第16話 二人目の親友

二人目の親友




明日香が隣町のS音楽大学に入学して数ヶ月経った。専攻はもちろん”フルート”。

キャンパスライフは毎日楽しくて充実している。通学はバスと電車を乗り継いで行く。

友人も沢山出来て異種な楽器とのコラボを楽しんだり、国内外の有名な演奏家のリサイタルに行ったりして充実した毎日を送っている。


ある日私は講義に遅れる~!と全力疾走していたら、向こう側から歩いてきた女の人とぶつかり、その人の持っていた書類をぶちまけてしまった。書類だと思っていたものは楽譜で、ページが何枚もあった。私はひたすら謝りながら拾い集めて渡した。もう講義は遅刻確定である。


「ご、ごめんなさい!急いでいたので前をよく見ていなかったの。楽譜、全部揃ってる?」

「大丈夫。こちらもボーっとしてたからお互い様です。私は今年入学したピアノ科の如月結芽と言います。」

落ち着いた感じの人だなあ。でも私と学年一緒なのね。と思いながら

「フルート専攻の霧島明日香です。私も今年入学しました。宜しくお願いします。」

と挨拶した。


私が名前を名乗ると「失礼ですが、霧島美和さんの御家族ですか?」と聞かれた。

「母なんです」と答えたら急に顔色が青ざめた気がした。何か変な事言ったかな?と思っていたら、

今度は感激した様子で両手で握手を求められた。不思議に思いつつ私も両手を差し出した途端、

その手をガシッと握られブンブンと手を上下に激しく振って物凄い勢いで握手された。


「私、お母さんのファンです!」と満面の笑顔で言われた。

あまりの勢いに「あ、ありがとう。母も喜びます。」と引き攣った笑顔で答えた。

(落ち着いた人だと思ったけど、すごく熱い人だなあ。)

これが彼女の第一印象だった。


結芽は、黒髪ショートヘアにクリっとした大きな目、鼻が高くて小鼻も少し大きめ、唇は薄い。

知的で自立している女性のような印象だ。ピアニストらしく長くて綺麗な指。スタイルも良い。

スカートよりもパンツやジーンズを好んでいる。

一見近寄りがたいイメージがあるが、話をしてみれば明るく健康的で、サバサバした彼女の事が好きになっていった。



その後は専攻が違うので彼女とはあまり会わないだろうと思っていたのに、大学の食堂でばったり会ったり、レッスン室が隣だったり、街のカフェで会ったりと、もう運命としか言いようが無い位かなり頻繁に出会い、私達はその度に親交を深めた。


しかも好きな曲、演奏家、作曲家も見事に一緒だった事もあってお互い運命を感じ友達になった。



こうして二人目の親友が出来たのだった。



結芽とは将来家族になり、またピアノとフルートの名コンビとして将来人気になるなんて、この時はまだお互い知る由も無かった。



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