本屋

あそうぎ零(阿僧祇 零)

本屋

 高校の同級生で友達の石渡いしわたが、隣町の本屋にあるという、自分の寿命が分かる本を見に行こうといって聞かない。

 仕方がないので次の日曜日、石渡に付き合ってその本屋、「未来堂書店」を訪ねた。


 中に入ってみると、ほとんどが古書だ。

 奥に座っている店主は40歳代くらい。ごく普通の感じの人だ。

「寿命が分かる本があると聞いて来ました。その本はどこですか?」

 石渡が店主に尋ねた。

「SNS見たの? 時々そういう人が来るけど、売り上げには結び付かないんだよね」

「雑誌、買いますから」

「それは有難いね。その本は、これ」

 店主の隣にある机の上に、分厚くて大きな古本ふるほんが1冊置かれている。

「『廣大辭典こうだいじてん』といって、戦前に出版された最大の辞典。現在では、全国に2~3冊しかない。編纂に関わった専門家は、皆不審死を遂げたらしいね」

「どうやって寿命を知るんですか?」

 石渡が、待ちきれないように尋ねた。

「簡単さ。目をつぶり、好きなページを開いて指差す。そのページ数の、下1桁と2桁目を掛け、下3桁目と4桁目を掛ける。そうやって出した二つの数字を足す。それがその人の寿命だという。私は信じていないがね」


大木おおき、お前からやれよ」

「ああ、分かった」

 開いて指差したページは、「5797」だった。

「98歳か。ヤッター! さ、石渡の番だ」

 ページを指差して目を開けた石渡の顔が、さっと曇った。すぐに、ページを閉じてしまった。

「今のはなしだ。もう一回やってみる」

「それはできない。チャンスは1回だけだ」

 店主の表情は、先ほどとは打って変わって、何やら険しいものとなっていた。


 書店からの帰途、僕は石渡に、単なる遊びだから気にしないよう話したが、石渡は終始浮かない顔だった。


 翌日、朝食をとりながら何となく見ていたテレビニュースで、駅ホーム転落事故を告げるアナウンサーの声が耳に刺さった。

 死亡した被害者の名前は、石渡だった。


《完》


 


 

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本屋 あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

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