シツレン本屋サン

ねじまきねずみ

シツレン本屋さん

青葉あおば〜!化学のノート貸して。」

「もー!どうせ授業中、寝てたとかでしょー!」


高校の教室で、一ノ瀬いちのせ 青葉あおばはツンとした態度で丹羽にわ 修平しゅうへいにノートを手渡した。

「俺が書くより青葉のノートの方がわかりやすいんだもん。字もきれいだし。」

そう言われたら青葉も悪い気はしない。

「“もん”て…」

(ちょっとかわいいって思っちゃったじゃん…)

ノートを借りると、修平は自分の席に戻っていった。


「ほんと、仲良いね〜。」


青葉のそばで、山下やました 咲良さくらは二人のやりとりにクスクスと笑った。

黒いボブヘアで活発な印象の青葉とふんわりとしたロングヘアでほんわかした雰囲気の咲良は親友同士で、休み時間はいつも一緒に過ごしている。

「あれは仲良いっていうか利用されてるっていうかぁ…」

青葉はボヤくように言った。

「でも青葉、いつもかわいいノートにカラフルなペンで女子力高めなノートにしてるでしょ?」

「…まぁね」

咲良は青葉の気持ちなどお見通しだ。

「でもいつも本当にかわいいノートだよね。どこで買ってるの?」

「駅前の本屋さん。何気にかわいい文具が多いよ。」

「本屋さんかぁ〜。本屋さんて情報が多くていいよね。あそこはマンガもいろいろ置いてるし。」

「咲良って最近マンガ好きだね。」

「うん。」

咲良がどこか照れ臭そうに頷いた。

「最近何がおもしろかった?」

そう聞かれて、咲良が答えたのは青年誌に連載されている少し残酷なものだった。咲良のイメージとは乖離がある。

「そんなの読むんだ〜意外すぎ。」


(ノート買い足しに行かなきゃ。)

放課後、青葉は駅前の本屋に買いに立ち寄った。

(そういえば、新刊発売してるかも。)

「あ…」

青葉がコミック売り場に向かうと、修平がいた。手には咲良が好きだと言っていたマンガの1〜3巻。


(なんだ…そういうことか。)


(ほんと、本屋さんて情報多すぎ。私には情報過多なくらい。)


「咲良は4巻が好きって言ってたよ。」

「え、何言ってんだよ、山下とか関係ねーし。」

そう言いながらも、修平は4巻と5巻も手に取った。


(咲良が最近マンガ好きなのは歳上の彼氏のせいだけどね。)


(私のこと利用したヤツには教えてやんない。)

青葉は心の中で“ベー”と舌をだした。


(ま、失恋したら慰めてあげてもいいけどね)


(ノート買って帰ろ。)



fin.

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