ピザ宅配業者『RTA』の日誌

常闇の霊夜

誰より早く、誰より速く!


ピザデリバリーサービスは、誰より速くなければいけない。俺がバイトをしていた先輩の教えだ。俺はその教えを、今日も実践している。


「さ、今日も一日稼ぎますか!」


コレはそんな僕の話。


ピザデリバリーの朝は早い。電車に乗っている暇もない。仕方ないので電車より速く走って店に入る。先輩は最近飛べるようになったらしく、今日も一番ノリである。


「遅かったな」


「朝食を食べるのに遅れちゃいまして……」


「まぁいい、稼ぎ時なんだ、死ぬ気で働けよ」


「もちろんです!」


十時、受付のお姉さんが来たところで、本格的に仕事が始まる。まずはお客様からピザの配達を受けるところからだ。コレがまぁ難しい。なぜならほとんど全部受付のお姉さんが注文を取ってしまうからだ。


「あっコンマ単位で……!」


「はい、受け付けました。では今から五分以内に配達員が家に参ります」


「よっ、じゃあ俺行ってくるわ!」


僕と二人の先輩以外に、五人のバイトがいる。ピザは作り置きしているが、だからこそ早く運べるのだ。具材はペパロニとチーズの簡単な奴。でもメチャクチャ売れる。


「ここだ!」


そして、今日僕は一件目のピザの配達業務を受け取ったのだ。この業界は厳しい。先輩には上客がおり、もう一人の先輩は受付のお姉さんが贔屓している。自分には何もない。だから誰よりも早くなければならないのだ。


「注文承りました!五分以内にお伺います!」


注文を受けたら、すぐにピザバッグを手にして走る。今日の注文は東京→名古屋と言うまぁまぁの距離。と言う訳で秘策を使う。ビルとビルの間で壁キックを繰り返し、そして互いの壁にすぐ足が付くようになったら……吹っ飛ぶ!


「お届けしましたぁ!」


「うおっ!?ほ、本当に五分以内に来るんだな……」


「はい!そりゃもう全国どこでも五分以内に配達致します!それでは!」


今のはこの会社にいる人ならバイトでも使える技、速度をためて勢いよく吹っ飛ぶだけの、まぁ技と言う物ですらない。さて、簡単に配達できてしまったが、次なる配達場所が告げられる。


「次は宮城県です」


「分かりました!」


ピザは最大で一時間保温できる仕組みになっている。と言う訳で早速、近くにある池を使って地面を潜る。そしておもむろに盾を構えると、全力バック走。


「コレの精度も最近凄く行けるようになってきたからな」


速度を溜める時間と、吹っ飛ぶ時間を加味しても、全然余裕で五分以内にたどり着ける。家の前に来たので、素早くピザを温め、お客様に提出する。


「どうぞお客様!」


「最近は値上がりでどこもかしこも高いのに、よく値上げしないで頑張ってるわねぇ」


「ウチのモットーは早い!安い!旨い!なんで!それでは!」


さて、お次は東北から九州の熊本県まで飛ばなきゃねぇ……。ちょっと遠いかな。まぁ行くんですけど。よーし、じゃあ早速……。


「今回はアレで行くかな!」


今回使うのはよく見るアレだよ。ケツワープって奴。ここがアパート系の場所で良かった。こういう段差にケツをひっかけて……速度を溜めて吹っ飛ぶ!


「おぉっ凄い速度だ!」


中々正面に吹っ飛ぶ系の技は少ないんだが、コレは後ろに吹っ飛ぶ系の中でもかなり怖いよ!?だって速度がぶっ壊れてんだもん!まぁその分早いんだけど。


「ふぅ……。何とかかんとか……」


後一分で時間制限になっちゃうところだったよ……。危ない危ない。さて早速。


「お届けに参りましたー!」


「あっども。じゃ」


「はい!」


次はまぁ楽な方だよ、四国だからね。こう、グルグルする感じに回転移動でねぇ……。ちょいちょい幅跳びも組み合わせて……!メチャクチャ早く飛ぶ!


「コレが中々ちょうどいいんですわ」


四国に行くとなると、やっぱり海渡んなくちゃならんのが面倒だよなぁ……。最初からコッチに配達があればよかったのに。さてと……。海だねぇ。


「ま、海くらいなら余裕で飛んで行けるんだけどね」


海だって、案外飛ぼうと思えば飛べるんです。こう……、水切りってあるじゃん?アレだよアレ。あんな感じで飛んで行けば……。よし、四国上陸!


「愛媛ね愛媛」


この後は普通に飛んで行って終わり。簡単だね。しかしまぁ……、次北海道なんだよね。遠すぎだよね。


「でも北海道だけは遠すぎて別に行き場所があるから」


と言ってもワープがあるんです。ただ場所が最北端固定なんでちょっと文句を……、あぁいや今言う事じゃないか。


「そぉい!」


最北端だねぇ!こっから北海道の函館だからマジ遠いよ!しかし、雪が降っているのでそれ専用の技があるんだなぁこれが。スライダーってあるじゃない?


「足音すら残さず走る……。それが一番早い」


そろそろ函館!時間はもうすぐ!あぁもうちょっとで時間越えちゃうよ!


「っとぉ!このアパートね!」


五階まで……。真上に吹っ飛ぶ!屋上に着地、そのまま屋上から五階へ!


「お届けに上がりましたぁ!」


「マジで五分以内に来るんだなぁ……。あ、ありがとね」


ふぅ……。後はもう楽だよ楽。ただ帰るだけだもんなぁ!


「しかし俺が一番早く帰らなきゃなぁ!」


ドドドンと加速!えげつない速度が出るぞ!いやマジで。どっかにぶつかったら僕でも粉々だからな?マジで……。っと、はいもう直帰!


「配達終わりィ!」


「お、終わったか」


「あっ先輩!じゃあ自分早上がりしますんで!じゃ」


「はいよ。お疲れ」


そして家に帰って……寝る!これで一日終了!はい終わり!これで一日終了!じゃあね!

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ピザ宅配業者『RTA』の日誌 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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