第14話・ちょろい刑事?
その後、白鳥という名の珍獣をどう懐柔するか考え込んでいると、
「晴くんってマメなんだね」
白鳥は俺の部屋を見渡しながら感心する。
「脱ぎ捨てられた服もないし、シンクには食器も溜まってない。自炊もしっかりしてるし、埃もないし」
「なんだ、いきなり。今度はなにを考えてるんだ、珍獣め」
「泉水ちゃんったら、天才かしら。超優良物件を掘り出してしまった」
「……言っておくが、明日には出てくんだからな」
念押しのために言うと、白鳥は、
「晴くん」
「……なんだ」
俺は身構えながら白鳥を見る。
「決めました。ここに腰を据えるわ」
白鳥は真顔で言う。
「なに勝手に決めてんだよ。詐欺師を住ませるわけねーだろ」
「ふぁ、眠い。さっ、今日はもう寝よ、晴くん」
「勝手に話を終わらせるな」
言ったもん勝ちにはさせない。
「大丈夫! 怖いのは最初だけだから。もう全部お姉さんに任せちゃいな! 私がリードしてア・ゲ・ル」
「気色悪い言い方をするな。どうせあとは私の色気で落とすのみ、とか考えてんだろうが、俺はお前には惚れない」
「嫌よ嫌よも好きのうちってネ」
「誰がこんな珍獣」
白鳥は、欠伸をしながら笑顔で俺を見た。対する俺は真顔だ。ペースがウザい。顔もウザい。
「話を聞け」
「晴くんも私と寝たらきっと気も変わるさ。もうヤミツキになって、他の女の子と寝れなくちゃうよ?」
とりあえず話だけでも噛み合わせよう。どうやらコイツは自分のしたい話しかする気はないらしい。
「先に言っておくが、お前はソファだからな」
すると、白鳥は信じられないものを見る目で俺を見る。
「……なんだその目は」
「嘘でしょ? 一緒に寝ないの!? ひとつ屋根の下にこんな可愛い美少女がいて襲わない!? 晴くん、ほんとに付いてんの?」
クソ。殴りてぇ。
白鳥は俺のそれに視線を落としてくる。
「その顔と視線やめろ。大体その発想がまず有り得ねーよ」
「まぁいいや。それなら、添い寝してあげる。泉水ちゃんがタダで添い寝するなんて、世の男性が羨ましがるよー?」
「メシも寝床も用意してやってるのになにがタダだ」
「……小さい男はモテないよ?」
やれやれと肩を竦める白鳥。
「お前、喧嘩売ってんのか」
すると、白鳥はあろうことか舌打ちをした。
「晴くんてば、大卒の女みたいにガードが固い」
「布団はこれ。これで文句があるなら」
「ありがたやー」
白鳥は素直に来客用の布団を受け取った。
「じゃあ俺はもう寝るから。変なことしたら、深夜だろうがどんな格好だろうが外に放り出すからな」
「うい」
とりあえず珍獣は大人しく寝ることにしてくれたらしい。
「ようやく寝れる……」
時計を見ると、現在時刻は二十三時。
――カチッカチッカチッカチッ。
……眠れねぇ。
あの女が気になって眠れねぇ!
マジで寝てるのか? イタズラとかしてねえよな!? 納豆パックごと炒めたりしてねぇよな!?
クッソ。俺がここまで乱されるなんて……!
いや、落ち着け。さすがに珍獣といえど疲れは溜まるはず。今日はかなり衝撃的な出来事が詰まった一日だったわけだし、白鳥とて疲れて眠いだろう。
「……寝よ」
そう言い聞かせ、目を瞑ろうとしたその瞬間、視界の片隅で、もぞりとなにかが動いた。
「……よし」
暗闇の中で小さく聞こえたのは、もちろんアイツの声。
「……よしじゃねえよ、クソが」
パチリと電気を付けると、
「あれ? 気付かれた!?」
案の定、白鳥がベッドに忍び寄ってきていた。
「なに勝手に人の部屋入ってきてんだ」
「夜這いに来たよ。既成事実を作っちまえばこっちのもんだと思って!」
「素直にぶっちゃけんな!」
俺はなんでこうも学習しないんだ……。コイツは規格外。白鳥をそのままこのうちで寝かせようとした俺が間違ってたんだ。
「……わかった。白鳥、そんなに言うなら一緒に寝よう。こっちにおいで」
その瞬間、白鳥の頬がポッと赤くなる。そして、嬉しそうに飛び込んできた。
「よし」
捕まえた。もう離さねぇぞこの野郎。
「やん。晴くんてばスイッチ入ったら情熱的なタイプ? ……って、ん!? ちょ、なにしてるんだい!? 晴くん!?」
俺は白鳥をぐるぐるに布団で縛り上げ、床に転がした。
「ふん。一緒に寝たかったんだろ? このままお前はそこで寝ろ」
そう言って、俺は白鳥を軽く蹴っ飛ばし、部屋の隅に追いやった。
「ぴぎゃあっ!? ひどい! 晴くんの人でなし!」
「はいはい。そんじゃ、おやすみなー」
俺はひと仕事終えると、欠伸をひとつしてベッドに潜り込む。
「むぐぐ……快楽責めすれば絶対堕ちると思ったのに……」
「お前の考えることは大体分かってんだよ。つか、しつこ過ぎんだよ。キモいっつーの」
「キモっ……!? それは女の子に使う言葉じゃないよ!」
「あぁ、たしかに女の子には使わないな。お前だけに使う言葉だ」
俺は白鳥に背中を向けながら、適当に言葉を返す。
「くっ……この童貞チキン野郎」
「なんだとこの野郎。もういっぺん言ってみろクソ女」
「晴くぅん。泉水ちゃんひとりじゃ怖くて寝れないよぉー」
「口と鼻も塞ぐぞ」
「死ぬね、それ。刑事さん」
「殺されたくなかったら黙れ」
「きゃんっ!」
俺は布団を白鳥にぶん投げると、そのまま寝た。
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