武装目黒書店

スロ男

誰何

 人は本のみにて生くるものにはあらず、と物の本には書いてあるらしいが本当にそうだろうか。本を読むことによってかろうじて生きながらえている人は多く、彼/彼女らの命を繋ぐため我々はこうして略奪者を迎え撃とうとしている。


誰何シーカー>の警告音が不審な存在の先にあることを報せ、輸送車に先導していた俺と「犬」は手信号で運転手と後方を護るに合図を出し、小走りに先へ進んだ。

 内乱の跡を感じさせない鬱蒼としたここは、かつては緑の多い公園だったと聞く。元からある草木が何割を占めるのか、単に草木が生い茂りやすい環境が残されてただけなのか俺は知らない。

 そういう物の本はないからだ。

きじ! ぼやっとすんな!」

 犬の声に頭を下げると姿勢が崩れて転がってしまった。青臭い匂い、じめっとした土を頬に感じ、転がりながら立ち上がって利き足で脇へ飛び跳ねる。特に音もないが弾けて飛んだ何かの気配を感じた。

 膝立ちで銃を構えた犬の後ろ姿が見えて俺は安堵した。奴が動きを止めているということは、つまり仕留めたということだ。

誰何シーカー>からの二次警告はなかった。


「おまえはいつも危なっかしい」と犬。後衛にいた<結束バンド>と交代して気楽な調子だった。「しかし、まあ、おまえが派手にすっ転んでくれたお陰で敵の位置もまるわかりだったがな」

 輸送車がトロトロと走るのは我々に速度を合わせてのことではない。単にそれ以上速度が出ないのだ。荷にはぎっしりと本を積んでいることもあるが原動機がかなりの旧式で大きな負荷をかけられない。

 自然、護衛も散歩の調子になり、後衛ともなれば「ピクニック気分」(物の本で読んだ)だ。殿しんがりを護る、というような気負いもない。<誰何シーカー>は後方も見守っている。輸送車もいざとなれば我々もろとも敵を振り切れる(走り切れるかは別問題)。

「もう『本屋』に着くぞ」

「ああ」

 前方にそびえる黒鉄くろがねの城——


 目黒書店だ。

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