不老魔術を施した見た目少女は、学園で恋をする。
結里
第一章 出会い
第1話 かわいい妹に頼まれたら断れない
◇
「はぁ? 私が学園の教師???」
「そうです、お姉様。ぜひ私の学園を盛り上げてくださいませ。」
目の前にいるこの子はこの王都王立魔術学園 理事長 エレナーデ・ルシエンという。私の妹だ。まぁ、第三者から見れば、私の方が妹だろうと言われるだろう。それだけ私たちの見た目の年齢は逆に見える。エレナの見た目の年齢が25歳くらいだとして、私の見た目は良くて18歳、普通に見れば15歳の小娘なのだから。
「盛り上げると言ったって、私は研究の虫だから、教師には向いてないと思う。」
「もちろん、心得ておりますわ。まぁ、教師に向いてない云々は、お姉さまには適性があるとは思いますが、それは別に今はいいでしょう。話の腰が折れてしまいます。」
「もうすでに折れてるでしょ。」
「お姉様、本題なのですけれど、最近の魔術師のレベルは昔と比べてはるかに弱いのです。十傑の魔術師以外の魔術師だけでは国を守れなくなりつつありますの。」
十傑の魔術師とは……
魔術の分野で新たな発見をした者や、国を守った精鋭、魔術を極めし者など魔術に関することで、実績がある者のことを言う。魔術師になる者で、十傑の魔術師を知らない者、憧れを持たないものはいないだろう。それくらいに有名で謎な人物たちだ。ここ数百年、十傑の魔術師に代替わりはなかった。人類にとって永遠の憧れであり、永遠の壁とも言われる十人。ただ、十傑と呼ばれるには並大抵の努力、実力、年齢ではたどり着けないため、全員が変人偏屈だ。そのためなのか、十傑の魔術師全員の顔と名前が一致することはほぼない。|(例外を除くとするなら、十傑の魔術師同士のみ)。十傑の魔術師の1人は誰もが知っているほど有名なのだが、他の九人は現世には滅多に現れないか、現れても誰もその人だとは思わないほどである。
話を戻そう。
「魔物の活発・活性化、でしょ?」
昔は弱い魔物だったと言われていた魔物が、今は2人がかりで倒すようになった、とか。おとなしかった魔物が人を襲うようになったとか。危険度が増したと言うことだ。
「山奥に暮らしてるお姉様が、最近の情勢は把握しているとは思いませんでした。」
びっくりした顔のエレナを見て、私は顔を顰めた。
「エレナ、あなた、私をなんだと思ってるのよ。」
「魔術研究の虫ですわ。」
「自分で言うのと他人が言うのじゃわけが違うわね。」
自分で自分を貶すのはいいが、他人に貶されると地味に傷つく。
「それはどうでもいいですわ。それよりも、なぜ魔物の活性化したのかはもちろん調査対象ですが、この程度であれば昔ならば十傑を頼らずとも国防も調査もできていましたわ。」
十傑は大昔に国を守っていた十人の魔術師、もしくは先代の十傑の知識と技術を受け継いだ子孫か弟子、らしい。世間一般的にはそう言われている。その遥か昔からその十人は高い技術力はあったが、十傑に数えられない魔術師も現代と比べればかなり質が高い。できないということはつまり、今はそれだけ弱いということだ。
「現状、できるほどの人材が少ないと。」
「えぇ。ほぼいないと言っていいほどですわ。できるのはこの学園の卒業生でも一握りのものだけ。」
王都王立魔術学園
それはある人物が魔術を広めて技術力を高めるため、後進を育成するために作り上げられた、現存の世界の中で最高の研究施設だ。魔術に適正があれば、どんなものでも受け入れる。とは言うが、受け入れ人数には上限があるため、入学は難関なのだが。それゆえに年齢は問われない。おじいちゃんになってから入ってもいい。受かれば、な。
必然的に生徒の質が高くなるため、教師の質も高くてはならない。しかし、現在の情勢を考えると、優秀な教師とやらは国防を担うため、教師の数も足りない、らしい。どこも人手不足とはエレナ情報だ。
「へぇ、世界最高峰の学園であるここの卒業生でも、一握りだけなんだ。」
「そうなんですの。わたくしが理事長ながら、情けない話ですわ……」
「仕方ないじゃない。エレナは理事長職以外にも国防に駆り出されたり、魔物討伐の遠征、云々カンヌン、色々忙しくやってるんでしょ? 手が回らないのも無理ないわ。」
「転移魔法を駆使しても、手が足りないなんて……わたくし、泣きそうですわ……」
人手不足がすぎて、だろうな。
「わたくしも魔術の研究がしたいですわ!!!!」
おそらくこっちが本音に一番近いだろう。
「切実だな。」
「うわぁん! お姉様ぁ! お助けくださいませぇぇ!! 可愛い妹にお慈悲をぉぉぉ!!!」
自由時間がなさすぎて自分の時間が無くなり、ストレスが溜まってるんだろうなぁ……
この子が恥を飲んでここまで私にお願いをすることも珍しい。基本的に私が嫌なことはあまり頼んでこないし、自分でもできるから頼られることもあまりない。お互い、知識の共有などで支え合うことはあっても、助け合うことはなかった。
でも、ここ数年、自分の時間が取れなかったことを考えると、よく今まで耐えられたものだ。この子も私ほどじゃなくても研究大好き人間だから。似なくていいところまで私に似たんだよな。
「他の人を頼ってほしい……」
「もうそれは抜かりなく! もう頼みましたわ!!」
「結果は?」
「全滅ですの!」
胸を張って言うことじゃない。
「あいつらぁぁ!!」
エレナの頼る知人ということは、私の知人でもある。つまり、よく知ってる奴らなのだが、まぁ、あいつらが学園の教師なんて引き受けるわけないよな。予想はしていたのだが、腹が立たないわけではない。それはそれだ。
「はぁ、私の好きにしていいなら、引き受けたくないけど、受けてあげるわ。」
「本当ですの?!」
「可愛い妹のためだもの。今まで我儘を通してきてもらったからね。」
「ありがとうですの!! お姉様大好きです!」
「はいはい。」
エレナの頭を撫でてあげると、子犬のように尻尾をブンブン振った。|(そんなものはないけど。)
それからはこれからの日程などを伝えられて、終了した。
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■■■
姉、グレナ・ルシエンが学園から去ったのと同時刻の理事長室では。
「よろしいのですか、理事長?彼女は部外者では……」
「……お姉様に頼むのは、わたくしも躊躇したのですけれど……そうも言ってられそうもなく……でも、お姉様なら、この現状をどうにかできるのではないか、そう思っていますの。もう、お姉様だけが人類の最後の砦なのです。」
「理事長がそこまで言うほど、彼女は強いのですか? 申し訳ないのですが、実際見た感じでは、彼女は第伍階梯ほどでは?」
「今はそうでしょう。ですが、本来のお姉様であれば、わたくしなんかよりもずっとずっと強いですわ。それこそ、わたくしの人生を賭けても、お姉様には追いつけません。当然ですわ。わたくしが十の知識を身につける間、お姉様であれば百の知識を身につけますの。追いつくどころか、先を行ってしまうので、追いかけるのも大変ですわ。」
「理事長より強いとなると、第零階梯になるのですが……」
「えぇ。そうですわ。お姉様は昔、第零階梯にいた魔術師ですの。とにかく、お姉様の実力はわたくしの折り紙つき。心配無用ですわ。」
「(そのような方がなぜ第伍階梯ほどにまで落ちて? というか、まさか彼女は……)」
その予想が当たることになるのは、まだ先の話。
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