第12話 朝ごはん
「ああ。生きてる。俺はいま、生きている──」
口いっぱいに満ちる、肉汁。空腹の体の隅々まで、旨みが染み渡る。
俺は朝市の屋台で買った肉の串焼きを、一口一口、味わうように食べていた。
「ばぅ」
足元の影から、小さく鳴き声がする。
「ガルナタタンの分も買ってあるぞ」
そういってしゃがみこみながら片手の肉串しを一本、足元に近づけてみる。
「ばぅばぅ!」
ガルナタタンの喜んでいる声。影から顔先だけにゅっと飛び出している。
思わず周囲に人目がないか確認してしまう。
幸い、屋台の近くの物陰で、誰もこちらを見ていなさそうだった。
大人しくこちらを見上げて、自主的に待てをしているガルナタタン。影から尻尾が出たり入ったりしている。どうやら中でブンブン振っているようだ。
「よし」
俺の小さな掛け声に、ガルナタタンは肉串しにパクリと食い付き、影へと引っ込んでいく。
──ガルナタタンは賢いな~
俺はそんなことを考えながら、食べかけだった肉串しを、あっという間に食べ終えてしまう。しかし抜かりはない。反対側の手にはもう一本、買っておいた肉串しが残っている。
いさんでそれに取りかかろうとした時だった。
背後から、きゅるきゅるきゅるという、可愛らしくも主張の激しい音がする。
明らかにお腹の鳴る音。
普段の俺なら無視しただろう。
しかし、ガルナタタンの姿を見られたかもという心配から、思わず首だけ回して後ろを見てしまう。
それが運のつき。
じーとこちらを見ている視線と目が合う。
──あれ、この娘。たしか……
それは知り合いというのも微妙な感じの相手。
「えっと、この前のシジーの同居人の方?」
「あっ。どもです。ミリサリサいいます」
「はぁ、どうも。俺はレキ=バクシー」
話をしている間にも鳴り続ける、きゅるきゅるという音。そしてその瞳は俺の手に握られた肉串しを凝視している。
俺は試しに手にした肉串しを、そっと左右に動かしてみる。
手の動きに合わせて、視線ばかりか首ごと左右に動くミリサリサ。
よく見れば、だいぶ痩せている。髪もどこかパサパサとしているようだ。ただ、とりうる最小限の栄養で最大限、体は鍛えているのだろう。芯の強さは感じられる。
──シジーと似た境遇か、それ以下の生活水準ってところか。この様子だと、肉串ししか目に入ってなさそうだな。
「シジーの様子は、どうかな?」
「はい。この前は送ってもらってありがとです。シジーは大人しくしてます」
「そうか。お見舞いにいくと、迷惑かな」
「……どうでしょ?」
俺も面白くなって手を止めないものだから、ミリサリサは返事をしながら首を振り続けていた。
──女性二人のシェアハウスだとしたら上がり込むのは迷惑、か。
「そうだ、お見舞いの品を届けてくれる?」
「はいです」
「じゃあ、そこの屋台で肉串しを買ってくるね。ミリサリサさんも良かったらシジーと一緒に食べて」
そういって、まずは手にしたままの肉串しを差し出してみる。
パッと花が咲くように笑顔になるミリサリサさん。
「シジー、よろこぶと思うですっ!」
俺の両手を握るようにして肉串しを受けとるミリサリサ。その様子をみて、先ほどガルナタタンを思い出してしまう。
俺は思わず苦笑をこぼしながら、肉串しを追加で購入しに屋台へと向かった。
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