33Endless2

 目が覚めたのである。


 ここは……教会?


 あー、ジェイドとミサの結婚式をした場所で――。


「ぐあっ! 頭が、……ググッギギッ!」


 とんでもない頭痛である。

 飲み過ぎでも、この痛みはあり得んのである。


 少し、部屋で休んで、最悪ジェイドに回復魔法を頼むのである。


 あまりジェイドに頼りたくは無いが、そうも言っていられない痛みである。


 誰かに遭遇したら、肩くらい貸してもらおうと思ったが、誰も通らんのである。


 我は、足を引き摺りながら、普段の10倍の時間をかけて、真っ暗な自室に帰る。


 そして、ベッドに倒れ込む。


「ぐえっ! 誰であるか!?」


 小生意気な娘の声が聞こえるのである。


「いや、ここは我のベッドである。誰だか知らんが退けるのである。とんでもなく頭が痛い。できればジェイドに遣いを頼みた……い……」


 灯りを点けられた。


「どうして、我が……」

「我が二人?」


 どちらからとも言えぬ発せられた言葉を最後に、頭の中がグッチャグチャに掻き乱されて、包丁で何度も頭を突き刺される感覚に飲み込まれながら、意識を失った。


ーーーー ???? ーーーー


 目が覚めたのである。


 ここは……教会? 私は、誰で――。


「しっかりするのである! 我は『時』の勇者、ウーサー・ペンタゴンである! ステータス・オープン! ヌギキッ」


 ミキサーで頭の中を掻き回されるような頭痛に叫んで耐え、ステータスを開く。


ウーサー・ペンタゴンLv1000

力:20000 魔力:60000(+60000)

『時』『勇者』『時魔法使用時覚醒』『未来予知(✗)』『プラチナ・ザ・ワールド』【時を翔る白兎】


「ふっざけるなぁ!」


 再使用可能になった未来予知が使用不能になっており、『時を翔る白兎』が、発動しているのである。


 何があった!?


 ジェイドやミサ達と考察した結果、『時を翔る白兎』はタイムリープ系のスキルである可能性が高いのは理解していた。


 ただ、大問題として、記憶の欠落が生じているのである。


「未来予知が使用不能になる上に記憶の欠落まであるのは想定していないのである」


 とにかく、早く、ジェイドに……。


 もう一人の我に会う前に……。


「オゥエエエエ……」


 ぶちまけてしまったのである。


 ただ、なんだコレは?


 吐いた中身は昨日の宴のものではない。

 真っ白な、白濁の液体? 粘性が高いようだが。

 臭いは……うぐっ……我の胃酸と混じって最悪であるな。


 ええい、まずは何が起きているのか把握せねば。


 その前に、少し疲れたのである。


 我は起きたばかりのはずなのに、ぐったりと、教会の椅子で眠ってしまった。


「さすがに寝過ぎたのである。今20時か?」


 ステンドグラスから朝日が差し込んでいたはずなのに、すでに真っ暗となってしまった。


 手元の時計で時間を確認し、異様に暗い魔王城を歩く。


 月明かりがあるので、真っ暗という感じではなく、むしろ明るいのだが、なぜ全ての照明が落とされているのか。


「……さすがに腹が減ったのである」


 警戒しながらも、食堂に辿り着く。


 何もない……料理が無いだけで、携帯食料はある。


 ジェイドのおかげで携帯食料も、味がマシになった。


 備蓄用の水を取り、腹を満たす。


 久々にまともなモノを食った気がする。昨日、宴だったはずなのに。


 庭園に出る。

 静か過ぎる。


 本当に、何があったのであるか?


 よく見れば、庭園の花壇が荒らされている?


 背丈の高い花が多かったはずだが、ところどころ、穴が出来ている。


 何か大きなモノでも放り込まれたのであるか?


 確認するため、光魔法を起動する。


 光の魔法が照らしたモノ。


「……ジャック?」


 絶命したジャックが横たわっていた。


 死んでいることなど、見れば分かる。


 腹から臓物を引き摺り出され、目は見開き、苦悶の顔を見せたまま、時を止めていたから。


 他の穴も確認する。


「ドラン……こっちは、ネイであるか……」


 ポンやロドラも、この花壇に捨てられていた。


 真相を知るために、行くしかあるまい。


 唯一の明るい場所を見上げる。

 それは謁見の間であった。


 信じられないくらい、我は冷静だったのである。


 もちろん『時を翔る白兎』は、我が死ねば発動する。それに頼るしかないと、頭で理解したからである。


 真実を知り、歴史を変える。

 

 そのために、この世界で、我は死ぬ。


 決して、無駄死にではない。


 そう、考えていた。


 ただ、理解が及ばなかったのである。


 なぜ、記憶の欠落があるのかを……。


 謁見の間で見たものは、凄まじかった。


 とても、口に出せるモノではない。


 言い表すには、我の言葉では足りんのである。


 それでも、無理矢理、言葉にするのなら。


「複数のジェイドが、女供を陵辱……なぜ手足をもぐ必要がある……。それに――」


 あれは? 我か?


「マズッ!? ……頭痛が無い……互いに認識しなければ平気なのであるか?」


 我なのかよく分からん小柄な女が、両目にナイフを突き立てられ、手足を縛られて宙釣りにされ、下からジェイドに突かれていた。


 死体程度なら何とも思わんのであるが、ハードなモノは気分が悪い。

 アレを自分がされたなら、記憶の1つや2つ飛んでも当然である。


 だが、この世界の自分と邂逅して自己崩壊するようなあの感覚と比べれば随分とマシである。


「ちゃんと……助けてやるのである。いや、助からぬ世界に言うのは酷であるな。ちゃんと、助けられた世界に導いてみせるのである」


 我は怒りを噛み締めて誓った。


「そろそろ時間だねぇ? グッバーイ! ノース・イートォ!」


 午後9時ジャスト。


 ジェイドは気分良く核魔法を起動した。


「『プラチナ・ザ・ワールド』起動!」


 我は世界の時を停めた。


 停めたところで出来ることは無い。


 魔力の消費量がバカみたいに多く、緊急回避の手段の一つでしかない使えぬ称号スキルである。


 今はそれでも、この称号スキルが使えることに感謝する。


「こんのバカジェイドがぁ! アレだけ『状態異常無効化』があるから大丈夫とほざきおって! このザマはなんだぁ!」


 本体らしきジェイドの無駄に魔王な股間を蹴り上げ、頬をグーでぶん殴り、延髄蹴りを喰らわす。


「必ずや! 我が! このウーサー・ペンタゴンが! きっさまの伸び切った鼻を圧し折って、勇者らしく、世界を丸ごと救ってやるのである! 救った後は覚悟しろ! このウーサーに、頭が上がらぬ程に、徹底的に、オシオキしてやるのであるからな!」


 殴る蹴るの暴行を加え続けるも、時を停めているためノーダメージである。


 それでも、少し我の心がスッキリした。


 これで、ようやく始まりである。


 必ず皆を救う未来を掴み取ってみせるのである。


 だから、皆よ。


 もう少しだけ、待っているのである。


 そして世界は動き出し、核の業火に、身を消された。




ーーーー Norinαらくがき ーーーー


実はハードモード突入でした。


ここらへんのために暴力描写、性描写有りにしております(今回はマジ)


いわゆる鬱展開。


どこまで続くか?


お察しの良い方は分かるはず。


それまで、勇者ウーサーの視点で、ご観覧あれ。


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