7歳児青年のいざなう古本屋(月光カレンと聖マリオ12)

せとかぜ染鞠

第1話

 三條さんじょう公瞠こうどうに手をひかれて古本屋へ入った。客も店員も好奇の眼差しを長身痩躯の青年と修道女へむける。

 自分を7歳児だと思いこんでいる三條は修道女に扮した俺を叔母だと見ている。叔母が甥によく買い与えていたのか,新しい古書・・を買ってと駄々をねられ,彼を古本屋につれてくる破目になった。

 俺さまの正体は世紀の大怪盗月光カレンであり,離島に降臨したシスター聖マリオでもある。そして三條は月光カレンの宿敵であり,聖マリオの信者でもある。彼の記憶に問題の生じたのは俺のせいだ……

 月光カレンは聖マリオの顔を捨てようと決めた。視力の不自由な娘キヨラコに教会を継がせ,旅へ出ることにしたからだ。ところがキヨラコは竜宮島での視力回復手術後に自らの両眼を傷つけ,身投げした。

 竜宮山の噴火に伴う地震のために竜宮島は海底に沈み,キヨラコはまだ見つからない。

 噴火に巻きこまれた俺は三條に救出され,教会のたつ離島まで帰りついた。三條が意識のない俺をかかえて海を泳いだのだ。

 俺が浜辺で目覚めたとき,今度は三條が気絶していた。三條を教会まで運び,介抱してから,逃避の準備を急いだ。三條が正気を戻すまえに姿を隠さなければ面倒な事態に発展すると予期された。だが大捕り物で鍛錬された巡査の身体は屈強だった。黒髪を乱し青褪めた表情で立つ三條を認めたとき開きなおることにした――そうさ,月光カレンと聖マリオは同一人物なんだぜ。

 三條は挑みかかってくるだろう。いや絶望のあまり脱力するかもしれない。いずれにせよ身構えた。

「あああ~ん!」仰むけに転がり四肢をばたつかせる。「僕ちゃんをまた置いてくの!」

 医者に診せたところ,三條の記憶障害が判明し,奇妙な共同生活がはじまった。

「買って!」高みから視線を落とし,幼い口調でせがむ。

 その手にある帳面を見て愕然とする。俺がキヨラコと過ごした日々を綴った日記帳の1冊だった。

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