本屋ドロボウ〜我が書店は、異世界で聖地となった〜

ヤギサ屋

Prologue 盗まれた本屋

街中によくある古本屋ってあるじゃん。

誰が買いにくるんだろう、、、的な感じのさ。


「はぁ〜ぁ」

・・・俺ん家がそうなんだよ。


本! 本! 本!


日焼けして黄ばんでるし! 埃っぽいし! たまに染みとか付いてるし!


部屋中に沢山の本が、そこかしこに積んであるのが日常で、生まれてからずっと、俺は本に囲まれて生きて来たわけ。


かといって、本が好きになる訳でもなく・・・。

逆に嫌悪感すら湧いている。


整理整頓できない奴が古本屋なんて開いちゃダメなんだって。

両親は壊滅的にそっちのパターンで、、、、。


俺は小5の時、ハウスダストに耐えかね、店内の誇りを一掃し。

中3の時、自分の部屋への快適な通路を確保すべく、大量に床に置き去りにされていた本を棚に入れ。

高2の時、バラバラだったジャンルをルビを作り整理した。


大学生になった今は、なぜか店の切り盛りまでするようになってしまった。

講義がない時は、店番で家の本屋の奥で息を潜めている。


買いにくるのは、大体が街をぶらついているおじさんばっか・・・。


「はぁ〜ぁ」


大学生になったら、お洒落カフェとかでバイトして、可愛い女の子と出会って、ウハウハしたかったのに・・・。


「はぁ〜ぁ」


本なんか嫌いだ。と言いつつ、憎き本を今日も読みながら店番をする。


今読んでいる本はこの間、派手な服装をした目の青い女の子が店に売りに来た本。

全然、読めない変な文字で書かれていて、ネットで調べても作者名はおろか、どこの国の出版かすら検索で出てこない。

もしかして、お宝か?

絵本かと思うくらい挿絵が多く、キラキラしたインクで見た事のない街並みや生き物が描かれている。

ページをめくろうとする。と、なかなか張り付いていて、めくれない。


「くそぉ・・・」

売るつもりもなかったので、強引に開いてみた。

すると、中から口の付いた大きな袋が飛び出して来た。


「うわぁー!」

俺はその袋に飲み込まれて、視界が真っ白になった。

真っ白な視界の中で、店の本達がバサバサと羽ばたいているのが見えた。

本が飛んでいる。


「は? え? どゆこと?」


羽ばたいている本達を、先日来た青い目をした女の子が網を持って捕まえようと跳ね回っている。


「ねぇ! ちょっと! あんた何してんの?」


女の子は本を捕まえると、腰の鞄に入れていく。


「ちょっと! 家の本なんだけど!」


女の子が俺をギロリと睨む。

「あ〜ぁ、うるさっ! めんどくさっ! もういいや、丸ごと全部貰っちゃえっ!」

女の子がパチンと指を叩くと、地面が揺れ出した。


「何? え、何? 何したんだよ!」

「あなたの本屋、貰うわ!」

「貰うってどういう事?」


突然、重力がなくなったかのように、俺の身体は宙に浮いた。


「わ! わ! わ!」

女は立ったままだった。そして、女の背中から絵本に載っていたようなキラキラした羽が生えてきた。


「私は泥棒なの、鞄の中でせいぜい喚いてなさい!」

「な、な、な、どういう事?」

女がキラキラした粉になって消えていこうとする。

「俺は! 俺の店は! 本は! どうなるんだ!?」

「どうにもならないわ。欲しいって客がいたもんだから、そいつに売るだけよ」

「何を訳がわからない事を行って! こんなの人身売買だ!」

「は〜? あんたはこの店とセットの店員でしょ。要は、店の一部よ。店は人じゃないわ。じゃあ、もう会う事もないだろうから、さよなら!」

女は粉となって消えた。



それから暫くして、、、


ある時、ゴトンという音と共に、宙に浮いていた俺の身体は地面を得た。

そして浮いていた本や本棚達も、元の位置に戻った。


白い視界の奥から、眩ばゆい光が射し込んできた。

視界がくらみ、目を開けると・・・。



そこは、異世界だった。

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