18-1魔王の本質

ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 アイシテルミッツの丘の麓で、新しい大きな天幕が張られ、円卓にみんなが座っとる。


 にしても、表彰式からトンデモ展開やな。


 いきなしステータスフルオープンって、どーゆーことかとおもーたわ。


ジェイド・フューチャーLv2112

『超』『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『木?魔法(装填完了)Lv1961』『星ノ眼』『超??技術Lv2022』『?体新?Lv1850』

力:10(防御貫通) 魔力:10000(+1000000)

感情ステータス:????


 ちなみに、ジェイド様のステータスこれな。


 もう感情ステータスも『????』で読めへんとか、フルオープンの意味無いやん。

 ジェイド様でさえ意味も分からん状況で『????』になっとる訳やないやろうし。


 それですぐに緊急会議が始まったんやけどな。


 ウチもフーリムも、顔を上げられへんのよ。

 真っ赤な顔して、両手で顔を塞いどる。二人揃ってな。


「ミシェリー、フーリム、どうした?」


 でもな、それジェイド様が聞くぅ?


「先程の通達にショックを受けているのだろう」

「しかしウーサー、二人とも耳が赤……」

「ジェイド……それくらい察せ」

「あぁ、うん。ごめんね、ミシェリー、フーリム」


 何か変に気ぃ使われたんやけど……。

 まぁええわ。

 ある意味間違ぅてないもんな。


 どーゆーことやて?


 決まっとるやん。


 さっきの通達。

 異界との戦争がいきなし始まるっちゅーそれ自体は驚いたけど、ジェイド様がドッシリ構えとる限り心配なんか何もあらへん。


 ただな、問題はその後のジェイド様の心の中や。


 フーリムが『真詠』でジェイド様の心を見たんや。

『魔王の系譜』がジェイド様にしか読めへん言語やったからな。


 でもな、ジェイド様の心の中、どうなっとんねん。


 ウチの目の前にある冊子には『極秘』の文字。

 赤々しい殴り書きはウチの字。


 見せられへん。

 ジェイド様のためにも、公には見せられへん。


 魔王軍はおろか、人魔連合軍の士気に関わる内容やもん。


 でもな、ジェイド様にはウチとフーリムの前で朗読してもらうで?


 ホンマ、覚悟しときぃや!


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 ジェイドが『対サウス・マータ』の作戦を立案して皆で協議しているけれど、全く頭に入って来ないわ。


 なぜって?


 全て……うん。

 目の前の赤丸極秘ノートのせいね。


 重要な内容は勇者達が記録していたから問題無いんだけど、コレに何が書いてあると思う?


 『魔王の系譜』が記した文字だけじゃないのよ。

それ、たったの1割だからね?


 残りは全部、ミーシャ・ヴァーミリオン、『黄昏』の勇者への『愛』が書かれているわ。

 読み上げている間は暗号か何かだと思ってたもの。


 ねぇ、ジェイド。

 あなた、ミーシャを殺すって言ってなかった?


 どう見ても、好き好き大好きラブラブチュッチュなんだけど。

 他に要約しようがないんだけど。

 思い出すだけで顔から火が出そうなんだけど。

 今なら私、高位の火魔法を取得できるんじゃない?


 はぁーあ。ジェイドにこれだけ愛されるなんて、『黄昏』って何者なのよ。


 羨ましい。正直、ちょっとだけ……ううん、すごくね。


 でも不思議。

 そのミーシャに、殺意だけはちゃんと持ってるのよね。

 今ですらよ?


『ドローン戦になる可能性はある? そのためにはどうしても数が必要。1から設計するにしても、生産ラインは? 錬金術で可能だとしても半導体やら何やらの材料はある? あったとして、こっちもまだ用意できる? できないとして、最悪ミーシャを速攻で殺すしかないけど、隠れた場合どう捕まえる?』


 どう見ても本気なのよ。


 愛しているけど、殺すじゃない。

 愛しているから、殺すじゃない。


 愛と殺意が独立している感じね。

 まるで2人にそれぞれの感情を向けているみたい。

 ミーシャって二重人格なのかな?

 それなら納得だけど、そうじゃないと思う。


『僕が乗り込めるなら行くか? でもその場合、こっちの指揮をどうする? 現代戦の下準備は整っている。でも、誰に指揮を任せ……』


 ジェイドの視線を感じるわ。

 指の隙間から、チラッと見る。


 思いっきりコッチ見てる!?

 見つめちゃヤーダ!


『ねぇフーリム、本当にどうしたの?』


 ジェイドのせいよ!


『まぁ良いや』


 良いんかい!!


『フーリム、僕がいない間の僕の代わり、人類魔王連合軍の総司令……はミシェリーと被るからダメか……んー、魔王代行、よろしくね?』


 は?


 へ?


 ちょっとまっ……。


『だいじょーぶ。フーリムってセンスあるから。これから僕の思うこと、全力でメモ取ってね』


 わたし、なにも、かんがえず、死ぬ気で、メモ、取った。


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 作戦会議と言うが、実態は遅めのランチを取りながらジェイドが立案した作戦の調整となっている。


 テキトーな内容であればすぐに文句を言ってやろうとしていたが、それも無いのである。

 ネンキーン王や四天王ギリですら、何かあれば物申してやろうという顔をしていたのに、黙るどころか食い入るように聞いているのである。


 と言うか、ギリよ。その姿は何なのであるか?

 誰がどう見てもコックではないか?


「仕方あるまい。料理長だけでは手が足らんと、給仕の手伝いを命令されてしまったからな。今は料理長以下メイド部隊で回せるようになったので会議に参加するが、味に不満があるなら言え。対応しよう」


 そう言いながら茶菓子とミルクティーを出してくる。


 ランチの後のデザートであるが、これも美味いのである……。

 料理上手とは本当であるのか。

 

 ジェイドも満足そうであるな。


 そしてジェイドの話は続く。


 主戦場をこのアイシテルミッツの丘とし、実質本陣を棄てると開口一番に言われた時こそ紛糾しかけたが、詳細を聞いて納得したのである。


 異界のゲート設置場所をアイシテルミッツの丘とし、出現と同時に地脈から得られる魔力防壁に閉じ込め、飽和攻撃を行う。


 これを第一フェーズ。


 飽和攻撃への対抗措置が取られ始めたら陣地防衛開始。基本的には罠で足止めを行い、その間に遠距離攻撃を行う。


 これが第二フェーズ。


 罠を完全に突破、もしくは看破された場合は、敵をアイシテルミッツに押し込めて防衛を行うが、基本的には撤退戦を継続。

 その後、アイシテルミッツの地脈魔力領域を出た場所で本格的な防衛戦を開始。


 これが第三メインフェーズ。


 異界の勇者共がどういう連中かは知らんが、人類の軍隊を数に言わせて侵攻してこようものなら、百万単位の死者が出るのである。


 極めつけはジェイドのトンデモ魔法がある。


 ステータスフルオープンで見た限り、その魔法はすでに再装填済み。


 囲って、一撃。

 それで終わりである。


 なんなら、敵地に乗り込んで、その一撃をお見舞いしてやれば良いのである。


 ククッ、慌てふためく異界の勇者が手に取るように分かるのである。


 って、これでは悪の大幹部ではないか……。


 一応、聞いておくのである。


「ジェイド、1つ聞く。融和は無いのであるな?」


「無い。『黄昏』がいる時点で、万一の可能性すら無い」

「根拠は? 我々にできているのなら、『黄昏』抜きで融和はできないのであるか?」


 ジャックが驚き、キレーヌ様も苦々しい顔をし、ルナはうんうんと頷く。


 皆、気にはしていたようであるな。


「異界の勇者から、そのような伝言があったか? 無いなら、そういうことだ。サウス・マータの勇者は、ノース・イートの勇者と融和を結ぶより前に、我が陣営を襲った。それで十分だろう? それとも何か? やはり、軍とは言え、人だ。殺すことに躊躇いを感じるか?」


 我は目を閉じて考えるのである。


 そして、そうだ、と頷く。


 普通は、そうなのである。


 ジェイドは違うのかもしれないな。


 四天王の一部が、この期に及んで、と言いたげな顔で一斉に立ち上がるが、ジェイドが制する。


「ウーサー。気持ちは分かるよ。できることなら、僕だって人間を虐殺なんてしたくない。誰が好き好んでそんなことしなくちゃいけないのさ。でもね、やらなきゃ、やられるのは当然として、実は向こうも一緒なんだよ」


 ん? 向こうも同じ?


「相手は人間。こちらも人間。雇われの用兵や宗教に染まった人間じゃない限り、人間同士の戦いになれば必ず躊躇する。それは向こうも同じで、向こうも分かっている」


 ジェイドは一呼吸おいて、再び魔王口調で語り出した。


「つまり、サウス・マータの勇者共は、人間を用いた軍隊の運用をまともにできん。今までの話は、それこそ対傭兵・強制された奴隷等の軍隊における話だ。おそらくだがサウス・マータの勇者どもはすぐに来る。それぞれの得意な戦法を用い、単独ないし少数連携でな」


 ジェイドが魔王の笑みを浮かべていたのである。


「よって、これよりの説明が戦術の本質だ! 我が『対黄昏』、他の者は最低二者一組で『五人の勇者』に当たれ! テンテン!」


「は、はひぃ!」

「テンテンはシッシと共に、異界のゲートから湧いて出てくる雑魚を徹底的に殲滅しろ。お前の裁量で好きにして構わん」

「さーいえっさー!」

「それから……」


 その時であった。

 世界に響くチャイムが鳴ったのは。

 

 ピンポンパンポーン。


 なんだこの気の抜けたチャイムは……。


『警告します。サウス・マータより、異界ゲート設置依頼が届きました。24時間以内に、ゲートの設置をお願いします。繰り返します……』


 しかし、これは間違いなく宣戦布告である。


「は、早過ぎる! ついさっきの今だぞ! まだ作戦の協議も進んでいない上、準備もできていない! こんな中で戦争を始めれば被害甚大ではないか!」


 ギリが頭を抱えて叫ぶ。


 しかし、すぐに気付く。


 誰もギリのように叫んでいないのである。


 そして、ギリは見た。


 我と同じく、その目線の先にいる魔王ジェイドへ。


 つくづく思う。


 お前を敵にしなくて良かったのである。


 それ程までに、魔王ジェイドは、極悪で全てを恐怖に陥れる笑みを浮かべていたのだった。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

魔王軍、心の叫び(ミシェ&フーリム&フラン&テンテン以外):ジェイドさま、ふつうにしゃべったぁぁぁあ!?


その時のジェイドよ、心の中を述べよ。

ジェ:フーリムにメモ取らせたけど、意味無くなりそう。ごめんね。

フー:ゆるさなぁあああい!


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