第37話 |跳梁跋扈《ちょうりょうばっこ》(1)
跳梁跋扈
「奏白が住む高原が開拓される前は、人間が足を踏み入れることの無かった山奥だった。それが逃げ込んで来た身勝手な人間によって踏み躙られた・・・。」
それは、到底看過出来ない話だった。
人里から離れた広大な草原には甘い風が吹き、空には鳥が優雅に飛んでいた。鬱蒼とした森の中には勇壮な滝、何処までも透明で美しく澄み渡る川が悠々と流れ、イワナやヤマメが沢山住んでいた。
森に潤いを与え、植物は可憐で美しい花を咲かせ、動物たちは自由に穏やかにのんびりと自然のままに暮らしていた。穢れのない土地は妖精も住みついていた。まさに楽園だった。
そしてこの地を守っていたのが白龍であった。
白龍は美しい容姿に優しく穏やかな心でこの地の全ての者を愛し、守り、慈しみ、白龍も愛されていた。大自然の営みそのままに、長い長い時間見守り、これから先も変わらず見続けるつもりだった。
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それが突如として破られた。人里から人間が逃げ込んできたのだ。
その人間は邪教の祖であり、非道の限りを尽くしていた者だった。
男には何の因果か霊能力があった。霊能力は善き事に使えば善い神と繋がるが、邪悪な心が強ければ強いほど魔神と繋がる。男は間違い無く後者だった。
この地に逃げ込む前、邪教の祖である男は悪事の限りを尽くしていた。
自己中心的で傲慢で我儘で残忍、金と色欲に目が無く、饒舌で人を騙すことは日常茶飯事。
自分の意に反するものは躊躇なく排除した。魔神はそんな男に目を付け、力を貸すことにした。
魔神は強欲に満ちた人間を甘い言葉で唆し、欲を極限まで増長させてから食らう。その味は蜜の味がするらしい。そして被害に遭った人の怒り、悲しみ、苦しみ、憎しみ、恨みも大好物。これは魔神の力の元になる。
魔神は男に力を貸して人々を誑かした。まず男を神の代理人と名乗らせ、病気や怪我で苦しむ人を魔術で治して信用させた。奇跡を見せて布教し、信者を増やしていった。
そして信者となった者たちは強い催眠術と幻惑に惑わされ、正気を失って男の意のままに動くしかなかった。
神への供物だと言って高額の布施を要求し、払えない時には神の望みだと称して、全財産を差し出すように要求した。
財産が無い場合は、信者の男性は修行の一環だと云って過酷な炭鉱や金山で働くことを強要し、給料は全て男の元に入る仕組みを作り全て奪った。
奪い取った金で贅の限りを尽くし、信者で見目麗しい女性は愛妾として侍らせ、更に贅沢をする為に邪教を広め、高額の布施を要求し、使えなくなった者は容赦なく排除し続けた。
やがて、催眠術から目覚めた一部信者や家族が集団で奉行所に訴え、男の悪事が露見した。
奉行所は捕縛する為男の住む教団に向かうも、逃げた後だった。
魔神は信者の魂を食らい、闇の力を増強させた。
教団内部は信者があちこちで死屍累々たる有様だった。
男は山奥へ、山奥へ、とひたすら逃げて、たどり着いたのが白龍の守る地だった。
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