人類の叡智の結晶

@curisutofa

人類の叡智の結晶である空間にて

『私達は非常に贅沢な空間に立っていると感じます』


大都市にある老舗の本屋にて、新刊を一冊手に取り率直な感想を述べた私に対して。同じ学び舎で共に勉学に励む善き学友でもある友人は、いつものように柔和な笑みを浮かべまして。


『その通りだよね。生まれた時から本屋さんがあるのが当然な環境でボクは生まれ育ったけれど、必要とする正確な知識を得られる様々な本を売るお店の存在は、本当に大切で有難いよね♪』


柔和な笑みを浮かべながら話した、生まれも育ちも大都市の善き学友に対して。新刊を手にしている私も微笑みながら頷いて同意をしまして。


『本屋の無い世界は文明社会とは呼べないと私は考えています。文明社会の維持に少しでも貢献をする為に、この新刊は購入させて頂く事にします』


人間は当然だと考えていたものを失ってから初めて、存在の貴重さに気が付く過ちを歴史上幾度も繰り返して来たのは、本から学んだ重要な教訓の一つです。


『人間は短い生涯の間に自らが経験出来る実体験には限りがありますけれど、本から学べる知識は無限に近いと私は考えています』


同い年の学友である私による、老成しているとも感じられる言葉を愉快そうに聞いた彼は。


『ボクもそう思うよ。年長者の方の人生の経験談は、人類の歴史全体から見れば極めて短い期間の断片を切り取ったに過ぎないから』


私達のような若輩者に対して、善意から助言を行われる高齢者の皆様方に対しては、辛辣にも聞こえる善き学友の見解ではありますけれど。


『賢者は歴史から学びますけれど、愚者は経験から学んで失敗を重ねるのが、世の常ですからね』


『高齢者の皆様方は、何故かよわいを重ねられると、御自身が経験された人生だけは特別だと思い込む方々が多いけれどね♪』


『完全に同感ですね』


そう友人に対して話しますと、本屋が一軒も無い為に一冊の本を手に入れるのさえ苦労して来た地方部出身の私は、本を購入する為に会計へと向かいました。

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