俺が専属執事憑依する条件は、侯爵令嬢を幸せにすることだった!

生名 成

第1話罠に落ちた侯爵家

【前書き】

カクヨムには前書き欄が無いので冒頭でご挨拶させて頂きます。いつもご支援頂きありがとうございます。第一話から第三話までは三人称視点になっていますが、第四話から一人称視点になります。その後は主として一人称視点で、ときおり三人称視点が入るという展開になります。できるだけ読者の皆さんが混乱しないように書き分けるつもりですが、分かり辛い点が有りましたらご指摘ください。

今回は新作連載記念として初回のみ三話連続投稿です。どうぞ、お楽しみください。


『面白い、続きが読みたいと思われたら、レビュー投稿して頂くと作者の励みになります』

皆様のご支援に応えられるような作品にしていけるように頑張ります。今後とも、よろしくお願いします。




「罠に落ちた侯爵家」


 アルダン王国の王都アグル。その一等地にある貴族街の中に、格段に大きい屋敷がある。この国の重鎮ネイチャード侯爵家だ。第一王子の右腕と言われている大貴族だった。


その侯爵家を取り囲む一団があった。王国軍第一軍団の旗を掲げる兵士たちは、総勢二百人の部隊だ。長剣を携える者と槍を持つ者の二つの部隊に分かれていた。

「かかれ」

 部隊を率いる中隊長の号令で、兵士が屋敷に雪崩れ込む。侯爵家の門番はすでに捕らえられているので、屋敷内に異変を告げる者はいなかった。




 その日は、侯爵家の一人娘セシルの誕生日だった。広間では、15歳を祝う宴が開かれている。壇上にはテーブルと椅子が設置され、主のグド・ネイチャード侯爵と令嬢のセシルが座っていた。


グド・ネイチャード侯爵は金髪碧眼で、四十歳を過ぎているが体格が良い。正妻を早くに亡くしたが側室は迎えなかった。


 セシル・ネイチャード侯爵令嬢は15歳だ。フワフワとした金髪は肩の辺りで内側にカールしている。大きな目と小さな口、そして高い鼻が美少女と呼ぶのに相応しい顔立ちを作っていた。父親譲りの青緑色の瞳が、更に彼女を美しく見せている。


 侯爵令嬢の護衛を兼務する専属執事のルイが、令嬢の横で周囲に気を配っている。

執事にしては目立ち過ぎる身長は185センチもあり、鍛え上げられた肉体は70キロしかない。体脂肪はゼロに等しく、全身がほぼ筋肉という感じだ。


 廊下から慌ただしい音が聞こえてきた。

『靴音? しかも、これは軍靴の音だ』

 ルイは、聞こえてきた靴の音から屋敷内に異変が起こった事を察知した。

「お嬢様、旦那様と一緒に壁際に移動してください」


 ルイはセシルを促し侯爵と共に、二人を壁の方へと誘導する。その後、小さく「ブースト」と唱え、広間の入口近くにある丸テーブルまで一瞬で移動した。


 廊下からメイドの悲鳴が聞こえた。

直後に、両開きのドアが「ドカン」という大きな音を伴って左右に開く。腰に長剣を携えた複数の乱入者が、勢いよく広間に飛び込んできた。


ルイはテーブルの端を掴むと、乱入者に向かって鋭く投げた。テーブルは乱入者を巻き込んで、廊下へと飛び出していった。


 さらに、広間に雪崩込んできた者を見て、ルイが叫んだ。

「その軍装は王国軍か。王国軍が何用を持って、このような無礼を働くのか?」

一人の兵士が前に出る。被っている兜の上には、赤い房が垂れていた。王国軍の士官の証だ。

「アルダン王国第一軍団所属、王都治安部隊中隊長バルカだ。王命によりネイチャード侯爵を拘束する」


 ルイは、部屋に侵入してきた兵士を右へ左へと投げ飛ばした。相手が王国軍であろうと、主人に危害を加えようとする者を見過ごせないのが執事である。兵士たちはドアの近くで足止めされて部屋の中に入れない。

 苛立ったバルカが叫んだ。

「抵抗すれば屋敷に火をかけるぞ」


「ルイ、やめよ」

 侯爵の声を聞き、ルイは動きを止めて令嬢の所に戻った。侯爵は言う。

「抵抗はせぬ。王城に連れて行け」

『第二王子派もここまでするからには、入念に策略を練ったはずだ。下手に抵抗すれば、無理な理由をつけて危害を加えてくる恐れがある』

 ネイチャード侯爵は、そう考えて抵抗を止めた。

「侯爵閣下、失礼します」

バルカは侯爵の周りを兵士で囲み同行を促す。そして、広間から廊下に出た。


入れ替わるように入って来た兵士たちが、公爵令嬢のセシルを取り囲む。セシルは怖がって後退った。

 ルイは一瞬、セシルの前に出ようとしたが、侯爵の命令があったので動きを止めた。

 二人の兵士が両脇からセシルの腕を掴んで連行していくが、ルイは手出しができなかった。しかし、違和感が頭をよぎる。

『腕を掴んだ?』

その兵士たちの動きに、ルイは不信感を持つ。


王国軍の兵士は、絶対に貴婦人の体には触れない。平民である兵士が、尊い身分の女性に触れることは、王国の軍法で禁じられているからだ。ましてや、セシルは侯爵令嬢である。一介の兵士が触れていい相手ではない。


兵士の行動に疑問を持ったルイは、セシルが乗った馬車を影から監視する。 侯爵が乗った馬車の兵士に比べると、王国軍にしては統制がとれておらず動きも緩慢だった。大勢の兵士に囲まれた二つの馬車はゆっくりと動き出す。ルイは見つからないように、こっそりと後を追った。

 セシルを乗せた馬車が侯爵を乗せた馬車の後を追う。だが、暫く進んだ所で異変が起こる。侯爵を乗せた馬車が直進したのに対し、セシルを乗せた馬車が貴族街を出る寸前で、左に曲がったのだ。

『王城には真っ直ぐに行くはずだ。左に行けば貴族街の中を行くだけだが?』


馬車は少し速度を上げる。

しかし、ルイは身体強化魔法『ブースト』を使っていたので、問題なく後を追う事ができた。『ブースト』は、肉体の全ての能力を大幅に底上げする魔法だ。今のルイは基礎能力が数倍に上がっている。

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