第30話 急変

「ずいぶんと一方的だったな」

「そうですね。あれは何と言うか、ぶざまでした」


 テルトナとシスター・リニが、先ほどの黄金の双樹のカロラッタと深淵の道化師のヴァルキュアの決闘の感想を言い合っている。


 二人の言う通り、結果はヴァルキュアの一方的な勝利だった。ナマス切りにされたカロラッタはボロボロで他の黄金の双樹のメンバーに迷宮の外へと運ばれて行った。


「しかし、タイミングが悪いよな」

「何か言ったっすか? レキの兄貴」

「いや、外には深淵の道化師の戦利品を一目見ようと民衆が集まってただろ。そこに黄金の双樹の副ギルドマスターが、ズタボロになった姿で出ていく訳だからな。当然決闘の噂だって広まっただろうし。黄金の双樹にとってはかなり痛手なんじゃないか」

「確かに。ざまあないっすねー」


 シジーも当然黄金の双樹には含むところがあるのだろう。


 ──シジーは、彼らのせいで死にかけた訳だしな。


「さて、みな。そろそろ気分を切り替えるぞ。そろそろモンスターが定期ポップするエリアだ」

「はい」「うっす」「わかった」「ばうっ」

「シスター・リニも。よろしいですね」

「はい。お願いします」


 ◆◇


 結果から言えば、全く危なげがなかった。

 ただ当然、改善点はいくつも出てくる。何せ始めての連携なのだ。逆に改善点が見つからなければ困るぐらいだ。


 俺は十分満足のいく結果にほっと胸を撫で下ろす。シスター・リニに視線を送る。

 軽い頷きが帰ってくる。


「みな、それじゃあ今日はここまでにしよう。出来たら迷宮を出たあとに今日の反省会をしたい。予定があって無理なものはいるかな」

「飲みっすか!」「いいですね」「肉あるならいく」「ばうばう」

「いや、そこは真面目に打ち合わせを……」

「バクシーさん。私は構いませんよ」


 うちのギルドの女性陣だけではなく、スポンサー枠のシスター・リニまで飲みたいらしい。

 俺はがっくりと項垂れながら、告げる。


「わかった。しかし、酒量はほどほどにしてくれよな」


 皆の歓声。


 その時だった。迷宮の奥の方から何か音が聞こえてくる。ごーという、これまで聞いたことの無いような音。


 俺の足元にいたガルナタタンがその音に、びくっと身を震わせたかと思うと、急に吠え始める。

 緊急を告げるように。

 吠え声に、焦りと畏れが混じっている。


 次の瞬間、迷宮に激震が走った。

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