一冊から始まる物語

ザイン

第1話 キッカケ

キーンコーンカーンコーン


学校の終わるチャイムが鳴る。門の前に立つ教師に別れの挨拶をして家に帰る生徒達。その中を少女は誰にも気づかれることなく立ち去った。


少女は人付き合いが苦手だ。人が本音と建前で生きる生き物ということを思春期ながら理解している。


故に常に相手のことを疑ってしまい、そんな自分が嫌でいつからか人と距離を置くようになった。


そんな少女は学校が終わるといつも他の物には目もくれず一直線に向かう場所がある。


自宅…………ではない。別に嫌いな訳ではない。両親は一人娘である少女を大層可愛いがり、愛情を注ぎ続けている。少女もそんな両親のことが大好きだ。


大好きだが故に、卑屈になった自分が申し訳無くてなるべく1日の中で両親と顔を合わす時間を短くしている。


本当は両親と沢山話したい。今日の出来事。思いで話。将来の事………沢山話して愛情に応えたい。


しかし少女はそれが出来ない。その愛情すら建前であり本音は別にあるのでは………そんな負の感情が頭を過ぎってしまうのだ。


故に少女は悟られない程度に両親とも距離を置いている。


実際のところ両親は少女の思惑に気がついているかもしれない。当然だろう日頃の変化を見逃さない程少女のことをよく視ている2人だ。自分達と少女の間に僅かな溝があることを知っているかもしれない


それでも変らぬ愛情を注いでくれる両親が、少女には重荷であった。



いつもの場所についた。自宅から歩いて5分の場所にある小さなお店。そこには雑誌や経済本、漫画や絵本、よくわからない巻物までそこにしか無いのではと思うような本が店内一面に保管されている。


「いらっしゃい」


レジ前に座るお婆ちゃんはいつものように少女に声をかける。少女はいつものようにお辞儀をするとゆっくり店内を見回る。


「今日は何を読もうかな………」


少女はお婆ちゃんに感謝している。実際に購入するのは2週に1度あるかないかだ。にも関わらすほぼ毎日のように訪れる少女を邪険に扱うことなく微笑ましく自由に読ませてくれる。


何十分、何時間いてもだ。休みの日には閉店時間までいて何も買わなかった時もある。けどお婆ちゃんは


「いつでもおいで」


と少女がここに居ていいと受け入れてくれる。


それが少女にはとても嬉しい。こんな図々しい自分を受け入れてくれるお婆ちゃん。夢中の時は声をかけて来ないから自分の世界に没頭出来る唯一の場所。それがこのお店なのだ。


店内を見回る少女はふと見慣れない本に気がついた。


「『浪漫飛行』………初めて見る」


ほぼ毎日通っている少女にとって、その本は異彩を放っていた。


その本はぎっしり詰まった本棚から外れ、ポツンとテーブルに置かれていた。


気なった少女は手を伸ばす。すると誰かと手が重なった。


「〜〜〜〜〜!?」


「あっ、すんません」


その手の主は学校でいや少女が住む町中でも有名な悪ガキであった。

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