 それに、全世界が拍手し、称える。


「時期は素材が揃い次第、近い内に行う。最優先事項として取り掛かるから、期待しててね」


「恐縮でございます!」


 思わずギリの声にも力が入ったね。


「ギリちゃん」


 ん? ブレンがギリに手招き。

 ギリも首を傾げながら、僕の横に来る。

 なんで? どうして?

 ギリと僕だけなのかな?

 何にも聞いてないよ。一緒だね。

 そんなに嫌そうな顔、しないでほしいなぁ。


 そしてやってきたのは、料理長ラナと魔王ムーちゃん。

 と、言う事は、ラストはミシェリーか。


「私、ミシェリー総司令と一緒なの。2番手で良いの。ジェイド様、あとは手筈通りに」


 え? 待って。手筈通りって、何だっけ?


「ワタシも一緒ぴょん。3番手で良いぴょん。料理長ラナの作戦と根回しには呆れ……いや、さすがというべきぴょん。よって、3番手でも甘んじて受け入れるぴょん。あとはジェイド様、お任せしますぴょん」


 待って。そして、思い出せ。

 何があった?

 何かあった気もする。


 ラナと最後に話したのは……勇者ああああから逃げ回っている時だったはずだ。


 ……あ、何か聞いたかも……。

 息も絶え絶えというか、ギリが伝説の勇者だったこともあって記憶が曖昧なんだよね。

 テンションの浮き沈みが激しかったから。


 そんな言い訳通用しないのは分かってる。


「ここまでは手筈通り順調……。任せて……ね」


 僕の額に冷や汗が滲む。


 ごめん、ギリ。そんな冷たい目で見ないで。僕は裏切り者じゃない。どっちかというと、まだギリの味方だよ。


 むしろ、ここからが、問題だ。

 

 僕の全てを懸けて臨まないと、全世界に僕のヤラカシが露見してしまう。


 ヒントが欲しい。


 僕の願いは、世界に通じたようだ。

 日頃の行いのおかげかな。


 ミシェリーが、純白のドレスに身を包み、僕の前……いや、ギリの前にいたから。


 あ、そう。ふーん、そーゆーこと。なるほどなるほど。


 僕はチラッとギリを見る。


「……綺麗だ……ハッ」


 ギリが僕の視線に気付いたようだけど、僕の方が反応が早い。

 僕は何食わぬ顔でミシェリーを見ている。


 ギリもギリだよね。

 もうちょっと大きな声で呟けばミシェリーに聞こえたのに。


 僕のサポート、いるぅ?


 いや、二人の背中を押すのは、上司であり魔王である僕の役目……。むしろ任せてもらおう!


「私、ミシェリー・ヒートは……ジェイド様に……ふぅ、ふぅ……ギリ・ウーラとの結婚を! 認めていただきたい!」


 いきなり言ったぁ!

 世界中で、歓声が沸く。

 なぜ!?

 ギリはともかくミシェリー……結構内政知るために外遊してたっけ……。


 あ、いけないいけない。


 僕が答えなきゃ。ギリ固まってるし。


「良いだろう、と、言いたいところだが、こればかりは両者の合意が必要だ。それは分かるな? ミシェリーよ」


 料理長ラナと魔王ムーちゃんを見る。

 ヨシッと合図してくれた。

 この調子で行くとしよう。


「……はい!」


 ミシェリーの目が強い。

 確固たる意志と信念……そして愛を感じる。


「さて、ギリ・ウーラよ」

「はひぃ!」


 なっさけない声出しちゃって……。

 まぁ心情は理解しよう。


「返事だ。今すぐ、答えよ」

「ぐっ……」


 今すぐという言葉を聞いて、何かを飲み込んだギリ。

 ギャラリーの女性陣からイイネサインが飛んでくる。


「私……私は……」


 ギリがすごく悩んでいる。

 俯いて、両手を握り締め、歯を食いしばり、思考する。


 そして、前を向いた。


 その目は、澄んでいた。


 答えが出たんだね。


「ミシェリーとの結婚を認めてもらう? だが断る!」


 おやおやおやおや?


 世界が、え? で止まっちゃったよ。


 ミシェリーは、膝から崩れ、ペタンと座り込む。


 ギリが、ミシェリーの前に立った。


「ふざけるな! ミシェリー・ヒート! 私は、ジェイド様に認めてもらおうが、認めてもらえなかろうが、結婚してやるに決まっているだろう!」

「ふぇ?」


 おーっと! そのパターンですね!?

 みんな、撤収するのはまだ早いよ!

 むしろ出遅れるよ!


 ギリは膝を付き、ミシェリーの手を取った。


「しかもだ。なぜ先に言われねばならん。宴が終わった後にと思っていたものを……。世界を巡って、ようやく見つけたものだ。これを」


 ミシェリーの左手薬指に、赤が強めの宝石がついた指輪が嵌められる。


「愛している。ミシェリーよ。私と、結婚してくれ」

「……はい!」


 えんだあああああああぃやっほぉう!


 僕だけではなく、世界から祝福の嵐が飛び交う。


 固唾を呑んで見守っていたギャラリー陣営も、ホッと胸を撫で下ろし、手を叩いて喜んだ。


 僕もはしゃぎたいところだったけど、魔王だからね。


「おめでとう、ミシェリー。そして、ギリ」


 僕は声を掛けながら、二人に寄る。


「ギリ、神剣オーマテリア」


 ギリに二言。

 ギリは、首を傾げながらも、神剣を僕に渡した。


 すかさず錬金術を起動する。


 すると、剣は消え、僕の右腕が戻った。


「僕を除け者にしようとした罰。没収でーす。僕も二人の幸せに混ぜて欲しかったな。でも、男前度合いはコッチが上だけどね」


 そんなー。という顔をするギリだった。


「そやろ、ジェイド様。だって、ウチの旦那は『伝説の勇者』やからな」


 おっと、ミシェリーに一本取られたよ。


 幸せにね。


「料理長ラナ、魔王ムーも、お幸せに」


 蒼のドレスに見を包むラナと、黒のドレスに身を包む魔王ムーが現れ、ギリを胴上げしている。


「なぜ私がぁ! ぅおわぁ!」


 主役なんだし、しょうがないでしょ。


 拍手喝采の中、僕は静かに玉座に座る。


 それと同時に、皆が一斉に跪く。


 いや、ただ1人、美紗だけは、僕に向けて歩いていた。


 そして、美紗は僕の前に立つ。


「最後は、みーくんだ。みーくんは、どんな願い事を、叶えてほしい?」


 僕の呆気に取られた顔が、世界に放映される。


 まさか、これを仕組んでいたのかな?


 でも、僕は笑った。


「はははっ。ざーんねん。僕の願いは、すでに叶えられているよ。少しだけ、身の上話をしよう」


 僕は美紗以外知らない昔の話をする。


「僕は生まれつき、病を患っていてね。17歳で死んだ。そして、魔王となった。17年、人間の産まれてから17年だ。僕はまともに外を出歩くことすらできなかった」


 僕は続ける。


「誕生日会は、お別れ会だった。美紗と出逢って、少し変わったけれど、皆が心から笑い、心から楽しめる日々を、誰よりも憧れた」


 そして、僕は笑う。


「その憧れた世界が、今ここにある。皆が笑い、皆が未来に心を踊らせる世界が、ここにある。僕の願いは叶った。いや、叶えている最中だ」


 僕は、不敵に笑う。


「僕は魔王として、たくさん笑って、たくさん生きて、寿命まで生きて、そして死ぬ。それが僕の願いだ。文句があるやつは掛かってこい。魔王ジェイド・フューチャーの名に懸けて、正々堂々と勝負してやる」


 そして世界は震えた。

 でも、僕に近しい人達は、みんな笑って頷いてくれた。


 ふふっ、ありがと。


 僕の目の端っこに、小さく光るものが、見えたとか、見えなかったとか。


「最後に、今の言葉が嘘偽りなきことであると証明しよう! ステータス・フルオープン!」


 僕は世界にステータスを掲げた。


ジェイド・フューチャーLv4000

力:100(防御貫通) 魔力:10000(+100000000)

『超』『魔王』『?』『称号スキル使用時覚醒』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕キ穿ツ者』『核魔法Lv2024』『星ノ眼』『超未来技術Lv3293』『解体新書Lv3090』『未来○』

感情ステータス:皆に感謝を


 おっと、もしかして、まだまだ何かあるのかな?


 でも、しばらくは、何もない平和な日々が続くって信じてるからね。





ーーーー Norinαらくがき ーーーー

四界統一編、これにて終了です。


こんなところまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます。


次回は、まだほとんど書き進んでいない次編への伏線。

1年後の後日譚を書かせていただきます。


よって今回は、野暮な事は書きません。


良かったね! ギリ、おめでとう!

他のみんなも、お願い叶えてもらって良かったね!


皆さん、ジェイドくんに叶えてもらいたい『お願い』はなんでしょう?


Norinの願い? 次回までに考えておきます!

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