竪黄泉書店

神在月ユウ

竪黄泉書店

「ん?こんなとこに本屋あったっけ?」


 暇を持て余して散歩していたら、古ぼけた書店に気付いた。

 入り口はガラス戸で、ほんの六畳ほどのスペースに四つの棚が並べられているだけの、駄菓子屋のように小さな書店だった。中は薄暗く、外から差し込む光が唯一の光源だ。

 興味本位で中に入る。

 棚にはハードカバーがびっしりと収められている。

 その中の一冊を手に取り、読んでみる。









『はれわたるそらのような、こどもたちの、むじゃきなえがおは』





『やってきた、のらのこねこに、そそがれた』





『くりくりまんまるの、ねこのおめめに』





『にっこりわらう、こどもたち』





『げっそりやせた、こねこなので』





『てにしたおかしを、あげました』










「なんだこれ?」

 一ページの中央に一行ずつ、平仮名で書かれている。

 内容がよくわからないし、全文が平仮名のせいでかなり読みにくい。

 平仮名なのは子供向けのせいなのかと思ったが、絵本にしては挿絵もないし、装丁が少し物々しい感じがする。










『たくさんあそんで、つかれたね』





『ままのところに、かえりましょう』





『しょうがっこうの、かえりみち』





『いつものみちを、わくわくと』





『がっこうがえりは、ぼうけんだ』





『とびだしちゅうい、こうさてん』





『らんどせるは、おもいけど』





『わくわくしていて、つらくない』





『れいぞうこの、なかにある』





『るびーのような、いちごがあるから』









「わけわかんね」

 文脈の繋がりがおかしいと思う。

 何かの文学?

 それとも詩集?

 子供だってこんなの面白いとは思わないだろうし、こんなものがあと何ページ続いているんだ?

 ちょっとした辞典のような本の厚さに、思わず眉間に皺が寄った。










『あしたはどれだけ、たのしいのかな』





『くびをながーく、まってるよ』





『またあした、あえるかな』





『にくきゅうぷにぷに、たのしみだ』








「あれ?」


 ふと、周囲が真っ暗になり、


 意識が、途絶えた。






 書店にまた一冊、本が追加された。

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